第6話 弟子と神弓と狂乱の終幕

第6章(最終章)

旧魔王領と王国の狭間にある村「ハザマ」は、魔王復活の騒ぎが続く中、ゴルド・ハンマーブレイドの鍛冶小屋を中心に奇妙な平和を築き上げていた。


鍛冶小屋は半分がオープンで、作業場から庭先が一望できる。庭先の木製テーブルでは、勇者パーティの剣士、魔法使い、盾男、魔将、リリスティア、ガストン、クレア、そして村人たちが集まり、ゴルドの飯を囲むのがもはや日常だった。


45歳、髭ボサボサ、筋肉隆々のゴルドは、「伝説の最強武器」を作る夢に取り憑かれ、今日も鉄を叩き続ける。納得いかない武器は絶対に売らず、世界最強の逸品を日常に変える狂気が、ハザマに賑わいと絆をもたらしていた。


その日、庭先ではいつもの面々がテーブルを囲んでいた。

剣士が箸を手に持つ。「おっさんの飯、やっぱ最高だぜ!」

魔法使いが笑う。「毎日これだから、魔王倒すの忘れそうになるよ」

盾男が頷く。「この味、他じゃ味わえねぇな…」

魔将が言う。「フン、我が軍の料理長が嫉妬するレベルだ」

リリスティアが冷たく笑う。「屈辱だけど…美味しいわね」

ガストンが割り込む。「この飯を売り出せば、私の名が世界に!」

クレアが唸る。「戦場帰りでも、ここなら癒されるぜ…」


そこへ、見慣れない少年が庭先に駆け込んできた。15歳くらい、ボサボサの茶髪にボロボロの服を着た少年だ。彼はゴルドの前に土下座し、叫ぶ。「鍛冶屋さん! 噂を聞きつけてきました! 俺、鍛冶屋見習いのレンって言います! 弟子にしてください!」


ゴルドは作業場で鉄を叩きながら振り返る。「弟子ぃ!? そんなもん必要ねぇ。俺は忙しいんだよ」


レンが目を潤ませて食い下がる。「そこをなんとか! なんでもします! 雑用でも、水汲みでも、食事作りでも! お願いします、最強の鍛冶屋さんに弟子入りしたいんです!」


庭先の面々が一斉に口を挟む。剣士が言う。「おっさん、可哀想だろ。弟子入り検討してやれよ」

魔法使いが頷く。「そうだよ、少年の夢を潰すなんてひどいよ!」

盾男が続ける。「なあ、いいじゃねぇか。一人くらい」

魔将が笑う。「フン、鍛冶屋の技術を継ぐ者がいてもいいだろう」


ゴルドはハンマーを振り下ろしつつ一喝。「やかましい! 黙って飯でも食ってろ!」


リリスティアが妖艶に笑う。「というかさ、鍛冶屋。工房ごと魔王領に来なさいよ。100人でも200人でも弟子をつけてあげるから。魔王軍の資源で思う存分武器を作れるわよ」


ゴルドは鼻を鳴らす。「そうじゃねぇ…ここじゃねぇと俺は武器を作れねぇ…作れねぇ理由があるんだ」


庭先が一瞬静まり返る。全員が息を呑み、目を丸くする。

剣士が呟く。「理由…?」

魔法使いが考える。「やっぱ特別な材料が必要で、この辺からしか産出されないとか?」

盾男が頷く。「いや、家族の墓があって離れられないとかじゃねぇか?」

魔将が言う。「フン、呪いで動けないとか、そういうことだな」

リリスティアが目を細める。「何か深い事情があるのね…」

ガストンが興奮する。「これは商機! 伝説の裏話で売り出せる!」

クレアが唸る。「戦士らしい理由なら俺も納得だぜ」


レンが土下座したまま呟く。「どんな理由でも、俺は弟子になりたいです…!」


全員がゴルドの次の言葉を待つ中、彼は作業場で鉄を叩きつつ一言。「お、今日の飯は鳥にするか」


庭先の隅から新武器「神弓ウィンドチェイサー」(攻撃力1320)を手に持つ。流線型の弓身に風の紋様が刻まれ、弦を引かずとも微かな風が渦巻く。ゴルドは庭先に出て、弓を軽く構えると、自動追尾の矢がビュンと飛び出し、空を舞う鳥にグサッと命中。鳥が落ちてくるのを片手でキャッチする。


