『コントな文学集』

岩崎 史奇

第1話

コントな文学『芥川賞作家なのに親近感』



芥川賞を受賞した小説家なのに…


マジで?


信じられない…


家の本棚にマンガしかないじゃん。


しかもドラゴンボールとワンピース全巻揃ってんじゃん。


王道中の王道じゃん。


芥川賞とか純文学って小難しくて暗そうなイメージがあったけど親近感湧くなぁ…


「え?芥川賞作家なのに家具は全部ニトリで揃えたの?」

普通中の普通じゃん。

親近感湧くなぁ〜。


「え?芥川賞作家なのに服はユニクロか無印で買ってんの?」

庶民的〜。

親近感湧く〜。


「え?芥川賞作家なのに自分で漬物漬けてんだ!」

家庭的〜。

親近感〜。


「え?芥川賞作家なのにNISAとiDeCoもやってんの?」

安定感〜。

親近感〜。


「え?芥川賞作家なのに朝はパン派なの?」

同じ〜。

親近感〜。


マジで親近感エグいわ、この芥川賞作家は。


マッチングアプリで出会った男は、まさかの芥川賞作家だった。


芥川賞作家なのにマッチングアプリ使ってたり、芥川賞作家なのに爽やかイケメンで、芥川賞作家なのにコミュ力が高くて、親近感が湧いたから初対面の日にお持ち帰りされちゃったけど、今夜だけで4年分位の親近感が一気に湧いてる感じ。

親近感湧きすぎて今すぐ入籍できるわ・・・



朝帰りして本屋で芥川賞受賞作品を買って読んでみたけど…


う〜ん…


普段ファッション誌とマンガしか読まない私には、芥川賞作品は難しくてよく分からん。


この本は親近感が沸かないなぁ〜。





コントな文学『人生200年時代』



西暦2220年。


令和生まれから人類初の200歳を迎える人間が現れた。


人生200年時代の幕開けである。



人類初の200歳に達した人間、高木蓮が記者のインタビューに答える。


Q.200歳を迎えた感想を率直に教えて下さい。


一言で言えば医療のバカヤローです。


医療が進化し過ぎて200年も生かされてマジでいい加減にしろって思ってます。


高齢者歴135年。後期高齢者歴125年。


公的に135年もジジイをやってんスよ。


こんなに長い期間ジジイやっても嬉しくも楽しくもないし正直こんなに長生きしたくなかったよ。


Q.長生きの秘訣は?


だからぁ…


医療が進化し過ぎたからだって言ってんだろ?


医療が進化し過ぎて体感的に、肉体は75歳位の時をキープしたまま200歳になったって感じなんだよ。


健康寿命の長さの秘訣って意味なら栄養バランスの良い食事と適度な運動を心掛けてるよ。


長生きしたって健康じゃないとマジで地獄だからね。


Q.200年生きて何か困っている事はありますか?


毎年の事だけどお年玉だね。


孫の孫の息子にまでお年玉あげなきゃいかんのよ。


孫だって100歳超えたババアなのに今だに「お年玉ちょうだいお爺ちゃん♡」って甘えてきやがる。


薬も進化し過ぎて認知症も治っちまう時代だからボケたフリしてやり過ごす事もできなくて本当に困ってるよ。


Q.夢はありますか?


無いよ。


長生きしたって金が無けりゃ夢も希望も無いんだよ。


人生200年時代のせいで年金制度は完全に崩壊。


働かないと生きていけないから200歳なのに週5で新聞配達とマックでバイトもやってんだよ。


Q.最後に若者へメッセージをお願いします。


頼むから早く楽に逝かせてくれる法律作ってくれ。






コントな文学『ファーストキス』


 

クラスメイトの亮君と付き合って3ヶ月。

デートは毎週末している。

でもまだキスはしていない。

高校3年生同士が付き合って3ヶ月よ?

さすがにもうキスしてOKでしょ。

3ヶ月付き合ったら無理矢理押し倒してキスしても文句言われる筋合いないわ…



絶対今日のデート中にキスしたい。

マックでお昼食べてる時も、映画観てる最中も、カフェでお茶してる時も、サイゼリヤで晩ご飯食べてる時も今日はキスの事しか考えられない。

つーかさぁ、さっさとキスしてこいよ。

こちとら1回目のデートからずっと待ってんだよ…


「凛香ちゃん、そろそろ帰ろうか」


今日もキスしないで私の家の近所まで送ってくれてバイバイするパターンなの?


「今日も楽しかったね」


人気の少ない夜道を手を繋いで歩いてんだよ?


「凛香ちゃんは来週どっか行きたいトコある?」


今日もキスしないの?


「俺はカラオケ行きたいなぁ」


ねぇ、キスしてよ。


「じゃあ、また明日学校で」


またかよ、この意気地なし!

あーあ、仕方ないなぁ…


「ねえ、亮君…目瞑って」


「え?」・・・



「お、俺、実はキス初めてだったんだよね」 


でしょうね。


「凛香からキスしてくるなんて思わなかったよ」


おいおいおいおいっ!

キスした途端に呼び捨てかよ。

急に調子乗ってんじゃねえよ童貞のクセに。


「凛香は俺とキスしたくてキスしてきたの?」


ウザッ。

何、その質問?

こいつは私に何を言わせたいんだ?


「でも、まさかいきなり舌入れてくるなんて思わなかったぜぇ」


ずっとおあずけ状態だったからなぁ…

がっついてスマン。

そこは謝りたい。

でも、そんな恥ずかしい事を言うなよぉ。


「え?もしかして、キスとか慣れてる?」


は?


「凛香は俺以外の男とキスした事あるの?」


今抱いてるこの感情を人は殺意と呼ぶのかな?


