山田太郎という男

おめがじょん

山田太郎という男



 ドクター村松が作成した至高のダッチワイフに『天下無双』シリーズという逸品があった。その感触たるや生身と同等。温度調節機能。更には音声のカスタマイズまでできるという天下無双の名に相応しい機能を有していた。

 そしてその逸品は今現在、流星寮の広間に存在している。最奥には布団が敷かれ、天下無双ダッチワイフシリーズの一つが寝かされていた。勝者のみが今宵彼女と布団の中でハッスルタイムを楽しめるというわけであった。そして部屋には数人の寮生達の姿があった。誰も彼もが生々しい傷だらけだ。これが寮の大掃除で発見されて以降、血で血を洗うような抗争が三日三晩繰り広げられ、流星寮存続が危ぶまれた。そんな最中、寮長である不死川が高らかに宣言をした。


「決着は"死合い"でつけよう」


 死合いとは流星寮創設時代から存在する伝統行事である。参加者全員で一つの競技を行い、最後まで立っていたものが勝者となるサドンデス方式だ。競技内容は参加者一人一人が自身の得意競技を書いた紙を箱に入れ、抽選方式となる。【オナニー選手権】【天下一武道会】【神経衰弱】と各自自分の得意競技を紙に書いた中、立会人となった不死川が引いたカードは、


「ほぉ……今宵はダンスバトルのようだね」


 ──ダンスバトル。それだけで誰が書いたのかがわかった。流星寮三年、山田太郎だ。国籍は日本人だがどう見ても外見は筋肉隆々の黒人である。山田の提唱するダンスバトルは耐久性だ。体力の限界まで踊り続け、5秒以上動きが止まった人間から脱落していく競技だ。

 

「それでは競技を始めようか。バトルスタート!」


 いそいそと参加しない寮生がDJ機材を立ち上げて音楽を流し始め、男達がステップを始める。優勝候補はやはり、無限の体力を誇る田中。次点でマッチョの山崎とこれまた体力のある八代である。 

 

「キエエエエエエエッ!」


「先手必勝!!」


 踊りながら三年生の関根と峯田が山田へと襲い掛かった。踊っていればいいので攻撃はアリなのがこの死合いの特徴だ。その証拠に立会人の不死川は心底どうでもよさそうだ。しかしそれを読んでいた山田のカウンターが関根と峯田の鳩尾に入った。呼吸が止まりつい蹲ってしまう。その間に5秒が経過してしまい、2人は失格となった。様子を伺っていた山崎と八代は動かない。まずは体力を温存しながら隙を伺うのが2人の作戦だ。そして、競技が始まって30分が経過した。男達の荒い吐息が室内に響き、1人、また1人と熱くなって服を脱いでは脱落していった。


「くっそ……! 昨日5発もヌいたから体力が……!」


「俺もだ……! ちなみに7発だけど!」


「いやいや、俺なんか10発……!」


 全裸の男達が宇宙一しょうもないない見栄の張り合いを繰り広げている。最低な空間であった。30分もステップを踏み続けては流石の体力バカ軍団にも疲れが見えてきた。ここで山田が一気に攻勢に出た。魔術印を展開して辺り一面に粘液をバラまいたのだ。


「くっ……!」


「足場が……!」


 八代と山崎が苦悶の声を上げた。足場が不安定では山崎の怪力も八代の速さも封じ込められてしまった。それは山田も同じ条件ではあるが、余裕は崩さず二ヤリと笑った。


「ブルックリン時代の血が騒ぐぜ……!」


 山田が腰を落としウィンドミルでぐるぐると回り始めた。

 身体強化魔術で強化された肉体で肩を軸に猛スピードで八代達へと接近する。


「ブルックリンって……!」


「先輩日本人じゃ……!」


 山田の回転の勢いをつけた蹴りが八代と山崎の股間に炸裂し、2人は悶絶したまま動かなくなった。

 

「はい。勝者は山田だね」


 八代と山田が脱落した事により優勝者は山田になった。山田太郎。流星寮で一番経歴が謎で設定すら滅茶苦茶な男はのっしのっしと布団まで歩いて行った。


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山田太郎という男 おめがじょん @jyonnorz

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