君の思い出を心臓に入れてしまおう

パ・ラー・アブラハティ

握りつぶせない想い出

 君と別れても傷つかないと思っていた。泣くこともないと思っていた。この世界に君という存在がいなくても、なんてことは無いと思っていた。


 でも、そうじゃなくて。そんなわけなくて。気が付いたら、君と別れたら傷をおって、泣いて、君という存在がこの世界から消えたら辛くて、惰性と情けで付き合っていた二年前のわたしはもうどこにも居なくて。


 心の底の全てが尽きたみたいで、宇宙に飛び込んでしまえたら音もないから声を上げても誰にも届かない。この気持ちが癒えて、傷になるのは蝉時雨が耳をつんざく季節までかかりそう。


 いや、そうであってほしいのだと思う。君を早く忘れて、君のいない世界に慣れたいんだ。夕暮れに染まる横顔を見ることはもうできないし、月明かりに照らされて、幸せそうに眠る君の寝顔も見れない。


 なのに、頭には嫌ってほどにこびりついていて頑固な汚れみたいで。この心を掻きむしって、直接心臓を殴られているみたいな痛みが体を襲って。


 孤独が目に染みて、頬を伝う雫を拭う優しい指は見つからなくて。


 これらの感情を回収してくれる業者がいたりしてくれたら、別れに寂しさを抱く事もなくて、別れが特別なものじゃなくなるのに。


 でも、人は別れを特別だと思いたくて、別れを成長の種だと言って、どうにかこうにか飲み込んで前を向こうと頑張るんだ。


 私はそんなに強くはないし、なれる気もしない。だから、この思いを握りつぶす方法だけを考えてて、君の顔を消そうとする。


「おはよう」と笑う顔は埃を被って、「ごめん」の言葉は鮮明で「ありがとう」は思い出せなくて。


 あれ、君って本当はどんな人なんだっけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の思い出を心臓に入れてしまおう パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