「あーあ、本当は今日、俺の方からキスしようと思ってたのに残念・・・ファーストキス奪われちまったぜぇ♡」


よしっ、別れよ。






コントな文学『すべてのホームシッカーに花束を』



上京して足立区の北千住で初めての一人暮らし。


俺はホームシックになった。


土曜日に引っ越してきて今日が水曜日で一人暮らし5日目。


土曜の夜は初めての一人暮らしに浮かれて楽しく過ごしたが、人生で初めて日曜日の夜に1人で晩ご飯を食べていたら涙が溢れてきた。


実家の居心地の良さ。

母ちゃんの温かくて美味しいご飯。

そして父ちゃんや妹やペットも含めて家族から与えられていた安心感や愛情に初めて気付いた。


しかし、ホームシックなんて誰にも言えない。


だって・・・


俺、33歳だもん。


33の大人が自らの意思で一人暮らし始めてホームシックで毎晩泣いてるってキモ過ぎだろ。


我ながら情けないし、恥ずかしいよ。


ホームシックって普通は親元から遠く離れて新生活を始める学生や新社会人がなるものじゃん。


33歳の社会人10年目がホームシックって世間は許してくれるのかなぁ?


しかも・・・


実家は松戸だ。


常磐快速線で北千住から千葉の松戸まで9分で行けちゃう。


実家が近過ぎる33歳がホームシックとか、千葉県民のクセに「上京して一人暮らししてます」なんて言える資格が俺に有るのか無いのか自問自答を繰り返している。


・ホームシック

・ホームシックだと誰にも言えない苦しみ

・言っても共感してもらえそうにない孤独感


この三重苦を背負っている俺はホームシックだけの若僧より3倍辛いのだ。


3倍辛いんだぞって事も言えなくて、また辛い。


年齢や境遇に関係無く全てのホームシッカーを平等に受け入れてくれる世の中になってほしい。


だって寂しいのはみんな同じだろ?


だが、愚痴ってても仕方がない。


優先すべきは目の前の問題への対応だ。


「もしもし母ちゃん?

実家に忘れ物したから土曜の夜に取りに行くわ。

ついでに晩メシもそっちで食べるね。

帰り遅くなりそうだから泊まってこうかなぁ…

面倒臭いから日曜日も朝、昼、晩メシ食べてから帰るわ〜」


これで今週は乗り越えられる!






コントな文学『ベーブ・ルースや軽自動車の所有者のように』



元気になってまた大好きな野球がしたい。


その為には手術を受けて病気を治さなくちゃいけない。


でも手術の成功確率は30%だ。


手術を受ける勇気が出ない僕の病室に現れたのはベーブ・ルースのようなホームランバッターじゃなくて軽自動車の所有者でした。


「俺はベーブ・ルースじゃないから君の為にホームランを打つ約束はできない。代わりに今から軽自動車に乗って六本木でナンパをする。もし俺がナンパに成功したら手術を受けてくれないか?」


軽自動車の所有者の年齢は30歳。

年相応で平均的なルックスと身長の一般男性。

所有している中古の白い軽自動車は10年落ちで12万キロ以上走っていた。


あまりに無謀過ぎると、ほとんど自殺行為だって子供の僕でも分かる。


でも軽に乗って六本木でナンパに成功したらホームランを打つよりも凄い事だと思うし、とても勇気がいる挑戦だと思った。



六本木に移動した軽自動車の所有者がナンパする様子を僕は病室でモニタリングした。


「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」


「・・・」


港区女子に無視される軽自動車の所有者。 



「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」


「頭大丈夫ですか?ここ六本木ですよ?」


港区女子に不審がられる軽自動車の所有者。



「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」


「軽のくせに六本木でナンパしてんじゃねえよ」


港区女子にストレートな正論で罵倒される軽自動車の所有者。



チャレンジ開始から5時間が経過した。100人以上の港区女子に声を掛け続ける軽自動車の所有者。


何度失敗しても、何度恥をかいても、何度傷付いたって僕の為に挑み続ける姿に胸が熱くなった。


そして奇跡が起きた!


0時を過ぎた頃、CLUB帰りの泥酔した港区女子を相手に軽自動車の所有者がナンパに成功した。


僕には軽自動車の所有者が、まるで逆転満塁サヨナラホームランを打ったように見えた。


きっとシラフだったら無理だったと思う。


それでも僕は感動で涙していた。


いつか僕も人に勇気を与えられる大人になりたいと思った。



僕はプロ野球選手になった。


今度は僕が、あの日の軽自動車の所有者のように誰かに勇気を与える番だ。


「という訳でサトシ君、僕が今夜の試合でホームランを打ったら勇気を出して手術を受けてくれないか?」





コントな文学『もったいないおばけとFカップ』



「こんばんは。もったいないおばけですけど」


帰宅した俺の目の前に突如、もったいないおばけが現れた。


「お前、何で俺が来たか分かるか?

自分が何したか分かってるか?」


「分からないです。すいません…」


「20代の巨乳美女の同僚から一夜限りのお誘い(後腐れ一切無し)を観たいドラマがあるから断るってお前どんだけもったいない事しとんじゃいっ」


「す、すいません」


「ちなみに録画予約はしてなかったんか?」


「録画予約してました」・・・


・・・「狂っとんか、ワレ?」


「最終回だったんでリアルタイムで観たかったんです」


「あの女はFカップなんやぞ、Fカップ!

録画予約してるドラマの最終回をリアルタイム視聴するよりリアルのFカップ見んかいボケッ」


「次から気を付けます。もったいない事をしてすいませんでした」


「二度ともったいない事すんなよ」


謝ったらもったいないおばけは帰ってくれた。

食べ物を粗末にする事以外でも、もったいないおばけって来る事あるんだなぁ…


さぁ…ドラマ観よ。






コントな文学『佐倉莉子(Fカップ)と密室殺人事件』



私の名前は佐倉莉子。大学二年生。


冬休みにスキーを楽しむ為、友人と雪山の山荘に宿泊している。


そして私達が宿泊する山荘で殺人事件が起きた。


殺されたのは同じ宿泊客の大学教授の男。

どうやら密室殺人らしい…


偶然、山荘に宿泊していた高校生探偵の工藤新二君が事件を解決する為に山荘内にいる全ての人間(従業員3名と宿泊客9名)を食堂に集めた。


「犯人は、この中にいます」 


お決まりの決めゼリフを言い放った直後、高校生探偵が私の胸をチラ見した事に気付いた。


え?今、このタイミングで?


