第43話 割れたっていいじゃない

「ああっ、『魔感受の仮面』が!」

 いきなり、二つに割れてしまった仮面を見て、カルは凍り付いている。


「何してるの~。そんな趣味の悪い仮面、割れたっていいじゃないの、さっさと行くわよ」

 エレンは、全くもって興味がない。

「何言っているんだ。教えただろ、この仮面で魔物の攻撃を察知していたんだぞ」


 カルにとっては衝撃であった。


 ……この仮面がなかったら、とっくに命を落としていた。

 ここまで、逃げ出さずにいれたのも、この仮面のお陰といっても過言ではないのだ。


 もう、魔力を感知することが出来ないと思うと、カルの心内は恐怖しかなかった。

 エレンは、どうでもいいらしく、出発することしか頭にない。

 一方で、マーレはカルの顔が見えるようになったので喜んでいる。


 カルは無言で仮面の片割れを拾い上げた。

 もう半分の片割れは落下した際にバラバラとなっていた。

 彼は拾った仮面の片割れを腰の袋に詰めると、切り替えるしかないと思い、腰に付けていた予備の仮面をあらたに被った。

 この仮面はジルセンセから貰ったものである。


 ジルセンセから仮面の効果を説明してもらったのだが、『魔感受の仮面』の印象が強すぎて、何の効果があるのか全く覚えていない。

 もしかしたら、顔を隠すためだけの仮面で効果は全く無いのかもしれない。


「何でまた仮面を着けるのよ~。そもそも、あの薄気味悪い仮面は、カルからの魔力供給が少ないから割れたんでしょ。その仮面も数日すれば、また割れるわよぉ」


「そ、そういうことか! 魔力感知するのに魔力が必要だったってことか」

「そりゃ、そうでしょ。魔道具なんだもの。カルの魔力量はゴブリン以下だもんねぇ。そりゃあ、魔力不足で割れもするわよ」

 エレンは、物事をはっきりと言ってくれるので助かる。


「そ、そうか、高価な仮面なのに、…割れた原因が俺だったなんて」

「物なんか、壊れるわよぉ。落ち込まないでぇ」

 

 原因が自分だと分かって、落ち込まない訳がない。

 カルは、衝撃の事実をつきつけられて最悪の面持ちで歩き続けた。


 マーレの言う通りに俺達は進んでいる。

 しかし、どうも腑に落ちない。

 なぜなら、下るケースが多いのだ


 エレンも不安になり、聞いて見た。

「マーレちゃん、本当に明るいとこへ出るの?」

「うん。綺麗なとこなのぉ」


「どういうことだ?」

 と考えていたところに、俺はゴブリンの気配に気が付いた。

 前方に三匹いる。


 『魔感受の仮面』のない俺で、一気に倒せるのか不安が過る。

 だが、位置的にやり過ごすこともできない。進むには斬るしかないのだ。

 これまで、たくさんのゴブリンを斬ってきたからだろう。

 不安はあっても、不思議とゴブリンに恐怖は感じない。


 などと、考え事をしていたら気付かれたようだ。

 それもそうだ、俺達は光球で照らしながら移動しているのだ。

 ゴブリンらには、バレバレであったのだ。


 俺は透かさず、先に視認できた三匹を仕留めるために駆けた。

 背後から光量が増す。

 エレンが光矢(ライトニング・アロー)を発動させたのだろう。

 俺には当てないと信じて、ゴブリンを次々と切り伏せていった。

 最後の一匹を斬り、二人の元に向かった。

 さっきの光量増しは、ゴブリンの視覚を奪うためだったのだろう。

 実際に光矢は飛んでこなかった。

 つまりは、援護してくれていたのだ。

 カルは、エレンにお礼を言おうとしたところに。


「カル、あんた、さっきの仮面なくても問題ないじゃないの。あたしを怖がらせて楽しいのぉ!」

「い、いや、そんなつもりはなくて、…結果オーライなんだよ」


「何がオーライよぉ」

「ホントだって」

「……ねぇーー。怖がらせるなんて、やだよねーー。マーレちゃん。今度からゴブリンは、カルお兄ちゃんに全部倒してもらおうね--」

「うん」

「ゴブリンは臭いから、カルお兄ちゃんの仕事にしようねーー」

 

