【KAC20255】の二 天下無双はダンスする布団

大黒天半太

【意味】添加夢想の箪笥が吹っ飛んだ【不明】

 望鷹次郎衛門もたかじろうえもんは、駆け出しの作家志望者ビギナー・カクヨムユーザーである。変わった名前だけに、ペンネームもそのまま本名で登録しているが、誰もそうは思わない。


 彼のニックネームは、姓の『も』をモ族(ネイティブアメリカンの部族)にかけた上で、名前の『じろうえもん』を文字ってジェロニモと呼ばれた。


 ボール紙製のトマホークや、折り紙製の羽根飾りの戦冠ウォーボンネットを作り、西部劇の真似ごとをして遊んでいたものだ。

 西部劇でアメリカインディアンネイティブアメリカンをやると言うと、悪役を押し付けられるのは、いつものことだった。


 出来上がりは、捕虜を樹に縛り上げ、その周りを奇声を上げながら輪になってダンスを踊る、西部劇から更にカリカチュアライズされたアメリカインディアンネイティブアメリカン像だ。



 勿論、ジェロニモはアパッチ族で、モホーク族ではないし、酋長でもないので、厳密には羽根飾りの戦冠ウォーボンネットは着けなかっただろう。


 言い出せば際限きりがないが、ジェロニモと言う名も、メキシコ人(敵側)が付けた仇名で、真の名は家族以外には明かされないが、部族での本名は『ゴヤスレイ』、アパッチ語で「あくびをする人(眠たがり)」を意味する平和な名前だ。


 メキシコ軍のネイティブアメリカンへの対応が、二十年続いたインディアン狩り(アメリカインディアンの頭皮に懸賞金をかけ、持参した頭皮によって殺した人数・性別・大人か子供かで懸賞金を支払った)の時代の中、和平協定・融和策が、チワワ州のメキシコ軍から提示された時、コロラダス酋長に従って彼は妻子や老母も含めた家族を連れ、融和派の軍と接触しようとした。


 しかし、排斥派であるソノラ州のカラスコ将軍率いるメキシコ軍の罠にはまり、ヤーノス村の郊外で、一族郎党皆殺しの憂き目に遭う。


 軍内部の融和派の動きを囮にして、ネイティブアメリカン達を誘き出した、排斥派の一方的殺戮。

 いわゆる『ヤーノスの虐殺』である。


 カラスコ将軍の暴挙に、チワワ州とメキシコ軍の融和派は、政府に訴えたが、メキシコ政府の結論は、カラスコ将軍と排斥派の是認で終わった。


 二十七歳の家庭持ちの普通のネイティブアメリカンは、その時、一人孤独な復讐鬼となった。


 コロラダス酋長の下で、彼はアパッチの各支族を説得して回り、アパッチ族の戦力を糾合する。

 やがて、活発化するアパッチ戦争の一翼を担うようになっていた。


 アパッチ族の襲撃を受けたメキシコ人が「ヘロニモ!」と守護聖人『聖ヒエロニムス』の名を叫んだ(メキシコだからスペイン語圏)ことから、彼がそう呼ばれ、後に名乗ることになる。

 ネイティブアメリカンアメリカインディアンにとっては天下無双の英雄・戦士、メキシコ人そしてアメリカ人にとっては悪夢のような復讐鬼の物語の始まりである。

 英語圏なら『ジェローム』、イタリア語圏なら『ジローラモ』に該当するだろうか。これがジェロニモの語源と言われている。


 歴史上のジェロニモは、アパッチ戦争でメキシコ~アメリカと戦う中、五十七歳で降伏し、アメリカ軍の砦に収監された。


 処刑されたのでもなく、二十二年の収監の果て、七十九歳で亡くなったのだから、和風に言うなら、むしろ『布団の上の大往生』であろう。


 では、大往生を遂げたはずのジェロニモが、異世界、いや地球の現代で転生していたら、いったい何をやらかすだろう。


「本物はモホーク族じゃなくて、アパッチ族だから、姓は阿波地、名は次郎衛門でいいんじゃないかな」


 何故か、物語の舞台は現代日本になったようだ。


 はてさて。

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