私はニットのセーター✕美人女子大生✕バストFカップという無双の組み合わせ。

健康な男子高校生には刺激が強すぎる。

無理もないか… 


ちなみに男というバカな生き物は女性に気付かれないように胸をチラ見しているようだが基本的にバレている。


特にバストが豊満な女性程、胸をチラ見される経験値が多いので察知能力に長けているのだ。


「犯人は・・・この山荘のオーナーの川村さん。

あなたです」


言い終わりに高校生探偵はまた私の胸をチラ見した。


そして高校生探偵はオーナーの川村さんが行った密室殺人のトリックを説明し始めた。

もちろん説明中にも私の胸を何度かチラ見している。


オーナーの川村さんが犯行を認めた。


川村さんが殺人の動機を私達に話し始める。

殺害した大学教授の男とは旧知の知り合いらしい…


川村さんの話を聞きながらも高校生探偵は私の胸を3回チラ見した。


そして…

ま、まさか…

あなたまで?


犯人の川村までもが私の胸を確実にチラ見した。


ねぇ、状況分かってる?

あなた、殺人事件を起こしたのよ?

おっぱいチラ見してる場合じゃないのよ?



警察が到着した。

川村に手錠が掛けられる。


見納めって訳ですかい?

連行される際、川村は最後のチラ見をした。


川村が捕まり事件は解決したが、個人的には高校生探偵もチラ見し過ぎ罪で一緒に逮捕してほしかった。


そういえば、殺害された大学教授のおじさんにも山荘の廊下ですれ違った時、胸をチラ見されたわ。


私は改めて思う。


男って本当、バカな生き物ね。





コントな文学『憧れのスーパースター』



二刀流で活躍するメジャーリーガーよりも、


サムライブルーなサッカー日本代表選手よりも、


低収入、低身長、非イケメンなのに、


女の子にモテて、いっぱい遊んでる、


バイト先の矢沢先輩の方が、


モテないフリーターで童貞の僕の、


憧れのスーパースターっス。





コントな小説『SM倶楽部100人の女王様』



三浦将平 35歳

都内の1DKのアパートで1人暮らし。


派遣会社に登録し派遣先の工場で仕分け作業をして生計を立てている。


人生に目標がない。友人も恋人もいない。

冴えない人生を送っている冴えない男だ。


いや、冴えない豚野郎だ・・・



ある日、人生が一変した。

宝くじで6億円当たったのだ。

これで、一生遊んで暮らせる!


とりあえず仕事を辞めた。

次にマンションに引っ越そうとネットで賃貸情報を調べている所で俺の行動力は燃え尽きてしまった。

慌てて引っ越しするの面倒臭いから後回しにしよう…


時間と金だけがある状態になった。


時間と金があり過ぎて何もやる気が起こらない。


時間を消費するだけの毎日になった。


元々、物欲があまり無い上に運転免許証を持っていない。


免許があれば車を買うんだろうけど免許を取りに行くのも面倒臭い…


友人も恋人もいないから1人で旅行したり高級店で食事してお金を使うという選択肢も俺には無かった。


マンガ・テレビ・YouTube・Netflix観賞と風俗で性欲を発散する日々を送った。


そんな生活が3ヶ月以上続いて、さすがに人としてヤバいと思うようになってきた。


10年後、20年後もこんな生活を送っている自分を想像するとゾッとした。


何か変えなきゃといけないと思いつつ、でも簡単に堕落した生活は変えられなかった。



前置きが長くなりましたが、この物語は俺が、ちゃんとした人生を歩んでいこうと思うきっかけになった出来事を紹介するお話です。



とにかく金と性欲だけはある。

今日は以前から興味があった『SM倶楽部100人の女王様』に電話予約した。

リクエスト(おねだり)した内容は

「俺を滅茶苦茶にして下さい、女王様達」



とにかく圧倒的だった100人の女王様達。


まず20人程の女王様が俺の部屋にヒールを履いたまま土足で乗り込んできた。


そして部屋に入りきらない残りの女王様達がアパートを取り囲む。



「こんな狭いアパートに100人も呼ぶんじゃないわよ、この豚野郎」



室内の女王様達からお仕置きのムチの雨が、部屋中に降り注いだ。


白ブリーフ1枚になった俺をムチで叩く女王様達。

テレビをムチで叩く女王様。

トースターをムチで叩く女王様。

折り畳みベッド、ユニットバスの便座、そして

キッチンのシンクをムチで叩く女王様。

パソコンのキーボードのキーをヒールでひとつずつ踏み潰していく女王様もいる。


あぁ…俺も踏んでほしいです、女王様。



室外の女王様達はアパートの扉や郵便受け。

エアコンの室外機や駐輪場に置いてある俺の自転車をムチで叩いてロウソクまで垂らしている。

(他の住人の部屋や物には一切危害を加えない辺りがプロの仕事)



俺の生活の全てを100人の女王様達に蹂躙されている。


蹂躙して頂いてありがとうございます女王様達。


しかし、これはもはやプレイを越えて事件だ。


こんな豚野郎の人生に、こんな素敵な事件を与えて下さりありがとうございます、女王様達。


どうか誰も警察に通報しませんように…


「聞いて下さい、女王様達。

僕は宝くじで6億円当てました。

今はお金と時間をもて余して不毛な日々を送っています。

そんな僕をもっと叱って下さい、女王様達」


「誰が勝手に喋っていいって許可したんだい?」

「豚野郎のくせに浮かれてんじゃないわよ」


「ぶ、ぶひぃ~」


許可なく身の上話をした豚奴隷に女王様達はお仕置きのロウソクを垂らして叱って下さった。


「ありがとうございます、女王様達」


「お前はどうしようもない変態だね」

「私達にどうしてほしいんだい?」


「これからはちゃんと生きますから・・・

顔と乳首をヒールで踏んでほしいです、女王様達」



ある日突然、億万長者になって浮かれていた俺を女王様達が叱ってくれた。


金持ちになっても俺は豚野郎。


謙虚に生きよう。


しっかり生きよう。


ちゃんと生きよう。


目が覚めた。


更正するきっかけを与えて下さり、本当にありがとうございました女王様達。


とりあえず・・・


引っ越しから始めるか。


もう、このアパートでは暮らせない。


俺は新たな一歩を踏み出した。





コントな文学『心が泣いている』

 


この店の大盛りって、こんなに大盛りなのか…  

  

特盛りを頼まなかったのは不幸中の幸いだった。


俺は、つけ麺の大盛りを頼んで、大盛り分を丸々残してしまった。 


だってこんなに大盛りなんて思わなかったからさ。


悔しいなぁ…


恥ずかしいなぁ…


何で、こんな事になっちゃったのかなぁ?


