君の笑顔が見たいから

天照うた @詩だった人

――君だけは、違ったんです。


 ――この一言が、凪原なぎはらみなととの出会いだった。


「桃原さんって、太陽に虐められてるよな? 俺、そういうのほんとに許せないタイプなんだけど」



 ……だから、なんだって言うの?

 そう、言いたかった。けれど、意見を伝えることを忘れた私の口は動かない。


 妙な正義感が、一番嫌い。

 私の立場に立ったことなんてないくせに。こんな屈辱、味わったこともないくせに!



「……そんなことないよ~。何言ってるの?」



 でも、私の口から出てきたのはそんな言葉じゃなかった。

 もっともっと屈辱的で。事実なんてどこにも含まれていない。


 体裁だけ保つだけのみっともない嘘。ああ、なんて格好悪いのだろう。


 心を固めた私の本心を、きっと彼は知らない。知るはずもない。

 そう思っていたのに――


 彼は、苦しいそうな、諦めたような表情を一瞬だけ浮かべて、すぐにそれを

 そして、強い瞳を浮かべる。



「それならさ――俺と友達になってよ」



 ――一瞬で分かった。

 この人は私がいじめを受けていることを確実に知っている。そして、本気でそれを止めようとしている。


 自分が私と近づくことによって、おのれの身までこの人間社会の犠牲になる。でも、私へのいじめは標的ターゲットの増加によって減る。


 でも、意味が分からない。

 私とこの人にはなんの接点もない。私を助けるための理由とか、自分が被害を被る理由とかはひとつもない。


 私は、怖い。

 自分のせいで、他の人が嫌な思いをすることが。また、人を信じて裏切られることが。


 ――でも。

 ねぇ――あなたは、裏切りませんか? ずっと、私の味方で居てくれるのですか?


 とても信じられない。「あなた」に「私」が本当の意味で出会ったのは、きっと今日が初めてで。

 君がどんな人なのか、全くわからない。


 けれど、その瞳は、強くて。

 ――どうしようもなく、憧れてしまったんだ。



「……お願い、します」


 きっと、この選択は私の運命を変える。


◇◆◇


 それから、いろいろなことが変わった。

 まず、私に対するいじめはピタリと止んだ。いや、本当に。


 私は彼にまで迷惑をかけてしまうんじゃないかと気が気ではなかったけれど、その心配は杞憂に終わった。


 その理由がわからなくて聞くと、彼からは驚きの返答が帰ってきた。



「俺、太陽に貸しがあるんだよね~」


「……貸し」



 ――なるほど。彼が私にああやって言ってきたのは、必ず勝てるという勝算があってこそのことだったのか。

 もしかして、『いじめを許せなかった』……というのは嘘?


 そんな疑ったを受けた彼はわかりやすく身体を揺らす。



「いや、いじめを止めようとしたのはそれだけが理由じゃないから! その、翼が……っ」



 ……そこからが大事なところでしょう?それなのに、彼は「何でもないっ!」と顔を赤くして言う。


 なんだか、幸せ、だな。

 何でだろう。心なんて閉ざしたはずなのに。そんな感情なんて、知らないままで良かったのに。


 それなのに、心が動いてしまう。君のことを、追ってしまう。



「ね、湊くんは好きな人とかいないの?」



 そうやって聞くと、彼はわかりやすく肩を跳ねさせて、さらに赤くなっていく。



「……内緒」



 消えるような、小さな声でそう言った彼の様子はあからさまだった。

 ……そっか、そうだよね。彼は、私とは違うのだから。


 それは、誰なのかな。きっと可愛い子だろうな。このクラスの子? 太陽元カレの友達だったらちょっとやだな。

 言葉が、頭の中に浮かんでは消えていく。全部、湊くんには伝えられない。誰にも認めてもらえないままどこかへ行ってしまう。


「そっか。叶うと、いいね」



 私は、彼の反応を見るのが怖くてそこから逃げた。


◇◆◇


 ……「湊くんの好きな人って、誰なの?」


 声に出さずに、口だけで呟く。


 その一言が、言えてしまえば楽だと思う。きっとこのどうしようもない気持ちだっておさえられると思う。

 けれど、これは湊くんにとって迷惑だ。

 好きだからこそ、君の笑顔が失われるのなんて嫌だ。

 ――君に救われたから、次は救いたい。だなんて。そんなことが私なんかにできるわけない。

 だからこそ、君には笑顔でいて欲しいんだ。……これが、迷惑なのかもしれないけれど。


 ピロン


 その時、送られてきたメッセージは湊くんからだった。



『ねぇ、俺の好きな人知ってる?』


 まるで、心を読まれてしまったかのようでビクっと肩が震える。


『知らない』


 そうやって送ると、このトークルームを開きっぱなしだったのか、すぐに既読が付いた。


『電話しても良い?』


 メッセージとして、そのことが残るのが嫌なのだろう。

 ……だったら、わざわざ教えてくれなくたって良いのにね。


 了承のメッセージを送れば、すぐに電話がかかってきた。



「はい、桃原で……」


『お前だよ』


「……え?」


『だから、俺が好きなのはお前だよ』



 ……嘘だ。

 虐められていた、私が? 何もできない私が? 迷惑を掛けてばかりの、私が?


『だから』



 次の言葉との間が長かった。私の頬は、その間も熱くなり続ける。




『俺と、付き合ってください』

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