剣士が目を丸くする。「なんだ今の動き!? 自動追尾だと!?」

魔法使いが叫ぶ。「攻撃力1320!? 弓であの威力!?」

盾男が唸る。「すげぇ…楽勝じゃねぇか…」

魔将が呟く。「もう慣れてきたな…驚く気にもなれねぇ」

リリスティアが呆然と言う。「また新しい武器…」

ガストンが震える。「どうせ売ってくれないんですよね…」

クレアが叫ぶ。「おい、その弓売れよ! 傭兵団に必要だ!」


ゴルドは弓を肩に担ぎ、鳥を手に持つ。「よし、良い食材が手に入ったな。これだから、この村からは出られねぇ」


庭先全員が一斉に「えぇーーー!!!」とズッコケる。

剣士が頭を抱える。「まさか…理由ってそれだけ?」

魔法使いが呆れる。「特別な材料とか呪いとかじゃなくて…食材!?」

盾男が笑う。「想像以上にしょっぺぇ理由だな…」

魔将が唸る。「フン、鍛冶屋らしいっちゃらしいが…」

リリスティアが呟く。「深い事情じゃなくて…ただの食い意地…?」

ガストンが肩を落とす。「伝説の裏話が…これじゃ売れませんよ…」

クレアがため息をつく。「あー、もうでもどうでもいいか。どうせ売ってくれねぇし」


レンが土下座から顔を上げ、目を輝かせる。「食材か…でも鍛冶屋さんの武器すごい! やっぱ弟子になりたい!」


ゴルドは鍛冶小屋の作業場で鉄を叩きつつ、庭先のテーブルに料理を並べ始める。その夜、庭先ではいつもの面々にレンも加わり、賑やかな飯が始まった。

メニューは「神弓ウィンドチェイサー」で仕留めた鳥の香草焼き、「風刃エアロスラッシュ」で薄切りにした根菜のサラダ、「炎剣レーヴァテイン」で炙ったキノコのスープだ。


剣士が鳥を頬張りながら笑う。「この香草焼きが食えるなら、魔王倒すの後回しでもいいか!」

魔法使いがサラダを食べて微笑む。「ハザマにいると、戦う理由忘れちゃうね」

盾男がスープをすする。「この味があるなら、俺はここでいいや」

魔将が渋々言う。「フン、魔王様より鍛冶屋の飯を選ぶ日が来るとはな…」

リリスティアが笑う。「まあ、魔王領より居心地いいし、私もここがいいかな」

ガストンがスープを飲みつつ呟く。「商才より…この飯の方が大事かも…」

クレアが豪快に笑う。「傭兵やめて、ここで暮らすのも悪くねぇぜ!」

レンが目を輝かせて言う。「鍛冶屋さんの料理、最高です! 弟子にしてください!」


ゴルドは作業場で鉄を叩きつつ、庭先に声をかける。「ふん、料理も納得いかねぇな。次はもっとうまく作るか。…お前ら、腹減ってんなら食えよ。弟子なんざ知らねぇが、飯くらいは食わせてやる」


庭先全員が一斉にズッコケつつも笑い合い、レンが嬉しそうにテーブルに座る。


ゴルドは弟子を取る気はないままだったが、ハザマの庭先はいつしか勇者も魔王軍も傭兵も商人も、みんなくつろげる場所になっていた。

剣士が空を見上げて呟く。「魔王倒すのも大事だけど…ここでいいかもしんねぇな」

魔法使いが笑う。「だね、ハザマが平和ならそれでいいよ」

ゴルドは鉄を叩き続け、「納得いかねぇ」を呟きながらも、どこか満足げに鼻を鳴らす。


ハザマの夜は、ゴルドの狂気と飯が紡いだ絆で、賑わいを響かせていた。


そして明日もまた、ゴルドは新しい武器を作り、納得いかねぇと庭先に積み上げていくのだろう。


今日も、そしてこれからも、ハザマはゴルドのおかげで平和だった。



おしまい

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納得いかないから売らねぇっつってんだろー最強鍛冶屋の狂宴- フェニックス太郎 @yuzu1023

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