そっかぁ…


こんなに大盛りだなんて思わなかったからだ。


そもそも並盛りの量が大盛り位あるよなぁ…


麺も思ってたより、太かったなぁ…


これは仮説だが、お金が無い学生さんや夢を追って上京してきた若者に、お腹いっぱい食べさせてあげたいという店主の親心とサービス精神で相場よりも多くの麺を提供してくれているのかもしれない。


もし、そうだとしたら大盛りの量が多くて残した事をお店のせいにしようとした自分が情けない。


ぽかぽか暖かくて南風が気持ちいい休日の昼間。

自分の意思で大盛りを注文したんだから、残しちゃいけないって限界まで頑張って食べた。


それでも大盛り分を残してしまって、こんなに惨めで申し訳ない気持ちで店を後にするなんて、お腹ペコペコだった入店前は想像できなかった。


きっと店員は『大盛り頼んどいて大盛り分を残したバカ野郎』って思ってるだろうなぁ…


だってさ、大盛り注文した時に店員さんはちゃんと「当店の大盛りは、かなり量が多いですけど大丈夫ですか?」って確認してくれてたんだもん…


俺、調子に乗ってたのかなぁ?


何だか俺という存在が、ちっぽけに感じる。


そんな俺なんかにも、優しく抱きしめてくれるように南風が暖かくて、また泣けてくる。






コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。相方編』



「紹介するね。こいつ、俺の相方のミサ」


「そういう芸人みたいに彼女の事を相方って呼んじゃうノリ、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」って友達じゃない大学の同期に言えなかった。


