転生して追放されるような展開になったからワクワクしていた、けど……

ヒコサカ マヒト

転生して追放されるような展開になったからワクワクしていた、けど……

「おまえ、このパーティを抜けろ」


 転生者である運び屋は、ついにこの時が来たか、と心の何処かでわくわくしていた。






 前世で暮らしていた日本で追放からの成り上がりが流行っていた頃に転生を果たした運び屋を迎えてくれたこの世界の冒険者業界は、支援職が不当な扱いを受けているとか、チーム内でのいざこざは内々で処理されて明るみに出ないとか、そういうブラック気質なところではない。主にギルドと呼ばれる世界政府の管轄機関が実にホワイトな運営を心掛けてくれている。


 とはいえ支援職全体の評価はというものはなく個人によりピンキリ、腕の良い支援職は相応に優遇されるが性格に難があったり、他のメンバーの要求に応えられなかったりする者はどうしても離脱や脱退、追放等の憂き目に遭わざるを得ない。まぁ、これは支援職だけでなく業界全体に言えることでもあるだが。


 さて、この運び屋は前世で流行ジャンルを散々なまでに読んで来たので内心わくわくしている自分を自覚していたが、それでも内心の大半は疑問に思っていた。


 このパーティの仲は良好も良好、何ならギルドの現在所属している支部、何なら付近のそれを合わせても最も仲が良く、運び屋もそのメンバーの一員として順当な扱いをされていたと、思っている。支援職としてメンバーの要望に応えられなかったとは思わないし、ギルドから優良人物として個人登録されていることも知っている。そんな自分が何故に追放されようとしているのか全く分からない。


 呼び出されたのはパーティのリーダーであり、互いに駆け出しだった頃からの付き合いになる人間の剣士の部屋だ。他のメンバーも揃っていて神妙な面持ちをしている。自分以外のメンバーは既に知っていたこと、あるいは皆で相談して決めたことなのかもしれない。


「自分、何かした?」


 自分が除け者にされたことを悲しく思いつつ、運び屋は疑問を口にした。


「テメェ、何かしたか、って、そりゃあねぇだろ」


 疑問に返してきたのは巨人の血を引く戦士だった。巨躯と傷のある顔で凄まれると迫力が凄いのだが、その睨みを一身に受けた運び屋はこれまでの付き合いからその眼に寂しさを読み取ってしまったので、戦士を見つめ返すに留めた。


「テメェは、何でもかんでもし過ぎなんだよっ!!」

「え、何?」


 突如としてぐずぐずと鼻を鳴らし始めた戦士に運び屋は困惑した。


「世界の何処に性格が良くて料理が上手くて支援術極めてて錬金術まで使える大容量亜空庫持ちがいるんだよぉ!!」

「つまりアンタは、完璧過ぎてこのパーティで終わるようなタマじゃないのよ」


 獣人の斥候がやはり涙目になりながら戦士の言葉を引き継いだ。確かに運び屋は身体及び魔法能力向上や回復等の支援術を修めているし、気に入る調理器具がなかったから自作してやろうと錬金術にも手を出したし、転生者特典で得た運び屋に必須の亜空庫が最初から多い上で更に能力を伸ばした現在は考えるのもバカらしい程の容量になっている。だがそれは完璧といえる偉業なのだろうか。


「優秀なのに自覚はないし、世間知らずで危なっかしいし、拐かされて売り飛ばされたらどうしよう、ってずっと心配だったのよ。でも……」

「それなりに旅をして、あなたも多くを学んだことでしょう。これ以上、私達に付き合わせるのも申し訳ない」


 唇を噛んで押し黙ってしまった斥候の言葉をエルフの学者が繋いだ。確かにそれなりの距離を移動して所属するギルドの支部は幾つか変わったし、最初は全く理解が出来なかったこの世界の常識も少しは分かるようになった。しかし表面的に分かるようになっただけだ、価値観は未だに前世から抜け出せない。


「あなたは、もっと活躍すべき方だ……!」


 言い終わるや否や、学者の両目からダバッ、と滝のような涙が流れた。それに触発されて本気ガチで泣き始めた戦士と抱き合い声を上げ寂しさを吐露して泣き喚いている。ここは宿であり部屋を借りているだけなので隣の客室の迷惑を考えるべきではないのか、静かにさめざめとハンカチで目元を押さえる斥候を少しで良いから見習え、と冷静さを取り戻した運び屋は思う。


「おまえには、本当に世話になった」


 泣き始めて言葉を発さなくなった他のメンバーを代表してか、苦渋という表情を隠しもせずに剣士は頭を下げた。


「おまえなら、絶対にこの世界にすら名を広げられる。だから」


 魔王の討伐する必要がなくなり、勇者という職業がなくなって久しい。それでも狂暴な魔物がまだまだ残っているし新たに生まれるから戦闘職が活きているだけで、世の中は思ったより平和だ。そんな中で世界に名を広げるのは並大抵のことではない。


「──このパーティを抜けて、もっと活躍出来るパーティへ行ってくれ」


 剣士は、このパーティのメンバーは、運び屋ならそれが出来ると判断した故に手放そうとしている。


 ふむ、と運び屋はメンバーの言い分に一つ頷いてから椅子に深く座り直した。


「嫌だね」


 そもそもの話、運び屋にとっては嫌われていないなら出て行く理由なんて欠片もない。


「自分が世界に名を広げられる、っていうなら、君達全員纏めてその地位へ一緒に連れて行く」


 元よりこの運び屋の戦績はほぼ全て此処にいるパーティメンバーへの貢献に由来する。


「もう二度と手放すなんて言えないように今まで以上に貢献世話してあげよう」


 運び屋の性格が良いと言えるのはメンバーの性格が良いから歪まずに済んでいるだけであり、

 運び屋の料理の腕が良いのはメンバーに美味しいものを食べさせたいからに他ならなず、

 運び屋が支援術を極めたのもメンバーが常に万全の状態で戦闘が出来るようにする為で、

 運び屋が錬金術に手を出したのも調理器具作成の他にメンバーの装備修繕が理由であって、

 運び屋はこのメンバーだから亜空庫の容量を大容量から更に伸ばしたのだ。


「手始めにランクを上げようか。仲が良いだけじゃない、ってここら一帯に知らしめてやる」


 故に現状、この運び屋はこのパーティのメンバー以外への献身を全く考えていない。


「ほら、さっさと覚悟決めな」


 今までだって引き抜きの話がなかったわけではないが、全て断ってきたのだ。


「自分に気に入られたのが運の尽きと思うことだね」


 運び屋はこのパーティメンバーがとてもとても大好きなので。


 にっこりと笑う運び屋に泣いていたメンバーが硬直し、それが解凍された直後に運び屋をもみくちゃにするのだが、それはいつも世界を見守っている神のみぞ知る、という話だろう。




 これは、あるパーティが世界に名を轟かせる物語の前日譚。

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転生して追放されるような展開になったからワクワクしていた、けど…… ヒコサカ マヒト @domingo-d1212

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