第14話 僕の居場所は、ここだ
それからの日々は、静かに、だけど確かに変わっていった。
エルナのお腹は少しずつ大きくなり、村の人たちもそれを喜び、ダグラスはますます家の仕事を頑張るようになった。
ティオも、できることを増やそうと必死だった。
薪を割る練習、畑仕事、簡単な料理。
小さな手のひらでも、家族の力になりたくて。
「よし、今日のパン焼き、ティオに任せたぞ!」
「ほんとに? 失敗しても知らないよ!」
「ふふ、大丈夫。ティオの作るパン、きっとあったかい味になるわ」
そんなふうに笑ってくれる二人がいるこの場所は、もう“ただの転生先”なんかじゃない。
ここは、ぼくの“家”だった。
*
そんなある日、旅の商人が村に立ち寄った。
「おお、ティオ坊。君にこれを」
渡されたのは、小さな革のしおり。
金色の糸で「希望」と刻まれていた。
「……これ、どうして?」
「君のお母さんがな、以前わしにこう言ったんだ。
『この子が、自分の居場所を見つけたときに渡してほしい』って」
胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。
「……エルナが?」
「そうさ。君がこの世界に来たとき、どこか寂しそうで、不安そうで――。だから、居場所を見つけたときの“証”にってな」
手のひらに乗せたしおりは、ほんのりあたたかくて、まるでエルナの手のぬくもりみたいだった。
*
家に帰ると、エルナとダグラスが庭で春の花を植えていた。
「ただいま!」
「おかえり、ティオ」
「ねぇ、これ……もらったんだ」
そう言って、しおりを見せると、エルナは静かに微笑んだ。
「覚えてたのね、その約束」
「ぼくね、わかったんだ。この家が、ぼくの帰る場所なんだって。ここが、ぼくの“ただいま”を言う場所なんだって」
エルナは涙ぐみながら、ティオの頭をやさしく撫でた。
「ありがとう、ティオ。あなたがそう言ってくれることが、私たちにとって一番の幸せよ」
ダグラスも、黙ってティオの肩を抱いてくれた。
(そうだ、ぼくはもうひとりじゃない)
空は高く、春の風が庭を通り抜けていく。
花が揺れ、エルナの髪がふわりとなびいた。
「ねぇ、ティオ」
「なに?」
「あなたがこの家に来てくれて、本当によかった」
「ぼくも。ここに生まれ変われて、よかった」
それは、心の底からの本音だった。
異世界も、転生も、家族も――全部、いまのぼくの大切なものだ。
ティオはしおりを胸にしまい、まっすぐ前を向いた。
もう、迷わない。この場所で、生きていくと決めたから。
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