〜forever〜

愛世

forever

 全てが始まった、中学三年生の夏。君がこんなにもかけがえのない存在になるなんて、あの時の俺は、夢にも思わなかった――。





 俺に恋を教えてくれたのは、君だった。

 そして、俺に後悔を教えてくれたのもまた、君だった。


 俺はこれまでの人生で、君を三度失った。


 一度目は、高校二年生の夏。ずっと隣にいた君がどこか特別な存在だと気づいたのは、俺が別の子に告白して付き合い始めた直後だった。君に泣いて訴えられた、あの夏の日。俺に背を向けて去っていく君の姿を、今でも覚えている。


 二度目は、高校卒業式の日。進路も決まり、それぞれの道を歩む俺達。君との関係を修復しようと必死だったけれど、結局君は俺に微かな唇の余韻だけを残し、「元気でね」と静かに笑った。あの時の微笑みが、どこか悲しげだったことに気づいたのは、随分と後になってからだった。


 三度目は、大学二年生の春。再会を願い続けていた俺のもとに、共通の友人を通じて、君に恋人ができたという噂が届いた。風の噂は時に残酷で、君が誰かと並んで歩く姿を想像するだけで、俺は息が詰まりそうになった。


 それでも、俺は諦められなかった。


 あの頃のように、俺の隣で君が笑うことを。

 あの頃のように、君の隣で俺が笑うことを。


 だけど、奇跡なんてそう簡単に起こるものじゃない。


 君は知ってる?

 俺が友人の清水きよみずさんを通じて、たくさん君の話を聞いていたことを。


 君は知ってる?

 俺が君に会いたくて、中学の同窓会を提案したことを。


 そして俺達の人生は再び交わり、俺はようやく君の手を取ることができた。奇跡なんてそう起こることではないけれど、これを奇跡と呼ばずして何と呼ぼうか。


 ――そして今日、俺は君を迎えに行く。







「――新婦の入場です」


 厳かに開かれるチャペルの扉。

 そこに現れたのは、純白のドレスに身を包んだ君だった。


 ふわりと揺れるヴェール。指先まで丁寧に仕上げられた繊細なレース。

 目を伏せ、ゆっくりと歩を進めるその姿は、まるで夢のようで。


 一歩、一歩、君はたくさんの想いを乗せてバージンロードを歩く。

 その先にいるのは――俺。


 何度もすれ違い、何度も道を迷い、それでもまた君を望んだ俺。

 そして、俺を選んでくれた君。


 長かった。

 ここまでが、本当に長くて。


 たくさん笑いあって、たくさんふざけあって、たくさん喧嘩して、たくさん泣いて。

 それでも「隣にいる」と決めた俺達は、もう二度と離れることはない――。


「……汝、病める時も健やかなる時も、常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合うことを誓いますか?」


 神父の問いを受け、俺は君の瞳を真っ直ぐ見つめた。すると澄んだ瞳が、真っ直ぐ俺を見つめ返してきた。


「はい、誓います」


 教会中に響く、君の声。


「俺も、誓います――」


 祝福の拍手が降り注ぐ。

 けれど、その音すらも遠くに感じるほど、俺の世界は君だけで満たされていた。


 君と、これからを生きていく。

 それが、何よりも尊いことだと、心から思うから――。









「――未来みらい永遠とわ


 君が、二人の名前を呼びながら駆け寄ってくる。

 太陽の光にも負けないくらい、輝く笑顔で。


 青空の下、俺達が中高生時代を共に過ごした、あの街で。


「――遥香はるか!」


 俺が手を伸ばすと、君は花が咲いたようにふわりと笑った。


奏汰かなた……」


 君は俺の手を取り、そして小さな娘と息子を優しく抱き締めた。


 俺と、君と、娘と息子。

 四人集まって、笑顔の絶えない、この瞬間を――。


「ねぇ、遥香」

「ん?」

「……君は今、幸せ?」


 俺の問いかけに、君は迷わず頷いた。


「もちろん。奏汰と子供達がいる、この日々が私の幸せだよ」


 それを聞いた俺はフッと微笑んだ。


 俺の幸せは、隣に君がいること。

 君の幸せも俺の隣にいることならば、俺はこれからも君を幸せにし続ける。


 ――これからも、ずっと。



 「……ありがとう」

 「……こちらこそ」


 手を繋ぎ、俺達は未来へと歩き出す。


 これは、俺達の物語。

 そして、これからも紡いでいく、幸せの物語――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

〜forever〜 愛世 @SNOWPIG

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