WHC
アカニシンノカイ
WHC
ドームは異様な空気に満ちていた。
WHC。WORLD HUTONNTATAKI CLASIC。ワールド・布団叩き・クラシック。第三回大会の東京ラウンドが行われた。
あとは審査結果を待つだけなのだが、誰が勝者かは明白だった。ジャッジ中の審判は通常、眉間に皺を寄せているものだが、今、審判席にいる面々は一人残らず微笑みを浮かべている。私も例外ではない。こんな楽な審査もない。
勝ったのはカタイ・タヤマだ。間違いない。他の選手の勝利となれば、暴動が起きる。
競技布団叩きは五分間で十枚の布団を叩く。運営側により布団にはダストと呼ばれるホコリやウイルスなどが合わせて10000ダスト仕込まれている。ダストをいかに減らせるかを争うのが競技布団叩きの基本ルールだ。十枚に均等にダストがあるわけではない。どの布団にどれだけダストがあるかわからない点が肝だ。
レギュレーションの違いでさらに分類される。高性能センサーでダストの残量が検知され、リアルタイムで表示機にデジタル表示されるオープンスタイル、プレイ後までダスト量が発表されないインビジブルスタイル、ダスト残量に加えて布団を叩くパフォーマンスを加点するアーティステックスタイルなどだ。
WHCはオープンアーティスティックスタイルで行われる。競技中にダスト残量が見えるため、観客にはパフォーマンスの優劣がわかりやすく、盛り上がる。さらに楽器演奏やダンスをしながら布団を叩く芸術的な要素を加点することで逆転の可能性が残るため、チケット収入や放映権収入を重視する国際ルールとして定着している。
カタイ・タヤマは踊りながら布団を叩いた。ダンスを取り入れるのは珍しくもない。むしろ、アーティステックスタイルにおいてはスタンダードですらある。カタイ・タヤマのダンスは群を抜いていた。いや、少なくとも競技布団叩き界のなかでは他に並ぶもののいないレベルで、天下無双といってよかった。
前半で圧倒的なダンスを見せ、後半、一気呵成にダストを減らしてゼロにした。
そして最後に謎かけをした。
「天下無双とかけまして、ダンスに夢中で仕事をしない布団屋ととく。その心は……どちらも『並ぶものがいないでしょう』」
WHC アカニシンノカイ @scarlet-students
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