KAC20255 三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」

橋元 宏平

この三つのお題で小噺を作れって?

 なに? この三つのお題で、即興そっきょうで面白い小噺こばなしを作れって?


 まったく、無茶をお言いでないよ。


 まぁいいさ、アタシもちょうどひまを持てあましていたところだからね。


 さてさて、ひとつやってみようかね。


 そうさねぇ、じゃあこんな小噺こばなしはどうだい?


 とある長屋集合住宅に、ひとりの男がいた。


 名は、平吉へいきちでも五郎八ごろはちでも惣兵衛そうべえでもなんでもいいさ。


 花のお江戸の八百八町はっひゃくやちょうでは、ちょいとばかし名の知れた家具職人でね。


「天下無双の家具職人でござぁい」なんて、鼻にかけて自慢していたのさ。


 ある日、噂を聞きつけた北町奉行所きたまちぶぎょうしょ同心警察官がやってきた。


奉行所ぶぎょうしょの布団箪笥ダンスを作ってくれ」と頼まれたから、さぁ大変!


 家具職人の男は、ええっと……、名はなんといったかね?


 ど忘れしちまったから、ここはひとつ「家具職人」と呼ばせてもらおうか。


 実はこの男、名こそ知れ渡っているが腕はそこそこ普通


 家具なんてそうそう壊れるもんじゃないし、一度買ったら一生ものだろう?


 だから、めったに仕事をしていなかったのさ。


 っからの遊び人で、昼間は家でゴロゴロしていたり、用もないのに町をブラブラしている。


 その上女好きで、その辺を歩いている町娘まちむすめにちょっかいを掛けたり、遊廓ゆうかくへ行って冷やかしなんてしていた。


 そんな男にとって、久し振りの大きな仕事。


 相手は同心警察官だから、ヘタなものは作れない。


 適当なものを作ったら、お縄にされちまう逮捕されてしまうかもしれない。


 絶対に手を抜けないってんで、そりゃあもう必死こいて、材木屋ざいもくやからしつの良いきり材木ざいもく仕入しいれた。


 職人仲間にも頼み込んで、布団箪笥ダンス作りを手伝ってもらったのさ。


 そうして、今までで最高の出来のきり箪笥ダンスを作り上げた。


 北町奉行所きたまちぶぎょうしょきり箪笥ダンスを納品すると、同心警察官たちに大層とても喜ばれた。


「これほど立派な布団箪笥ダンスが出来るとは、さすがは天下無双の家具職人だ!」


 手放しで思いっきりめられた家具職人は、涙が出るほどうれしくってねぇ。


 人に感謝される喜びを知った家具職人は、その日から心を入れ替えて真面目に働くようになった。


 毎日せっせと腕をみがいた男は、やがて本当の意味で「天下無双の家具職人」になったってぇ話さ。


 めでたしめでたし。


 なに? 面白くないって?


 そりゃあ、そうだろうさ。


 だってアタシは、噺家はなしかなんかじゃあないんだからね。

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KAC20255 三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」 橋元 宏平 @Kouhei-K

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