運動会ってなんでこんなわけのわかんないイベントがあるの。 ~東高の愉快な日常

Tempp @ぷかぷか

第1話 運動会って

 俺氏は運動会はあんまり好きじゃなかった。

「なんで? 楽しいじゃん」

「ばっ。高校生にもなって運動会好きとか、坂やんだけじゃん」

「そんなことないと思うけど……」

「ないって」

 坂やんはなんていうか、天然なんだ。まあ確かに思い返せば小学校の頃は面白かった気がするんだけど、さすがに高校生にもなれば運動会が楽しみで夜も寝ないなんて奴はいないだろ。坂やんは夜は良く寝るタイプだし。

 坂やんはいい奴で……だから今も運動会の備品を運んでる。実行委員ではなかったはず。俺といえば段ボール箱を運ぶ坂やんにただついていってるだけ。だって下手に手伝ったら何か押し付けられるかもしれないじゃんね。でも炎天下でぼんやり座ってるのもやだし。

「え?」

「だから悠平ゆうへいは運動会のどこが嫌いなの?」

「全部? かったるいじゃん。特に騎馬戦とかさ、なんで男を首に乗せないといけないわけ? 気持ち悪いじゃん」

 そうして俺は、坂やんの背中にぶつかって、そして坂やんは段ボール箱をぶちまけた。突然止まる坂やんが悪いっていうか慌てる坂やんの向こうに誰かがいて、つまりぶつかってくる奴が悪い。

「悠平、何やってるんだよ」

 そう言って俺をにらみつけるのは時康ときやすだった。にらんでるってことはじゃあきっと、俺が勝手にぶつかったんだ。

「時康こそ何やってんだよ」

「俺は実行委員会なの、つか拾えよ、それ次使うんだろ」

 お前もと思いつつ時康を見ればすでにしゃがんで段箱から散らかった紙を拾ってた。


「何これ?」

「何って借りもの競争じゃん」

「いや、つか」

 いくつか拾って中を見れば、「赤い」とか「よくすべる」とか変なことが書いてある。

「これってよく滑るものを借りてくんの?」

「お前本当に説明聞いてないな」

 時康があきれ顔で俺を見るのはいつものことなので、既に耐性がついている。

「借りられないから無駄な手間がかかってんだろ?」

「借りられないって借りもの競争じゃないん?」

 そこまで呟いてなんとなく思い出した。

 去年だかに借りてきたものを転んで壊すことがあったらしく、それがモンペかなんかで揉めたんだ。だから客から借りるんじゃなくて学校側ですでに用意してるんだっけ?

「そう。だからこの紙が重要なんだろ」

 俺が2つ拾ううちに時康は10枚は拾って坂やんの段箱につっこんでる。学校側で用意したものを拾うだけだと早い者勝ちになっちゃうから、大喜利みたいに言葉を組み合わせるんだった。例えば「赤い」「アナログ」「時計」とかそんな感じで、3つ組み合わさったものを取る。

「なんでこんな面倒くさいんだよ」

「そういうなよ、何かしないといけないんだから」

「やっぱ運動会って面倒くせえ」

 何が面倒くさいって、やっぱり一番は点数だな。次は借りもの競争だけど、クリアした順にクラスに点数が入るんだよ。


 そんなこんなでやってきました借りもの競争。

 何故だかクラスはそれなりに盛り上がっていた。俺は一番最後の組だ。何故ならみんな早い組をやりたがる。紙の選択肢が多いから。それに最終組ではだいたい趨勢が決まっているし。そんなわけでパンと空砲が鳴って、とりあえず紙を見落ろし「なめらかな」「豆腐」とあと1つと考えていると豆腐が撮られてしまった。あいつ豆腐で何を作るんだと思っていたら、もう3つしか紙が残っていない。「天下無双」「ダンス」「布団」。何をどうすればこれが残るんだ。そうして嫌な予感がして振り返れば、既に協議を終えた同級生の何人かが俺をにらみつけていて肝を冷やす。そして残りの何人かが点数ボードを見ていて背筋が凍る。1位タイ……。そしてフィールドにはすでに俺しかいない。

「嘘ぉ」

 つまりここで俺が点を取れば勝てるわけだが。

「無茶です」

「無茶でもなんとかしなさい!」

 委員長が怖い……。

 とりあえず箱に布団があることは確認した。けど天下無双のヒントはない。チャンバラ用のプラ刀はあるけどダンスはどうしたらいいんだよ。

 や、もう無理だから諦めね?

 えーと、ダンス、で、天下無双? 天下に並ぶものがないっていう意味だよな。ダンス?

「えーと、時康借ります」

「借りられるのは箱の中のものだけです」

 答える実行委員は時康だった。


「あのさ、俺クリアしないと委員長に怒られる。だから、箱の中に入って」

 時康は苦虫をかみつぶしたような顔をする。だから耳打ちした。

「お前、うちのクラスが勝つのに賭けてただろ?」

「それとこれとは別だ」

 昨日、クラスの男子5人でどこが勝つか賭けた。勝てば1週間分の学食代、つまり負けた奴が買った奴に1食おごることになってる。

「借りもの競争で買っとけば有利じゃん、win-win」

「俺が手伝うとして、何か言葉が成立するのか?」

「まあ、俺が躍っても借りてないし」

「ちょっと待て、俺は踊らんぞ。第一天下無双どうするんだよ」

「まぁまあ、それは何とかするから」

「ちょ、まて、まじか」

 そうして俺は箱に入っていたペンで天下無双と書いた布団カバーを時康にかぶせ、つつきまわせば踊ってるように見えるはずだ。

「借りました!」


 そして審議に入った。

「あの、これはちょっと違うんじゃないでしょうか」

「なんで?」

「時康君は借りものじゃありません」

「ルールではグラウンドにある箱に入っているものだよね?」

「天下無双ではないですよね?」

「逆に聞くけど、どうやったら天下無双って判定できるのさ。どこでわけるつもりなわけ?」

「う……でも、踊ってないですよね?」

「表現にけちつけるの? お前の踊りは踊りじゃないって」

「いや、そもそもですね!」

 だいたいの屁理屈で俺は負けないのだ。目の前で仁王立ちする不満顔の女子を眺める。

「あんた実行委員だろ」

「そうですが」

「失格にしたら時康がかわいそうだろ」

「ぐぅ」

 そんなわけで、通常の半分だけ加点された。それでもタイだったのでうちのクラスの勝ちだ。全員が釈然としなくても、勝てばそれでいいではないか。

 そう思って満足していたら、最終的に優勝したのはうちのクラスじゃないのに翌週の飯代を時康におごることになった。解せぬ。


Fin


なんか煮え切らないのであとでちょっと直すと思います。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運動会ってなんでこんなわけのわかんないイベントがあるの。 ~東高の愉快な日常 Tempp @ぷかぷか @Tempp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