あの日、僕には勇気が足りなかった。



コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。フェス編』



「明日フジロック参戦しに行くんだよ」


ヒマワリのように明るい笑顔で言ったバイト先の先輩に「音楽フェスに行く事を『参戦』って言う人、苦手な人種です」って言えなかった。


あの日、僕には勇気が足りなかった。



コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。童貞編』



「パパとママ、旅行に行ってて今日は家に私1人だけど・・・どうする?」


あの日、僕には勇気が足りなかった。



コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。大きな赤ちゃん編』



妻が息子に母乳をあげている。

「ボクもひざ枕ちてもらいながらママのおっぱい飲みたいでちゅ♡」って言えなかった。


あの日、僕には勇気が足りなかった。



コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。1994年7月5日生まれ編』



「俺さ、コンプレックスというか、悩みというか…

実は、大谷翔平と生年月日が一緒なんだよね。

よりにもよって、あんな億万長者のスーパースターと同じ日に生まれるなんて劣等感が半端ないし比較されたら辛いんだよね。

せめて1日でもいいから誕生日がズレてたら良かったのになぁ…

毎年、誕生日迎える度に切なくなるんだよね」


「知らねぇよ、バカ野郎」って言えなかった。


あの日、僕には勇気が足りなかった。






コントな文学『キラーフレーズ一発で僕は…』



「佐伯くん、好きです。私と付き合って下さい」


僕に告白してきたのは同じ大学に通う丸山さんだ。


丸山さん、性格とスタイルは良さそうだけど…


地味だし暗そうだし、見た目も好みじゃないから、悪いけど今まで女性として意識した事が無かった。


それに僕には幼稚園の頃から、ずっと片思いをしている幼なじみの女の子がいる。


だから、今まで女性とお付き合いした事が無い。


丸山さんには申し訳ないけど、交際はお断りしようと思った次の瞬間だった。


「ちなみに私、峰不二子とスリーサイズ同じなの」


そのキラーフレーズ一発で僕は丸山さんとお付き合いする事を決めた。


即決だった。


迷いなんて一切無かった。


でも、自分の中の大切な何かを失った気がした。


そして僕は大人になっていく。





コントな文学『それでも、夕焼けは綺麗だった』



17歳。


片思いだと思っていたけど両思いだった。


高嶺の花のクラスメイトが初めての彼女になった。


初デートは放課後デート。


マック行って、プリクラ撮って、自転車二人乗りして、公園のベンチで一緒に夕焼けを見ている。


「一緒に聴こ」


彼女がイヤホンを片方差し出してきた。


恋人と片耳ずつイヤホンを付けて音楽を聴く事に憧れてたんだろうなって思った。


俺も憧れてたし。


だけど・・・


だけど、彼女から渡されたイヤホンには、すっげー耳クソが詰まっていた。


オーストラリア生まれの帰国子女なのに…

英語ペラペラなのに…

定期テストで学年3位なのに…

父親が外務省のエリート外交官なのに…

綺麗な黒髪のロングなのに…

フルートだって演奏できるお嬢様系なのに…

嫌味が無くて同性からも好かれるタイプなのに…

美人だけど笑うと愛嬌たっぷりで可愛いのに…


イヤホンにすっげー耳クソが詰まっていた。


気持ち悪いけど仕方ないから、俺はなるべく浅めにイヤホンを装着した。


このイヤホンからだと、どんなラブソングも失恋ソングに聴こえてくるような気がした。


《冷めるわ〜》

《脇が甘い》

《事前に確認できたはず》

《危機管理能力の低さ》

《リスクマネジメント》

《爪楊枝と除菌シートが欲しい》


様々な思いを表したワードが頭の中を飛び交う。


でもね・・・


それでもね・・・


それでも、夕焼けは綺麗だった。





コントな文学『金持ち喧嘩せずみたいな事?』



「男が唯一身に付けて良いアクセサリーって腕時計だと思うんだよ」


30歳を迎える年齢で開催された高校の同窓会で100万円超えの腕時計を自慢する同級生。


自分自身に値打ちを見出だせない薄っぺらい男に限って金目の物で着飾ってマウントを取ろうとする。


だが、許せる。


俺は女性経験人数が100人を超えている。


そしてお前が、かつて高校時代に片思いしていた女は俺の12人目だ。


『金持ち喧嘩せず』って、こういう事を言うのかな?と思いつつ俺の眼は今夜お持ち帰りできそうな女子を探している。





コントな文学『停止(フリーズ)刑事・国分寺卓郎』



俺の名前は渡辺 浩市

世田谷通り警察署に所属する新米刑事だ。


停止(フリーズ)刑事の異名を持つベテラン敏腕刑事の国分寺卓郎とコンビを組んだ初日に起きた事件について物語ろう。



停止(フリーズ)刑事、国分寺卓郎は語る。


「!」だけでは足りない。

「?」だけでもダメだ。


大事な事は対象者に「!?」

驚きとクエスチョンを植え付ける事だ。


そうすれば数秒だが思考と動きを止める事ができる。


思考と動きを止めるという事は対象者の時を止める事ができるんだ。


人は驚き、瞬時に理解できない事が起きると停止(フリーズ)するんだよ、新米刑事君。



マンションの屋上から飛び降り自殺しようとしてる若い女がいるという通報が入り俺は国分寺さんと現場に駆け付けた。


現場では警官隊が飛び降り自殺しようとしている女とマンションの周囲に群がる野次馬の対応を始めていた。


「新米刑事君。

君は下から拡声器マイクを使って女に説得を続けろ。

私が対処するまで女が飛び降りないように時間を稼ぐんだ。

警官隊は飛び降り自殺防止用のエアーマットを準備してくれ」


俺は現場で指揮を取る停止(フリーズ)刑事に問うた。

「国分寺さんはどうするんですか?」


国分寺はニヤリと笑って答えた。

「ちょっと時を止めてくる」


警官2人を引き連れ国分寺はマンションの屋上に向かった…



屋上に到着するなり国分寺は女に向かって叫んだ。


「ふざけんなぁっ!

俺が先に飛び降りようと思っていたんだぞ!

どけぃっ」

国分寺は白ブリーフ1枚の姿になっていた。


女を尻目に国分寺はマンションから飛び降りた。


白ブリーフ1枚の姿でマンションから飛び降りてくる国分寺に向かって俺は拡声器マイクを通して叫んだ。


「何してんねーんっ!!!」


飛び降り自殺しようとしていた女は何が起こったのか理解できず固まっている。


そして固まっている間に女は警官隊に取り押さえられた。


「あの女の時を止めて自殺を防いだという事か・・・

こ、これが停止(フリーズ)刑事・・・」


国分寺は予測不能で想定外な行動と白ブリーフ1枚というビジュアルで「!?」を女に植え付けたのだった。


国分寺刑事は自殺防止用エアーマットに飛び降りた衝撃でアバラにヒビが入り救急車で運ばれていった。


これが俺と停止(フリーズ)刑事、国分寺卓郎がコンビを組んだ最初の事件だった。





コントな文学『Z世代からの提言』



「老害ですね」


「考え方が古い人達です」


「世間とズレてる感じがします」


「上から目線がウザい」


「話が長い」


「話が回りくどい」


「若者に対して批判的だと思う」


「くしゃみが大きくてうるさい」


「加齢臭なのかなぁ?臭いイメージがあります」


「俺達が若い頃は〇〇〇みたいな昔話が始まると、聞いてあげるのが正直しんどいです」


「頑張ってカラオケで最新のアニソン歌ってる姿を見ると、無理すんな、懐メロ歌ってろって思う」


「若い人と仲良くしたいのか、若者に媚びてくる感じが残念ですね」


「インスタとかXとかTikTokとか、昔流行った〇〇知ってるか?クイズを出してくるのマジでダルいです」


「必死に若作りしてるZ世代は見てて痛々しいッスねぇ」


「え?Z世代って何ですか?

おじさん、おばさん世代の人達の事?

ん〜、興味無いでーす」



渋谷で令和生まれの若者に聞いた、Z世代に対するリアルな意識調査を実施した街頭インタビューのVTRが終了した。


放送はスタジオに切り替わってお昼の情報番組のMCが語り始める。

番組MCは、かつてチャンネル登録者数500万人超えの人気YouTuberからタレントに転身したZ世代を代表する有名人だ。


「いやぁ、Z世代に対して耳が痛い意見ばかりでしたね。

かつて自分が若者だった頃、おじさん世代に対して思っていた事を、今度は自分がおじさんになった時に若者から言われる日が来るなんて思っていませんでした」


20年前、10代を中心に絶大な支持を得て総フォロワー数が160万人を超えていた元インフルエンサーの中年女性コメンテーター(Z世代)が続く。


「私もさっき、若い音声さんにマイクを付けてもらう時に『ねぇ、あなたヌートバーって知ってる?』ってペッパーミルパフォーマンスしながら聞いちゃいました」


「昔、流行った○○知ってるかクイズ出しちゃったんですね」


「はい、音声さんを困らせてしまいました。反省してます」


「テレビを観ている令和生まれの皆さんに、Z世代を代表して提言させてもらいます。

令和生まれ世代だって40代、50代の年齢になったら、次世代の若者達に老害扱いされる日が来るかもしれないのです。

目上の方々に対する言動は、いつかブーメランのように自分に返ってきますよ。

どうかZ世代やお年寄りを、未来の自分の姿だと思って優しく寄り添って下さい、お願いします・・・


さぁ、CMの後は真夏のお引っ越し、カルガモ親子の大冒険に密着します」






コントな文学『バレないようにチ◯ポジを直しなさい①』



気持ち悪いなぁ。


気持ち悪い位置にある。


位置が悪くて気になるぜ。


試合中なのにチ◯ポジが悪くてバスケに集中できない。


敵にも味方にも観客にもバレないようにチン◯ジを直したい。


どうする?


苦手だけど、この手しかない!


俺は3ポイントシュートを打った。


皆がシュートしたボールの行方を見守る隙に俺はチンポ◯を直した。


そしてボールは高く美しい放物線を描いてリングに吸い込まれた。


苦手な3ポイントシュートが決まってチームは逆転勝利した。



コントな文学『バレないようにチ◯ポジを直しなさい②』



会社の上司や同僚達と仕事終わりにボーリング場に来ました。


ボーリング中に誰にもバレないように◯ンポジを直したい。


ボーリング中にチン◯ジを直すにはこの方法しかない!