 ……分かってはいたが、やはり、エレンは正確がよくない。

 根に持つタイプらしい。

 それとなく、自分の考えを幼児に吹き込むのはホントに止めて欲しい…。


 そう、切に思いながら、カルは辺りを見廻していた。


 それにしても、ここは見張所といったところだろうか。

 椅子やテーブルがある。

 椅子やテーブルといっても、岩が配置されているだけであるのだが。


 歩き続けていたこともあり、三人はここで休憩をとることにした。

 よく見ると、近くに竈らしきものもある。

 薪木も傍にあったので、杖で火を熾こした。

 

 エレンとマーレの二人はノヴァがあるので、それほどに寒さは感じていないが、カルは別である。

 名工の防具のお陰で耐えてはいるが限度がある。

 実際のところ、ブーツの中が結構な寒さなのである。


「カル~、あんた、ゴブリンでさえ、使えるノヴァが使えないって、一体どういうことぉ?」

 エレンが蔑むような視線を向けてきた。


「仕方ないだろ」

 カルは説明も出来ないので、目を合わせられない。


「でも、魔力を使わずにあれだけの数の魔物を斬るってとこが、凄いのよねぇ」


 どういう事かというと、魔物を斬る際は魔力を剣に注ぐのが普通なのである。魔力を使わないと、魔物の体に剣が通りづらいのである。


 ゴブリン5匹程度であれば、魔力なしでも倒すことは可能だが、相当な筋力と剣の強度が必要とされる。因みに村人らがゴブリンを見つけた際は、剣では戦うようなことはしない。矢で射殺すのが一般的な対処方法である。


 カルはエレンの話を聞いて、ゾッとした。

 今、使っているこの剣も、行き成り壊れるのかもと思ったからだ。

 自分の魔力量では、身に着けている魔道具は全て短命となる。すぐに壊れてしまう。

 それが現実なのかと…。


 カルは無言で、そそっとエレンに剣の柄を向けてみた。

 魔力を注いで欲しかったからだ。

 すると、『私の魔力が減ったら矢が創れないでしょ』と怒り出した。

 …察しがいい。


 確かにその通りではあるのだが、何も怒ることもないだろうと思い返していたところ、マーレが柄を握ってくれた。

「喧嘩はしないでぇ」

 マーレが悲しそうな表情を浮かべている。

 優しい子である。

 柄を強く握りしめている。

 魔力を注いでいるつもりなのだろうか。

 実際は、握りしめているだけで魔力は注げてはいない。

 そもそも、注ぎ方なんてわからないのだろう。

 けれども、その気持ちは嬉しかった。


 ……彼女の顔を見ていたら、もう気にするのは止すことにした。


「ありがとうね。マーレ」

「うん」

「エレンもゴメン。光の矢でマーレを守ってやってあげてくれ」

「う、うん」

 マーレをみていたので、エレンも少し、バツが悪そうである。


 でも、今の戦闘で、『魔感受の仮面』が無くても、ゴブリンなら今迄と変わらずに倒せることが分かった。

 このことだけは、安心材料である。


 この分なら、時間が掛かっても、生きて外に出られるかもしれない。


 少し大きくした炎にあたりながら、カルの希望は膨らんでいた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 三大都市の一角と呼ばれる『領都・エンデル』はその昔、魔物蔓延る森に対しての抑えの役割を担っていた。そのため、防壁が内側と外側とあり、二重となっている。


 その外側防壁の上に、二人の人物が立っていた。


「あの辺り、木が次々と倒れていくのう」

「ははっ、魔物を倒しにいっているのか、木を倒しにいっているのか、あれでは分かりませぬ」

「本当じゃのう。…先程、あの辺りに邪気を感じた」

「私めも感じました」

「ふむ。儂はあそこへ向かおうと思う。留守は頼むぞ」

「ははっ、供は誰をおつけ致しましょう」

「シュトラウスで良い」

「しかし」

「何事も経験じゃ」

「はっ、承知いたしました」

 身なりの良い執事は、そう言うと直に使いを送った。

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