大事なものを斬られて候~ベトナム&日本篇

@2321umoyukaku_2319

第1話 愛の闘牛

 本作は、お題「一夜の過ち」に投稿した『大事なものを斬られて候~中世フランス篇』の続編ではないのだけれど、似たような話題を扱っている。違うのは、話の舞台背景となった土地だ。それで題名を少し変え『大事なものを斬られて候~ベトナム&日本篇』としてみた。

 また、お題「浮気」に投稿した『浮気は燃えるよね』とも関連がある。あの作品は近藤紘一『サイゴンのいちばん長い日』をにインスパイアされて書いたが、本稿も、そこに書かれた話に影響を受けている。

 前置きが長くなった。本論に入ろう。

 近藤紘一がベトナムに滞在していた間に、同国の新聞は何十回も「●部○事件」が起きたことを報道したそうだ。それは極めて猟奇的で陰惨な事件であり、その詳細は書けない。男性に対する刑罰として古くから多くの地域で行われており、その犠牲者で有名な人物として名前が挙がるのは中国の前漢時代の歴史家、司馬遷である……という記述だけでご容赦願いたい。

 近藤は滞在中のベトナムで実際に何十回も「●部○事件」が発生したのかどうか、確信を持てなかったようだ。私も「そんなに日常的に起こる出来事なのか?」と疑問に思う。朝起きたら真っ先についているか確認しなければならない日常に、ベトナム人男性は耐えられたのだろうか? そのストレスに耐えられたのは戦争という非日常のもたらした唯一の恩恵なのかもしれない。

 我が国で起きた本家「●部○事件」の被害者は、目覚めることなく朝を迎えた。

 連れ込み宿で寝ている間に愛人の女に絞×されてしまったからである。

 ただし、それは苦しみもがいての死ではなかったようだ。彼は「首を絞められると気持ちがいい」等と言い出し、その最中に、女に腰紐で自らの首を絞めてもらうようになっていた。そして、その最中に×されてしまったのである。いわば彼は性の喜びを追求しすぎて事故死したのだ。

 ×した女の、その後の行動も、×された男の心理と裏表になるように狂気に滲んでいる。彼女は愛した男の体の一部を▼断し、持ち去った。本当は宿に男の死体を残したくなかったのだろう。泣く泣く置いていかざるを得ない男の亡骸の太ももに包丁で自分の名を刻んだ。そして敷布に血で「定キチ二人きり」と二人の名を書いた。

 女は事件発生から二日後に逮捕された。男の体の一部を紙に包み、さらに男の褌に包んで大切に自分の腹に巻き付けていたという。

 最後になるが、本作品は山田風太郎『人間臨終図巻』が大いに参考になったことを書き記しておく。筆者に厚く御礼申し上げる。

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