 

スピンをかけて放ったボーリング球は、カーブしながら待ち構える10本のピンに向かって行った。


俺は皆の視線をボーリング球に集中させた隙に素早く◯ンポジを直した。


そして、球がピンに当たる直前に振り返って背中でストライクを感じた。


ストライクを取った俺は、チンポ◯を直した手で皆とハイタッチした。



コントな文学『バレないようにチ◯ポジを直しなさい③』



友人達とドライブで山に来ました。


俺はやまびこに関して、子供の頃からずっと不思議に思っていた事がある。


何故、人はやまびこのヤッホーを目で捉えようとするように山に視線を向けるんだろう?


山に反響して返ってくるヤッホーは目には映らないんだぜ?


やまびこのヤッホー聴きたいなら瞳を閉じて耳をすませした方がいいのにね。


悪いがこの習性を利用させてもらうぜ。


「ヤッホーーー」・・・


友人達が俺のヤッホーを追いかけるように山に視線を向けた隙に俺はチン◯ジを直した。


・・・「ヤッホー」


やまびこが返ってきた。






コントな文学『パンチラ』



春風のイタズラで、


見えた女子高生のパンチラが、


嬉しくて、嬉しくて、


今日1日、


幸せな気分で過ごした自分が何だか、


虚しくて、切なくて、


寝る前に、今日見たパンティ思い出して、


泣けてきた50歳の夜。






コントな文学『日本一のサッカー選手の秘密の夢』



子供の頃からの夢が叶ってJリーガーになった俺は高卒ルーキーのプロ1年目からJリーグ得点王とアシスト王に輝いた。


そしてオリンピック日本代表メンバーにも選出され日本サッカー史上初の金メダルを獲得した。

優勝に大きく貢献した俺は大会MVPに選ばれた。


若さと才能と実力を兼ね備えた俺は、ヨーロッパのビッグクラブへ移籍して強豪リーグで切磋琢磨し、さらなる成長とワールドカップで日本を初めてのベスト8以上へ導いてほしいという期待を日本中から掛けられている。


既にバルセロナ、アーセナル、バイエルン・ミュンヘンなど有名なビッグクラブから獲得オファーの噂があり、所属しているJリーグクラブのフロントも高額な移籍金を設定していると耳にした。


サポーターは俺に残留してほしいと思いつつ、ビッグクラブで活躍する姿も見たいし、当然いつかはヨーロッパのクラブに移籍するだろうと思っている。


まだ1年目で移籍前なのに、いつかヨーロッパから戻ってきて最後はJリーグでプレーしてほしいと今から話している気の早いサポーターまでいる。


周りは俺に向かって、どいつもこいつも

「どうせいつかは海外行くんでしょ?」

「どうせ海外に行きたいんでしょ?」

って顔してやがる。


所属するJリーグクラブのサポーター、フロント、海外のクラブ、そしてワールドカップの時だけ騒ぐようなにわかサポーター。

プロ、アマ、ファン、マスメディア…

全てのサッカー関係者が当然、俺が海外のクラブに移籍するという前提でいるのだ。


それはサッカーに限らず野球でも他のスポーツでも

同じだろう。

高額な年俸、自身の成長と飛躍を求めて海外のレベルの高いチームやリーグへ移籍する。


現代では、それが当たり前になり過ぎている。



だからこそ、俺は世間に対して『本人を置き去りにして周りが勝手に決めるな』と言いたい。


実は…


俺は…


本当は…


ずっと日本に住み続けたいんだ!



海外のクラブに移籍したいなんて一言も言っていないし思った事もない。

金やサッカー選手としてのステータスや高みよりも俺は日本に住み続ける方を選びたい。


みんながみんな、海外行きたいと思ってると思うなよ!



ヨーロッパに移籍したくない理由を箇条書きしてみた。


・治安が不安


・メシが不味そう(日本人の口に合う店が少そう)


・自炊は面倒臭いし栄養バランス考えたメシなんて作れない


・外国語なんか勉強したくないし日本語喋りたい


・海外に友達いないから海外行ったら淋しい


・コンビニでジャンプ立ち読みできない


・美味しいラーメン屋、寿司屋、焼肉屋行けない


・好きなドラマはリアルタイム視聴したい


・観たい映画あっても映画館行けない


・好きなアーティストのライブに行けない


・彼女欲しいのに日本人女性との出会いが減る


・料理だけじゃなくて掃除も洗濯もしたくない。できれば実家に住みたい・・・


そんな理由で海外移籍しませんって正直に世間に言えるか?

海外には代表戦と旅行の時だけ行きたいですなんて世間が許してくれるか?

絶対に言えないし、誰も許してくれないさ。


自分の心に正直に生きる為に、ビッグクラブからのオファーを断って日本に残っても、世間から叩かれ過ぎて日本で生きていけなくなりそうだ。


わざわざ海外に移籍しなくても、Jリーグでも充分に成長できると思っているし収入だって満足している。

そしてJリーガーとして日本代表戦で頑張ってワールドカップで優勝したい。


それが本音なんだけど、誰にも言えない…



2年後。

世間体を気にしてヨーロッパのビッグクラブに移籍した俺はサッカー日本代表の中心選手として活躍しワールドカップで日本を初のベスト8に導いた。


20代半ばで名実ともに日本一のサッカー選手と呼ばれるようになった俺は4年後のワールドカップで日本をベスト4以上に導く事を期待されている。


つまり、まだまだ世間が日本には帰らせてくれなさそうだ。

次のワールドカップで優勝するか30代になったら許してくれるのかな?


