最終話 おかえり、僕の家族
春はゆっくりと村に広がり、草木は色づき、鳥たちが賑やかに歌いはじめた。
ティオの家にも、あたたかな風が吹き込んでくる。
エルナのお腹はずいぶん大きくなり、もうすぐ新しい命が生まれる。
「ティオ、ちょっとお散歩に行こうか」
「うん」
エルナと手を繋ぎ、村の丘へと向かった。
ふたりでゆっくり歩くのも、こうして並んで同じ景色を見るのも、もう当たり前の日常になっている。
「ティオ、あなたは前の世界のこと、まだ覚えてる?」
「うん。覚えてるよ」
仕事ばかりで、孤独で、誰にも必要とされず、帰る場所もなかったこと。
それでも、ここに来て、こんなにも優しい家族に出会えたこと。
「でも、今はこっちの世界の方が、ずっとずっと好き」
ティオは笑った。
「あなたが、そう言ってくれてよかった」
エルナもまた、やわらかく微笑む。
春の光が、彼女の髪と瞳をあたたかく包んでいた。
「この家は、あなたの家よ。どこに行っても、どんなことがあっても、“ただいま”って帰ってくれば、私たちは必ず“おかえり”って言うから」
「うん」
その言葉を、ティオは胸にしっかりと刻んだ。
この家が、この場所が、この人たちが、自分の帰るべき場所なんだと。
*
夕方、家に戻るとダグラスが薪を割っていた。
「おかえり、ティオ」
「ただいま!」
ふたりの声が重なる。
それはもう、当たり前のように交わされる、でも世界で一番あたたかい言葉。
「なあ、ティオ。もうすぐ弟か妹が生まれるだろ?」
「うん!」
「そいつにも“おかえり”を言ってやれるのは、お前が一番最初だぞ」
「まかせて!」
そう言ってティオは胸を張った。
“家族”って、ただ一緒にいるだけじゃない。
守りたい、帰りたい、幸せになってほしい――そんな気持ちを重ねて、つないで、育てていくものなんだ。
(ぼく、もっともっとこの家族が好きになる)
そう思いながら、ティオは心の中でつぶやいた。
(ありがとう。エルナ、ダグラス。ぼくに、“おかえり”を教えてくれて)
暮れかけた空の下、ティオの“ただいま”と、家族の“おかえり”が、静かに響き合った。
気づいたら異世界の子どもになってたけど、家族があまりに優しすぎて泣いた れいや @reiyadayo
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