応募用あらすじ
23歳の結子は、最愛の父と母を相次いで亡くした。その喪失の中で、彼女が胸に抱き続けたのは、母との夢――「小さなドーナツ屋さんを開く」という約束だった。
夢を叶えるべく、南大阪の山里、神ノ郷村にやって来た結子。彼女には人型の付喪神・ツクモ君が憑りついていた。蔵の仮面をかぶり、決して顔を見せない彼は「顔ナシ様」とあやかしたちから恐れられる存在だった。しかし、なぜか結子には優しく寄り添い続ける不思議なあやかしだ。
結子はツクモ君とともに小さなドーナツ屋さんを開店。ところが、絵心ゼロの結子が描いたチラシは「呪いのチラシ」と村中で噂され、まったく客が来ない。
そんな窮地に、ツクモ君が助け舟を出す。村に暮らす付喪神たちを呼び寄せ、最初のお客として簪の付喪神・鈴姫猫が店を訪れる。結子がつくる米粉ドーナツには、ツクモ君の力で「食べた者の心を素直にする力」が宿っており、鈴姫猫はその効果で「持ち主に捨てられたい」と打ち明ける。
「まーるいドーナツ、まーるいご縁」が信条の結子は、彼女の願いを受け入れる。持ち主である中学生・和也とのやりとりを通じて、鈴姫猫は役目を終え、笑って新たな一歩を踏み出していく。「役目を終えた物をきちんと捨てることも、また誠意である」――そんな物と人間の関係に、結子は寄り添っていく。
その後、母の友人であり村の住人の松浪姉さんとの出会いや協力を得るが、店の状況はやはり芳しくない。さらに村の夏祭りで有力者・北川さんから「アバズレ」と蔑まれ、ますます困難に直面。ツクモ君の支えを受けながら、結子は「美味しいもんフェスティバル」での出店を決意し、名誉挽回に燃える。
準備期間中にやってきたのは、末期がんを患う老婦人・千鶴おばあ様と、彼女に愛されてきた土人形の付喪神・さっちゃん。おばあ様は「自分が死んだあと、さっちゃんの新しい持ち主を探して欲しい」と結子に依頼する。だが、さっちゃんは「一緒に死にたい」と訴える。
二人の想いが過去の結子と母の状況に重なり、結子は胸を締めつけられる。亡き母との闘病生活を思い出し、苦しむ結子を支えたのは、いつも静かに寄り添ってくれるツクモ君だった。
迷いを乗り越え、結子は依頼を受ける。千鶴おばあ様が亡くなったあと、さっちゃんの心を癒すため、結子は自らが課していた「母の頃と何も変えない」という縛りを打ち破り、新作ドーナツを開発。それを機に、さっちゃんと新たな持ち主との縁が結ばれた。「愛され尽くした物は、また受け継がれていく」──その姿を結子は見届けた。
迎えた美味しいもんフェスティバルで、結子はまたもやトラブルに見舞われる。だが、これまで出会った人や付喪神の助けによって盛況となり、北川夫妻からの信頼も得る。結子はようやく村に居場所を持ち始めた。
ところが、村に巣くっていた「不法投棄」の問題が、塵塚怪王(ちりづかかいおう)という強大な付喪神として具現化する。彼は、捨てられた物たちの恨みの集合体――だが、その正体は、まだ幼い姿のあやかしの子だった。
彼の名はチリ。暴れる彼を止めるため、結子は彼を引き取り、家族として迎え入れる。だが、チリの中の怒りと恨みは容易には癒えない。彼の心をなだめるには、人間が「物とどう向き合うか」という根本に迫る必要があった。
そこで結子は、村をあげて「蚤の市」を開催。もう使われない古い物を、次の持ち主へと繋げるイベントだ。物を捨てるのではなく「縁を繋ぐ場所」を作る。そうすることでチリに「人間は変わっていける」と示すのだ。
蚤の市は大成功に終わり、チリも少しずつ心を開いていく。その過程で、ツクモ君と結子の間に交わされた契りの記憶が、結子の中で蘇る。
結子が過去に、絶望の中で川に落とした指輪に向かって叫んだ言葉――「私を全部あげるから、帰ってきて」。
その願いに応え、指輪に宿るツクモ君は結子のもとに現れたのだった。
ツクモ君は契りの証として、翡翠の指輪を結子の左手薬指へとはめる。「永遠に共に在る」という静かな約束。それは互いを尊重し合う信頼の証だった。
「物と人間が慈しみ合えば、ずっと共にいられる」のだと確信した結子は、深い安堵を得る。
ツクモ君、チリ、そして結子――三人家族のまーるい暮らしは、今日も小さなドーナツ屋さんで続いていく。
「まーるいドーナツ、まーるいご縁」
人と物、想いと想いを繋ぐ、優しくまるいあやかし物語。
顔ナシ様と小さなドーナツ屋さん~神ノ郷村のツクモ神~ ミラ @miraimikiki
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