去年と、おととしも、ミキシング

雲条翔

Mix Dance


 マイクを持ったMCが声高らかに宣言し、スタジアムの群衆が沸き立つ。


「さあ! 天下無双ダンス大会の始まりです! 優勝賞品は布団!」



 ■ ■ ■


 ……さーて終わった。


 お題は三つ入っているし。


 しかし、規定は900文字以上だったっけ。


 もうちょっと頑張ろう。



 ■ ■ ■



 始まった『天下無双ダンス大会』もいよいよ大詰め、決勝戦を迎えた。


 これまではチーム戦だったが、決勝戦だけはリーダー対リーダーの個人戦となる。


 MCの男は、ツバを飛ばして叫ぶ。


「さあ、決勝に残ったのは意外に大会初参戦のルーキー! チーム<ひなまつりの妖精>から美少女ダンサーのBon-bori!ボン・ボリ


 ステージ上には、帽子を目深に被ったストリートファッションの少女・Bon-boriが登場し、スポットライトを浴びる。


「それに対するは、チーム<トリの降臨>から脱退し、新チーム<あの夢を見たのは、これで9回目だった。>を立ち上げたベテラン、Q-KAIMEキュー・カイメの登場だ!」


 Bon-boriと向かい合うように、ステージに入場したQ-KAIMEは、小麦色に焼けた肌をした屈強な大男だった。


「決勝初体験のBon-bori! 意気込みをどうぞ!」


「あたし、決勝に進出して、Q-KAIMEさんとダンスで対決することに、ずっとあこがれていました! でも、今日だけはあこがれるのをやめます!」


「どこかで聞いた台詞だぁー!」


 MCが大袈裟なリアクションを取ると、会場のオーディエンスたちは親指を下に向け、一斉にBon-boriへブーイングを飛ばす。


「威勢のいいルーキーじゃねえか」


 Q-KAIMEは、MCからマイクを奪い、Bon-boriに向かって吼える。


「今の俺は、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだ! そう、俺は三分以内にやらなければならないことがあった! それは生意気な新人に圧倒的な実力差を見せつけて勝利することだ! そうだろ、みんな!」


 Q-KAIMEのマイクパフォーマンスに、大観衆から歓声が上がる。


「雰囲気で押されているBon-bori! Q-KAIMEはさすがの貫禄! 勝利の女神はどちらに微笑むのか! ここで、先攻後攻を決めるコイントスです!」


 MCがピンとコインを弾き、手の甲に落として、もう一方の手で覆う。


「表だ」


「あたしは、箱で! じゃなかった、裏で」


「おーっと、Bon-bori! どういう言い間違いだ! 緊張しているのか!? コイントス、オープン!の前に、ちょっと待ってね、俺の指先のささくれが気になってね……こないだ、引っ越し先の住宅の内見に行った時からずーっと気になってたのよ。なんてね、小粋なジョークで場を和ませたりして! うるさいから黙ってろ、話さないで! なんてクレーム言わないでねー。人生色々あってねえ、え? 長い? 溜めがねばりすぎだって? 緊張を緩和させようとしてたのに。まあいいか、トリあえず気を取り直して、コイントス、オープン!」


 MCの男が手を上げると、そのコインは……表!


「オ・モ・テ! 表だぁー! Q-KAIMEの先攻!」


 Bon-boriやMCが脇に避け、Q-KAIMEがステージの中央に立ち、スポットライトを浴びる。と同時に、派手な音楽が鳴り始めた。


 選曲は、次第にBPMが加速し、テンポアップしていく曲だ。

 大柄な肉体に、盛り上がった筋肉のQ-KAIMEはリズミカルに踊り、常人ならリズムに乗れずにぐちゃぐちゃになりそうな超高速テンポでも、余裕の表情。


 すべての動き、指先のひとつひとつ、宙を舞う髪の毛の一本、飛び散る汗の一滴に至るまで演出された完璧なダンスだった。


 音楽が鳴り止み、Q-KAIMEのダンスが終わったあと、大歓声と紙吹雪が会場を舞った。


「悪いな、嬢ちゃん。もはや俺の勝利は決まったな。どうするよ、このまま不戦敗でおウチに逃げ帰ってもいいぜ」


 Q-KAIMEの挑発に、Bon-boriは、得意げに微笑んで、右手をパーに開き、左手の指を二本立てた。


「7? ……どういう意味だ?」


「普通なら、7はラッキーセブンで縁起のいい数字! でも、あたしは逆張りで行く! アンラッキー7でいいの! 昨日、本屋で見た本に、そんなおまじないが書いてあったの!」


「よくわかんねえコト言うガキだな」


「あんた、さっき、突き進むバッファローとか言ってたけど、まるで可愛い動物のぬいぐるみだわ! いいえ、もっと言うなら、真夜中に歩いていて、コンビニに寄ったらコンビニ強盗に遭遇するような、すっごーく運の悪かった、深夜の散歩で起きた出来事を語るみたいな……なんつーか、ほら、そんなアレで、えーっと、アレな感じよ!」


「最後グダグダになってんじゃねえか。まあいい。さっさと踊れ。そして負けろ」


 ポップなビートが流れ始め、Bon-boriはセンターに立った。


 彼女は勝利を確信していた。



 ■ ■ ■


 結果は、Bon-boriの惨敗だった。


 審査員全員、会場の空気も、満場一致でQ-KAIMEの勝利に旗を揚げた。


 ルーキーがベテランを倒すなんてジャイアントキリング、そうそう起きるわけがないのだ。



 Bon-boriはインタビューで語った。


「いいわけなんて、しないわ。あたしはストリート生まれストリート育ち。毎日野宿が当たり前、通りストリートで暮らしてきた路上生活者なの。ただ、優勝賞品をもらって、ふかふかの布団で寝てみたかっただけなのに……」


 Q-KAIMEは、ダンス大会の賞品・高級羽毛布団(今なら布団圧縮袋二枚セット)を肩にかついで、帰ろうとしていたが、彼女の言葉を聞き、賞品を放り投げた。


「やるよ」


「えっ……」


「ただし、約束しろ。いい布団でいい夢を見たあとは、現実でも夢を見な。この俺を倒して、大会の覇者になるって夢をな! 目を開けて見る夢は、デカイ方がいい」


「は、はい! その夢、叶えてみせます!」


「ふっ、口だけは達者だな……待ってるぜ、頂点で!」



 ■ ■ ■


 元Q-KAIME 「結局、天下無双ダンス大会の賞品の布団、二人で共有してな……」


 元Bon-bori 「それがお母さんとお父さんの馴れ初めなのよ(ぽっ)」


 子供 「そんなアバンギャルドなダンサー同士の親の話、聞きたくなかったー!」

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去年と、おととしも、ミキシング 雲条翔 @Unjosyow

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