子供の頃からの俺の夢はJリーガーでした。

そして夢が叶ってJリーガーになりました。

今は不本意ながら海外のクラブに所属しているフットボーラーです。


今の俺の夢もJリーガーになる事です。

早く日本に帰って、日本で住んで、できれば生まれ育った地元にあるJリーグクラブに所属して実家からスタジアムに通いたい。

アウェーの試合の時は県外で美味しい料理を食べたり、観光を楽しみたい。


秘密の夢に向かって今日も俺はサッカーを続けている。





コントな文学『ADさん、俺って口臭いですか?』



おはようございます。


本日の撮影はキスシーンがありますので、

楽屋に歯ブラシ、糸ようじ、舌ブラシ、

歯磨き粉、モンダミン、マウスウォッシュ、

フリスク、ミンティア、口臭サプリメント、

さわやかミント系のガム、イソジンうがい薬をご用意したので使って下さい。





コントな文学『心配性 in サンポートホール高松』



僕は心配性だ。


心配性な僕は今日、ヒット曲が1曲だけのシンガーソングライターのライブに来た。


有名なヒット曲が1曲しかない。

しかも3年前の曲なのに地方の1500人キャパのホールが埋まるのか心配していた。


せめて1000人以下のキャパのホールでやった方が無難じゃないのかと心配したけど、8割以上埋まった客席を見て僕は一安心した。


だが、次の心配が僕を襲う。


唯一のヒット曲をライブの何曲目に歌うのか心配になってきたのだ。


セットリストを決める会議で「1曲目からいきなりアレ歌って盛り上げませんか?」とか言い出すバカなスタッフがいたらどうしようと心配になる。


もし採用されて1曲目から唯一のヒット曲を歌ってしまったら、目的を果たしてお客さんが一気に帰ってしまう可能性が心配だ。


じゃあライブの中盤だったら良いのか?


いや中盤でもまだ早い。

ヒット曲は1曲しかないのだ、やるなら後半だろう。


しかしアンコール前に唯一のヒット曲を歌ってしまうと、誰もアンコールしなくなるんじゃないかと心配になってくる。


一方でアンコールまで唯一のヒット曲を歌わなかったら、アンコールでも唯一のヒット曲を歌わないかもしれないって心配も出てくる。


もしも唯一のヒット曲を歌わないままライブが終了してしまった場合、チケット代は返金してもらえるのか心配になってきた…



「次が最後の曲になります、聴いてください…」


結局、シンガーソングライターは最後まで引っ張ってから紅白でも歌った唯一のヒット曲を歌い始めた。


しかし僕の心配のナナメ上をいく弾き語りのアコースティックバージョンだった。


唯一のヒット曲をアコースティックバージョンで歌い終わりステージを去るシンガーソングライター。


僕は、いや僕達は本気でアンコールした。

アコースティックバージョンでは元が取れないと心配したからだ。


アンコールに応えてシンガーソングライターがステージに戻ってきた。


そしてアンコールの最後の曲になって唯一のヒット曲を、あの国民的大ヒットソングを普通のバージョンで歌ってくれた。

客席が喜びと安心と歓声に包まれた。


だが、1回目のサビはマイクを客席に向けてお客さんが大合唱するパターンだった。


もしかして全てのサビを客が歌うパターンなのかと心配したが、その後のサビはシンガーソングライターがキッチリ歌ってくれた。



色々と心配事が多いライブだったが結果的には大満足だった。


友達が一緒に行きたいと言うから付いて来たけど、唯一知ってるヒット曲以外もライブの生演奏で聴くと、良い曲ばかりに思えたから帰りに物販コーナーでヒット曲が1曲だけのベストアルバムを買った。


「朝から3軒巡ってさぬきうどん食べてきました」と地方公演ならではのリップサービスを交えたMCも好感が持てる人柄が滲み出て好きになった。


またツアーで高松に来たらライブに行こうと思う。


そして僕はライブ中、ずっと一人暮らししてるアパートのエアコンのスイッチを切ったのか心配だったので家路を急いだ。






コントな文学『ギャップに弱い女マリコ①』



え?


ヤクザなのに?


背中に阿修羅の刺青が入ってるのに?


ケジメ付けて指も詰めてるのに?


お寿司サビ抜きなの?


カワイイ♡






コントな文学『ギャップに弱い女マリコ②』



え?


殺し屋なのに?


ナイフを使う格闘術と射撃の腕は超一流なのに?


依頼があれば女、子供でも容赦なく始末する冷酷な殺戮マシンなのに?


カマキリ恐くて触れないの?


カワイイ♡


てんとう虫だったらギリ触れるんだ(笑)


私が部屋に入ってきたカマキリ捕まえて外に逃がしてあげるね♡






コントな文学『ギャップに弱い女マリコ③』



え?


超一流のマジシャンなのに?


手先が器用で華麗なトランプカードさばきができるのに?


鮮やかなコインマジックもできるのに?


両手使って頑張ってんのに全然ブラジャーのホック外せないじゃん!


童貞だったの?


カワイイ♡


マリコがお・し・え・て・あ・げ・る♡





コントな文学『ギャップに弱い女マリコ④』



「5778円を割り勘だから…

え~と…

まず5000÷2で2500だから…

ん~と…

スマホの電卓使って計算しますね」


「東大卒業後、マサチューセッツ工科大学に入学した秀才なのに暗算苦手なんてカワイイ♡

私が奢ってあげる~♡」






コントな文学『初任給と母さんの涙』



初任給で両親に何かプレゼントをと思い、5月の父さんと母さんの結婚記念日に母の日のギフトと合わせて贈る事にした。


就職を機に都内で一人暮らしを始めたので、時間指定で宅配を届けたから受け取るよう両親に伝えて、こっそり横浜の実家に帰りサプライズで直接渡そうと計画した。


当日、物音を立てずに実家の玄関を開けてリビングに近づくと、父さんと母さんの楽しそうな話し声が聴こえてくる。


両親が驚く姿を想像しながらリビングの扉を開けると、そこには裸の上から長年使っているエプロンを着けた母さんが立っていた。


両手にプレゼントを持って立ち尽くす俺。


裸にエプロン姿でテーブルに料理を並べる母さん。


裸にエプロン姿の母さんを目で楽しみながらシャンパンを飲んでいた父さん。


まるで時が止まってしまったように固まる3人。


・・・「何やってだよ、母さん」


そう言って俺は止まった時を再び動かした。


「母さん何歳だと思ってんだよ。もう52だろ?

