くたばれ転生〜あいさつからでもやってみます〜

@sibatte9090

第1話 地獄の終わり

もはや独り吐く毒に躊躇いもない。

「最悪だ…」

夕方の五時は一般的な社会人の目覚める時間ではない。普通なら一仕事終えてぼちぼち帰路につくんだろう。二年前まではこの時間に汗ばみながら起きる気色悪さと、夕飯を作り出す母への申し訳なさを噛み締めて「明日こそ」と思っていた。

でも、その今日は未だに来ない。週の内6回はこの起床時間だ。地獄だ。

勉強は中学までは着いていけてた。というか、そこそこ田舎とはいえ百二十人ほどいた学年の中で毎回十位以内には必ず入っていた。問題なのは勉強をする習慣が身に付かなかったこと。

今思えば本当に馬鹿らしいが、当時は自分の地頭が良いと過信し、努力をしなかった。成績をさらに伸ばそうとはせず、努力をしない理由にした。

寒いしだるい。

宿題が嫌いだった。小、中、高と毎日叱られていた。先生からは「そのままでは何にもなれない」「逃げるな」「自分のためにやれ」など職員室やクラスメイトの前で何度言われたかわからない。

伸ばすべきだった自分の長所すら見えなくなった。褒められた記憶の割合が少ないのは無論自分のせいでしかない。

コンビニに行くような格好で家は出た。

結局改善は出来なかった。少しずつでもと踏ん張ろうとしたんだけど、結局は前触れなく限界を感じてしまって、連絡もなしにばっくれたことが大半だった。そして自分を責める。気まずくなって辞める。学校もバイトもその繰り返しだった。

情けない。今までの失敗の原因で、自分が悪くないと言えるものは一つもない。所属した全ての団体に於いて、恥なのは言うまでもなかった。

駅に着く。

両親は年々、年寄りに近づいていく。腰も曲がって背中は小さくなっていく。この物価高騰の時代にいつまでも穀潰しを養う余裕はない。かといって、政治家に文句を言えるような人間でないことくらいとっくにわかっていた。わかってるさ、どうせ全部俺が悪いんだから。

怪訝な目を向けられながら乗り込む。

最初のうちは必死に否定した。親、学校やバイト先に不快感を与え、迷惑をかけてしまう。けど、きっと今死ねば「最後まであいつはダメだった」と思われてしまう。こんな終わり方したくない、俺だって今からでも変われる、遅くない。そう思ったけど変われなかった。これ以上自分信じれなくなる体力がもうない。ゲームでも漫画でも楽しみにしたり、彼女の1人でも作ってとか思ってみたり、様々な理由は作れた。それも長引くにつれて自分で全て否定してしまった。

乗客が減っていく。

最後に数少ない友人や知人に連絡を入れてみたくなったが、その後死んだとなれば後味が悪すぎるだろう。これ以上長引く迷惑も心配もかけたくなかった。

目的地につく。あと少し。

最後に部屋を見渡した時、小説や漫画本が並んでいる本棚、大画面に負けて部屋に流れてきた平成のテレビ、似合わない服たち、自分の形が彫り込まれたベッド、ほとんど使わなかった教科書類、買ってもらったスーツ、趣味で集めた雑貨たち、これ全てが無駄だったと思ったら流石に辛かった。暇で全額計算したのも馬鹿みたいだ。

本当に申し訳なかった。ポジティブなものは何も残せなかった。

しかし、その日はもう引きずりたくない気持ちが勝った。春も秋ももう数えたくないほどこの部屋で過ごした。しょうもない二十七年間だった。

追い詰められたように崖際に立つ。波と風の音がどんどん大きくなる。寒い。

本当に罰当たりだけど、これが弱虫に相応しい終わり方な気がした。

もちろん怖くはあった。だから夜にしたのに。

寒い。

こういうのは始めてしまえば後は終わるだけだ。全部そうだったはずだった。それがわかってるくせに今まで変わらなかった。やっぱり死ぬべきに違いなかった。

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