創作落語〜お座敷遊び〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

創作落語〜お座敷遊び〜


 KAC2025の三題噺

「天下無双」「ダンス」「布団」より



 三題噺とくれば思いつくのは少し前の輿入こしいれのお話ですな。


 江戸の吉原の花魁・滝川たきがわが身請けされたアノ話でございます。


 え、皆様もご存知の通りでございましょうが、滝川は美人だが女だてらに怪力無双。天下に二つとなしの花魁とすればまさに『天下無双』の力自慢。


 なんたって客を取る前に必ず手合わせするってんですから、こりゃ珍しいと客がつく。


 ええ、手合わせったってアレじゃありませんよ。腕相撲なんでござんす。


「腕相撲であちきに勝ったら一晩お付き合いするでありんす」ってんですから、ちょっとした力自慢はもちろんのこと、町内で少しばかり力仕事してるってだけの奴も腕試しだとばかりに押しかけまして。


 え?


 どうなったかって? そりゃみなさんご存知の通り、誰一人勝てないってんですからまさに『天下無双』の力自慢——!


 それがこの春、仲町の油問屋の若旦那が身請みうけしたってんですから皆驚いた。


 ええ、なんたって大店おおだなの若旦那ですからね。


 あんなこと言ってたって、結局はお金かと皆さんがっかりなすったことでしょう。


 ところがね。


 この若旦那、ちゃあんと滝川と勝負したんだってんだから驚きだ。


 油問屋の若旦那。え? 知ってる?

 そうそう、ナヨっとして頼りない。親としてはしっかり者の嫁さんが欲しいところだ。


 若旦那本人もね、どうも気の強いのが好きみたいでね。滝川に惚れてたそうだ。


 だけど相手はこと腕相撲に関しては本職の相撲取りだって勝てない腕っぷしだもんで、若旦那も悩んだね。悩んだ挙句に幇間たいこ持ちの佐吉さきちにお悩み相談だ。


「ああ、アタシにもっと力があれば滝川と仲良くなれるのに」


「やっ、若旦那! 若旦那には金の力があるじゃないですか」


「おべっかはおよしよ、佐吉。滝川がそういうのに興味ないのは承知だろう」


「ええ、じゃあ若旦那、思い切って滝川に挑んでみたらいいじゃないですか」


「アタシの細腕じゃ勝てっこないよ」


 メソメソする若旦那に佐吉がそっと耳打ちする。


 とたんに顔がぱっと明るくなる若旦那。


「そんなのうまくいくかねぇ」


「やってみなくちゃわからねえってやつですよ!」


 ってんで、佐吉をともない若旦那は滝川のいる椿屋つばきやへ。


 え、もちろん茶屋を通して手順を踏んで、滝川に腕相撲を申し込む、ってえと彼女の方もね、慣れたもんです。


 座敷に腕相撲用の台をこう、置きまして。ただの酒樽じゃ味気なくっていけませんな。いかにもお座敷の遊びの一つの様に鮮やかな緋色の絹で絢爛豪華に飾り立てております。


 その台座の向こうで滝川ははすに構えて銀の煙管キセルをふかしたりなんかいたしまして。


 その前に現れましたる若旦那。


 これが着物は黒で決めてお洒落なんですがいかんせん線が細いナヨっとしてる。二人は多少の顔馴染みでありますから滝川も舐めてかかる。


 そこへ若旦那が真面目な顔でこう切り出した。


「滝川、この勝負にアタシが勝ったらうちにお嫁にきちゃくれないかい?」


「冗談はおよしんす。わっちのようなモンをお嫁にしちゃあ、おたなが潰れますわいな」


「椿屋の旦那に話はつけて来たんだよ。アタシがお前さんの嫁入り道具を揃えてやるなら身請けしても構わないってさ」


 ここで滝川、ちょっと心が揺れます。確かに売れるうちにいいおたな御新造ごしんぞさんにでも収まれば、あとは安泰。いわゆる勝ち組になれます。


 その一方で、腕自慢で客と肌を合わせず稼いできた自負もある。いやさ真っ向勝負の滝川だ。


 迷いを捨てて台の上に白い腕を乗せた!


「あちきに勝ったら好きにしなんし」


「約束だよ滝川」


 後から若旦那が黒の着流しの袖から腕を出す。


 なんとも艶やかな腕だ。


 それと手を組んだ瞬間、滝川は「あっ」と驚いた。


 なんと若旦那、お店の油を右腕に塗ったくって来たんだよ!


 さあさあ、勝負だ。


 ところが滝川はうまく若旦那の手を掴めない。ツルツルツルツル滑るんだ。


 焦る滝川!


 そのうち勝機を見つけた若旦那が一瞬の隙に滝川の手をグッと掴んで押し倒す!


 なんたって子どもの頃から油問屋で育ってますからね。多少手に油が付いてても物をつかむコツを知ってます。


 あっと驚く滝川!!


 周りのみんなも驚いた!!


 力自慢の滝川が負けちゃった!!


「……あちきの負けでありんす」


「ほ、ほんとかい!?」


「ほんとも何も、若旦那の勝ちでござんす」


「滝川、アタシのお嫁さんになってくれるかい?」


 こくんと頷く滝川。しかし何処か晴れやかな顔。


「本当に嫁入り道具を揃えてくださるんでありんすか?」


「ああ、なんでも揃えてあげますよ! 化粧台から絹の『布団』に小間物入れ! なんでもです!」


 こうして椿屋の滝川を見事射止めた若旦那のお話でございます。


 と、そこへ幇間たいこ持ちの佐吉が一言——。


「若旦那、『ダンス』が出て来てねぇですが?」


「やだね、佐吉。婚礼箪笥こんれい『ダンス』も揃えるんだよ」




お座敷遊び・おしまい

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