第17話
ざわわ……シーン……。
わたしの一括で場が静まる。
「誰が、わたしが嫁に行くと申しました!」
「えっ、どういうことだいモルナ?」
結婚すると言ったり、嫁には行かないと言ったりで、エリスったらだいぶ混乱しているよう。
「オワイン卿!」
わたしは堂々とオワイン卿の元へ歩いていき、右手を胸に、左手を後ろ腰にあててひざまづく。
「どうか、決闘をお認めください。わたしが勝ったらエリスを花嫁にいただきたく存じます」
「モルナ!?」
いままで聞いた事のない、エリスの戸惑った叫び声。思わず笑いそうになるのをこらえる。
ええーーー!!??
そしてせっかく静かになった場が、また騒がしくなり始める。少しは落ち着いてもらいたいな。
「静まれい!!!!!」
今度はオワイン卿が大きく吠える。また群衆は静まりかえる。感情の落差が大きくて、混乱しているようにも見える。
「モルナよ、山猫姫よ」
オワイン卿の声が頭から降り注ぐ。
「エリスを嫁にして、それでお前はなんとする? いいぞ、顔を上げて立ち上がるがいい」
オワイン卿の言葉に、わたしは顔をあげてスっと立つ。
「わたしはブレンノールで騎士になる。そしてエリスを花嫁に迎え入れ、ともにソーンヒルに赴きます。わたしは兄、ガレディンとサー・エリスの協約を聞いておりました。ソーンヒルは、ブレンノールより騎士の派遣を求めます。その騎士に、わたしとエリスで参ります!」
わたしは観衆に向けて再度宣言した。これがわたしの進む道だ。騎士となって、ソーンヒルを守る。エリスももらう。
「ガッハッハッ! 威勢がいいな、山猫」
オワイン卿は豪快に笑う。しかし、次の瞬間に険しい顔になる。
「それでどうする。お前がエリスに敗北するならば、お前はどうしてくれるんだ? あァ?」
恫喝するように顔を近づけてくるオワイン卿。しかし、わたしは怯んだりしなかった。
「そのときは、エリスの好きにしていただきます」
「フン。したたかだな、ソーンヒルの娘。実際お前に不利益は無いわけだ。エリスはお前にベタ惚れだ、悪いようにはすまい」
オワイン卿は高らかに右手を掲げ宣言する。
「よろしい、気に入ったぞ。決闘を認めよう!」
群衆の熱気は最高潮。何度も静まれと押さえつけられたのが爆発したかたちになる。
「父上! まだわたしはやるとは言っておりません!」
エリスは慌てた様子でオワイン卿に反発する。
「ならば負けを認めるか、エリス・ブレンノール。わが『息子』よ。男を見せるか、女となるか。瀬戸際だぞ」
「そんな……。モルナ、決闘なんかやめよう。いまの君では、わたしには……」
勝てない、と言いたいんだろう。だけど、わたしだって負ける気で勝負を挑んだりしない。
「エリス、いまの貴方とても女々しいわ。そんな心持ちで、わたしを花嫁に迎えられると思っているの」
さすがのエリスもムッとした様子だ。わたしにここまで言われては引き下がれないだろう。
「モルナ、わかった。後悔しても知らないよ。それで、いつやるんだい」
エリスは覚悟を決めた。わたしも覚悟を決める。
「今日、いま、この場で」
「わかった」
エリスは仕事から帰ったばかりで、鎖帷子で武装している。わたしもいま、セレンとの決闘を終えたばかり。それに群衆も集っている。わたしとエリスの決闘にはおあつらえ向きだった。
わたしとエリスは決闘場を挟んで対峙する。
「両者、前へ!」
さっきとは違う立会人の騎士の合図で、わたしたちは歩み寄る。
「モルナ、わたしは反省しているよ。すこし君に甘くしすぎていたようだ。花嫁の躾も騎士たるものの務め。覚悟してもらう」
エリスはわたしと同じくらいの木剣を携えてきた。公平に戦うことを示しているんだろう。
そしてエリス、本気の目をしているな。そうでなくては!
「エリス。わたしをみつけてくれてありがとう。おかげで自分の進むべき道が見つかったよ。それでも、あなたに手を引いてもらって進むんじゃなくて肩を並べて進みたい」
今のがわたしの本音。エリスを愛しているけれど、いまのままじゃ、どうしても騎士に護られるお姫さまだ。
「モルナ。君を選んだわたしの目には狂いは無かった。それは誇れるよ。誰に対しても。君に対しても」
一旦言葉を切って、剣の切っ先をわたしに向ける。
「君を愛しているが、決闘には無関係だ。君を花嫁に迎え、ブレンノールの栄光に寄与するとしよう」
エリスは半身になって、剣をだらんと地面に着ける。呼応するように、わたしは剣を両手で構える。
「エリス! いざじんじょーに、しょうぶだぁっ!」
[完]
婿候補は実は男装の騎士で!? 山猫姫の冒険 国久野 朔 @kunikuni04
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