隣で・・・

hana🌸

第1話

初夏の暑い日。

彼は、釣りを楽しんでいた。


私は、

川の中へ入って釣りを楽しむ彼を、

河原の日陰で、ボーッと眺めている。


そう、眺めているだけ・・・・


朝早く・・・・と言うか・・・・

夜中に出発して川の上流へ出掛けた。


日が昇った頃から、

現在・・・お昼まで、

私は、座って目を開いて息をしている。


そう、それだけをして過ごす。


私が持って来たおにぎりを食べる為に、

川から上がった彼が、

河原の日陰で見ていた私の隣へ

腰を下ろして、食べ始める。


食べ終わって、彼はゴロンと寝転がる。


暫く、話をしていたのに、

いつの間にか、

答えなくなった彼を見ると、

疲れていたのか寝てしまっている。


子供みたいな彼の寝顔を見て、

ふと思う。


真っ黒に焼けた顔に、

風が抜けて、短い髪をなびかせる。

風下にいる私に、

僅かな彼の汗と煙草の香りを運ぶ・・・


彼の小さな寝息が少し大きくなって、

風が私の耳に届ける・・・


小さな蟻が、

彼の腕から胸の辺りに上がり、

顔に近づいて来た時、

私は、少し意地悪を思った。


クスッ。

そのまま見ていたくなった。


顔に上がった蟻を彼は、

無意識だと思うけど、

くすぐったそうに払いのける。


私は、いたずらっ子の様に、

クスッ。クスッ。と笑う。


何度か払うと、

居なくなってしまった。


私は、おもちゃを取り上げられた

子供の様な気分になる・・・・


そして、彼は何事も無かった様に、

また、寝息をたて出した。


今度は、隣に並んで寝てみた。

大きくなった寝息が、

もっと近くに聞こえて、

私は少し微笑んだ。


あれ!?微笑んだ??

私、嬉しいのかな?寝息が??


でも、

彼が釣りに夢中になっている間は、

私は、こうしてほったらかし・・・

それって、寂しい・・・でしょ?


うん、一緒に寝る人が居るのって、

隣で、

誰か寝ているって感じるのは嬉しい。

良いなって思うの。


自問自答してみる。


寝返りを打つ彼の腕が私に触れる。

そんな一瞬が・・・・とても好き。


私が持っている重たい荷物を、

「かせっ」って持ってくれる時よりも?


私の話を笑いながら、

時には真剣に聞いてくれる時よりも?


車を運転している

真剣な眼差しを見るよりも?


子供みたいに、

好きな事に夢中になっている彼を、

見ている時よりも?


一番好きなのは・・・・・


私が寝ている隣で、

寝息をたてる彼を感じる事

・・・・なのかなっ・・・・・


そんな事を考えながら、

いつの間にか眠ってしまった私が、

目を覚ますと彼と目が合う。

起きたか?と問い掛ける彼。


寝顔を見られていた事に気が付いて、

私は、

自身の顔に熱を持つのを感じる。


その熱は、胸に伝わり、

ドキドキと高鳴り、キュンと鳴く。


彼が、そんな私を横目に微笑む。

そして、私の肩を抱く・・・・


あれ??

私、この瞬間が一番好きなのかな??


この小さな幸せを、心の中に、

感じられる事が、嬉しいのかな・・・

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