52歳って確かサザエさんに出てくるフネさんと同い年だぞ。

そんな格好して恥ずかしくないのか?

とりあえず服着ろよ、みっともない」


裸にエプロン姿の母さんが泣き出した。


「何泣いてんだよ、泣きたいのはこっちだよ」


「バカ野郎っ」

父さんの怒鳴り声がリビングに響いた。


「お前は何で母さんが泣いているのか分からないのか?」


「何でってバカな事をしてるからだろ?」


「違う、お前が悪いんだ。お前が母さんを泣かしたんだ」


ちょっと何言ってるか俺には分からなかった。


「分からんのか?

考えてみろ、 母さん何か悪い事したか?」


「悪い事って、裸にエプロン姿で…」


「それの何が悪い?犯罪か?

一人息子が独立して、久しぶりの夫婦水入らずの結婚記念日に、母さんが父さんの為にサービスして裸にエプロン姿で料理を作る。

そして父さんは母さんの裸にエプロン姿を酒の肴に美味いシャンパンを飲んでいた。

公然わいせつ罪には該当しないぞ」


世間的や年齢的には恥ずべきプレイだと思うけど、確かに夫婦が自宅で楽しむ分には犯罪行為ではない。

息子的に「勘弁してくれよっ」てだけの問題な気がしてきた。


父さんが真っ直ぐ俺の目を見ながら話を続ける。


「せっかく楽しくやってたのに、無断でいきなり帰ってきて結婚記念日を台無しにした上に、何も悪くない母さんを侮辱して泣かしやがって…

母さんを泣かしたお前を俺は許さない。

母さんに謝りなさい」


「なぁ、母さん…

実は今日ね、父さんと母さんに初任給で買ったプレゼントと、母の日のギフトをサプライズで渡そうと思って帰ってきたんだよ。

それなのに一体どこで間違えちゃったのかなぁ…

父さんが言う通り、俺が悪かったのかな?」


「さっきから何ゴチャゴチャ言ってるの?

あなたが100パー悪いのよ」


裸にエプロン姿の母さんに面と向かってゴチャゴチャとか100%悪いとか言われて、もう何か言い返す気力も無くなってしまった。


「そっかぁ、ごめんね母さん。父さんもごめん。

これ、初任給で買った両親へのプレゼントと母の日のギフトだから良かったら使ってよ」


そう言い残して俺は実家を後にした。


翌日、母さんからメールが届いた。


『昨日はごめんなさい。

そしてプレゼントありがとう。

贈ってくれたペアのグラスでお父さんとお酒を飲んで結婚記念日を祝い直しました。

それと、エプロンも大事に使わせてもらいます。

今度はちゃんと連絡してから来てね。母より』


何の因果か俺は母の日のギフトに新しいエプロンを母さんに贈ってしまった。


大事に使うって、それは服の上から?それともまた裸になって?


俺は母さんに聞けなかった。






コントな文学『百年の恋も冷める時』



スレンダーな体型に整った美しい顔立ちと、黒髪のロングヘアーが似合う君に、僕は一目惚れした。


付き合って1年を過ぎた初夏の頃、君は長い黒髪をバッサリ切ってデートの待ち合わせ場所に現れた。


あまりにも髪をバッサリ切りすぎて、


僕には君が・・・


蓮舫にしか見えなかった。


名前が出てこないけど、ずーーっと誰か知ってる人に顔が似てるなぁと思ってたら、蓮舫だったんだね。


きっとこの先、食事をする時も、手を繋ぐ時も、キスする時も、愛し合う時も、僕は君というフィルターを通して蓮舫を思い浮かべてしまうだろう。


一度蓮舫のイメージが刻まれた僕には、もう君と蓮舫を切り離す事はできそうにない。


もはや君が蓮舫で、蓮舫が君だ。


完全なる蓮舫になった君を見て、君に対する想いが僕の心の中から一瞬で無くなってしまった。


恋って何なんだろう?


百年の恋も冷めるってこういう事を言うのかな?



君と別れて3年が経った。


偶然、街で君を見かけた。


すると、君だと思った女性は君じゃなくて・・・


蓮舫だった。


「応援しています」とリアル蓮舫に声を掛けると、プライベートでも選挙中のように両手で僕の手を握って「ありがとうございます」と笑顔で返してくれた。


実物の蓮舫の笑顔は優しくて、握られたその手は温かく、綺麗だけどキツそうとか怖そうとか苦手なタイプという負のイメージが一気に吹き飛んだ。


もしも君より先に蓮舫に出会っていたなら、君が蓮舫になっても恋が冷める事は無かったかもしれないし、違う未来があったのかもしれないね。


これからもメディアで蓮舫を見かける度に、君の事を思い出して、遠く離れた場所から僕は君の幸せを願うだろう。






コントな文学『生きる』



「次は3日後だね。

淋しいけど、3日間だけ我慢しようね。

え?どうしたの萌たん?

何で泣くの?

泣かないで、萌たん。

そっかぁ…

3日間だけじゃなかったね…

3日も会えないから淋しくて泣いちゃったんだね。

お願い、泣かないで萌たん」


彼氏に優しい言葉を掛けられて、萌たんは更に涙が溢れ出したみたいだ。


昨日、俺が起業した会社が倒産した。


それから自己破産もした。


妻は離婚届を置いて子供を連れて出ていった。


そして今日、人生のどん底で迎えた40歳の誕生日に…


公園の隣のベンチに座る10代か20代前半の若いクソみたいなカップルがクソみたいなやりとりを繰り広げている。


「えーん。萌たんが泣き止まないと、俺まで泣きそうになるじゃんっ」


萌たんと一緒に彼氏も泣き出した。


首でも吊って楽になろうかと考えていたけど、死ぬのが何だかバカバカしくなってきた。


もう一度、頑張ってみようかな…


萌たんと彼氏のおかげで生きる活力が湧いてきた。


ありがとう、萌たん。


ありがとう、萌たんの彼氏。


でも、さっさと破局する事を祈っています。


「絶対絶対、毎晩寝る前に通話して話そうね。

絶対だよ、萌たん♡」



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『コントな文学集』 岩崎 史奇 @iwa3333

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