14
すでに薄暗くなった旧校舎の教室で堂林成美と横川つむぎは扉が開いたままの金庫を半ば呆然と眺めていた。
揃い立つ二人の視線の先には金庫の上に積み重ねられた古い雑誌の山。
シンと静まった教室の中、みじろぎもしない彼女たちの微かな息遣いだけが唯一の音だ。するとしばらくしてその沈黙に耐えかねたように成美が不意に声を落とした。
「でも、まさか本当に開けちゃうなんてね」
「うん、まだちょっと信じられないよ」
頷いたつむぎが次いで口を手で覆い忍び笑いを漏らす。
「それにしても金庫に収められていたのが、まさかこんなものだったなんてねえ。私、悩んで損しちゃった」
「ホントだよ。相談された私も虚しい気分」
成美が肩をすくめるとつむぎは一番上に置かれた雑誌を手に取った。
雑誌のタイトルは『魔女降臨』、その隣は『妖精たちの讃歌』、他に『天使の休日』などというものもある。恐々とした手つきでその『魔女降臨』をパラパラめくると、確かにそこには魔女コスプレをした半裸、全裸のあられもない年若い女性のどぎついグラビアが紙面に次々に現れては去っていく。
つむぎは雑誌を閉じると苦笑いを浮かべて金庫の上にそっと戻した。
「そういえばさ、この学校って昔は男子校だったんだよね」
「うん、聞いたことあった。まったく男子ってのはいつの時代も……」
埃っぽい薄闇の教室の中で二人はひとしきりクスクスと笑い合い、それからどちらからともなく真顔になった。
「成美、ところでさ」
「うん」
「湊くんて、もしかして魔術師かなにか?」
「違うと思うよ」
「じゃあ、いったいどういう頭の構造してんだろうね」
「さあ、それは私も不思議。でも彼と同じクラスの後輩に聞いてみたけど別に目立って成績が優秀ということはないみたいだよ」
「ふうん」
しばし沈黙。
そしてつむぎが口を開く。
「彼、種明かししてくれないまま帰っちゃったね」
「うん」
「それになんだかちょっと怒ってたみたい」
「うん、そんな感じした」
「私たち、悪いことしたかな?」
「どうだろうね。そんなことないんじゃない。面倒はかけたけどさ」
窓の外からカラスの鳴き声が聞こえてきた。
「さ、もう行こっか」
「うん、そだね。私は戻ってパート練習に顔出さないと」
「私も部室に顔出して金庫が開いたことを部員に知らせなきゃ」
そう返したつむぎは雑誌を数冊ずつ重ねて持ち、金庫の中に戻していく。
その様子を見て、成美が失笑する。
「戻すんだ、それ」
「だってこのままにして誰かに見つかったら、文芸部員としてちょっと恥ずかしいから」
「まあね。じゃ、手伝うよ、私も」
成美が残りの雑誌の山を持ち上げ膝を屈めたその時、不意につむぎが不審な声を上げた。
「あれ、なんだろこれ」
「うん? どうしたの」
「金庫の天井になんか貼ってある」
つむぎがその紙の一端を摘むとその紙片を貼り付けていた古いセロハンテープが息絶えたように天井から手を離した。そして剥がれ落ちたA4サイズほどのその紙片には一面に奇妙な古代文字のような羅列があり、その上端に細やかな字体の日本語でこう記されていた。
『声なき者たちの眠る場所について』
それを見たつむぎは眉根を寄せて首を傾げ、成美も同じように首を傾けるとそれから唇の端を微かに持ち上げてニヤリとした。
森のどこかで数羽のカラスが一斉に鳴いた。
<了>
あかずの金庫 奈知ふたろ @edage1999
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