異世界転生させ屋さん〜就活に失敗した俺、人を異世界転生させるためのトラックドライバーになります〜

マートン

第1話

 君、こう思ったことはないか?


 ここ数年、「異世界転生または転移、多すぎじゃない?」と。


 異世界転生するきっかけの中で一番多い事例は何か。そう、もちろんトラックに轢かれることだ。一度は、いや五度くらいはどこかで見たことあるのではないだろうか。トラックに轢かれて死んでしまい、気が付いたら異世界に転生している。そんな展開。


 あのトラックのドライバーは俺だ。俺が意図的に人間を転生させるために轢いた。それで生計を立てている。


 驚くのも無理はない。人為的なものだと知ったら異世界転生に対する夢も半減してしまうだろうから。だからこそ、これは秘密裏に行われている。だってほら、君も俺が話すまで知らなかっただろう。


 異世界転生は物語だけの話だろって?いやいや何を言っているんだ。こう聞いたことはないか?「作家は経験したことしか書けない」と。あれは本当だ。妄想だけでリアルに書ける訳ないじゃないか。


 つまり、異世界転生の物語があるということは、異世界転生は現実に実在するということだ。この世にある異世界の物語は、全て別の異世界から転生してきた者が実体験に基づいて書いているのだ。


 ほら、これも知らなかっただろう。まあ作家は己の出自を偽っているからな。知らなくても当然だ。


 おっと話が逸れてしまった。俺の仕事はトラックで轢いて異世界転生をさせることだ。異世界転移はどうなるんだって? 転移の方は管轄が違うからな。


 トラックで轢かれる以外にも死に方はあるだろって? あるよ、そりゃ。俺はトラック部門に過ぎない。


 はいはいそうだな、確かに殺さなくてもいつの間にか異世界に転生させる場合もあるな。依頼された展開に合わせてどの部門が担当するか決めるんだよ。


 いちいち突っ込んでくるなよ、うるさいな。さてはお前ラノベ好きのオタクだな?


 まあ何だ、お前は今日、俺の仕事によって異世界転生させられる予定だった。新卒で入った会社がまさかのブラック企業。サービス残業とパワハラで疲弊した心身を引きずるようにして歩く帰り道。君は徐に現れた大型トラックに轢かれて死んでしまう……はずだったんだけどな。


 悪いが、俺の轢き方が甘かったらしい。お前は死にきれなかった。死にきれなかったが、病院に搬送されるも助からない、何とも微妙な状態だった。基本、死ぬ場合の異世界転生は病死と老衰以外、即死が鉄則なんだ。条例で決まっている。


 ああ待て、そう落胆するなよ。お前みたいなやつ死んでも誰も悲しまないじゃないか。何なら死にたいって自宅の隅で言ってただろ。女を一度も入れたことの無い、五畳の風呂無しトイレ共用、月三万の自宅で。こっちもそういう奴選んでんだよ……って、更に落ち込んだみたいだけど何か悪いこと言ったか? すまんすまん、謝るよ。


 ていうか、まだ死んでないから。俺がギリギリこっちに連れてきてやったから。


 お前に残された道は一つだ。俺と一緒に働け。それが無理なら死ぬしかない。ちなみに親切心で教えてやるが、死の後は虚無しかないぞ。天国とかあると思うなよ。それ、お前の世界だけの共通認識だから。


 こっちも早くお前の代わりを見つけて轢いて転生させなきゃいけないんだ。クライアントも待ってくれないんでね。


 そうだよ、仕事だからそりゃ依頼人がいるに決まってんだろ。依頼人が誰かって? そりゃまだ部外者の奴には言えねえよ、守秘義務だよ守秘義務。


 もしお前が異世界転生できてたら、どんな人生だったかって?


 まあ大体、外れスキルだと思っていたスキルが使い方によってはチートスキルで、気が付いたらダンジョンで無双してて、気が付いたら激重な美少女たちに囲まれてるみたいな感じだな。あと紆余曲折あって結果的に世界を救うぞ。そのための人材をクライアントは欲しがってる訳だし。


 おいおい倒れ込むなよ。そっちが良かったって? うわお前泣いてんのか? 仕方ねえだろ、異世界転生し損ねちまったんだから。前向けよ、前。


 現実世界でもうだつが上がらなくて、異世界転生すらままならないなんて死んだほうがマシだって? まあまあ、そうだな、うん、そうかもしれねえけど。この仕事も悪くないぜ、色んな世界の均衡を保つことに関われるし。やりがいもある。


 死ぬのも怖いから働くって? そうかそうか、渋々って表現がぴったりの顔してるな。


 お前の指導係はエミリアだ。元は悪魔の支配する世界にいたサキュバスなんだけど……元サキュバスってのも名ばかりで、すごい人見知りするから慣れるまでは当たりつえーんだよ。そういうのお前のいた世界では何て言うんだっけ?ツンデレ?


 ああそうだ、女神様にも会ってもらわないと。転生と転移を実際に管理してるのは女神様だから。あの人もう五十六億歳になるのに未だに童貞好きで……。まあでもお前二十五歳だろ?流石にその歳で童貞はあり得ないから大丈夫か……って、何でそんな悲しそうな顔するんだよ。


 入社するなら流石にこのトラックドライバーの格好のままだとマズいな。これスーパースーツなんだよ。本当は……悪い悪い、人の中から人が出てきて驚いちまうよな。ああもう、これ胸圧し潰されてキツいんだよ。


 やーっと脱げた。ね、すごいでしょ? そこの世界の人と接触があってもいいように、これ着たら声も口調も変わるようになってるの。私の名前はクラリス。剣と魔法の世界にいた元エルフだよ。


 ふふ、会社に男の人なんていないから少し緊張しちゃった。これからよろしくね。


 あれ?何か急に元気になったね? あんなに打ちひしがれてたのにそんなに飛び回って……何か嬉しいことでもあった?


 うん、まずは女神様のところ行こうか。嬉しいなあ、私後輩できるの初めて!


 とりあえず君、大型免許持ってる?これから毎日頑張ってトラックで一緒に人を轢こうね!異世界転生させ屋さんとして!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生させ屋さん〜就活に失敗した俺、人を異世界転生させるためのトラックドライバーになります〜 マートン @7111Asahi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