第16話

「面白いから、そのまま続けろ!!!!!」


 な、なんだって!? ぜったいわたしの勝ちだろ!

 オワイン卿の一声で、群衆はさらにざわざわし始める。


「あ、え、は、はじめいっ!」

 主君には逆らえないのか、立会人の騎士は再開を宣言する。

 くっそー、ひきょうだぞ!


「よくも、わたしに恥をかかせてくれたわね!」

 セレンが怒りを押し殺した調子で言った。理不尽だ!


「モルナ。わたしはあなたの顔が気に入っていてよ。だから、貴女の顔だけは傷つけないようにしていた」

 セレンは剣をぶんっと振った。

「本気でいかせてもらうわ! 覚悟しなさい!」


 剣を両手で持って、身体の横で構えるセレン。

 来る。今度は『けん』じゃない。仕掛けてくるぞ。


 ブレンノール流かはわからないけれど、どうも二種類の戦法があるようだ。先の先と、後の先。

 セレンはおそらく後者を得意としている。だからわたしの戦い方とかみ合わないんだろう。

 でも、確実に戦術変えてきている注意しないと。


「行くっ」

 短く言って、セレンが突っ込んでくる。横凪の一撃。速い! わたしは剣で受ける。が、衝撃を受けきれずよろける。


 まずいぞ。力は相手が上だ。

 わたしが体勢を崩したのを、見逃すセレンじゃなかった。さらにわたしの斜方から袈裟斬りに斬りつけてくる。わたしは身体を後ろに捻ってかわす。頭が地面についた。手と頭でもって後方に回転し距離を取れた。

「はぁ、はぁ」

 わたしは少し息が切れてきた。


「ふぅぅー、ふぅぅー!」

 でも、明らかにセレンの方が疲れている。


 勝てる。


 騎士になれる。


 ずっと憧れていた、騎士に。


 あれ。


 わたし、なんで騎士になりたいんだっけ?


「こ、こんのぉ!」

 おおよそ淑女らしくない声をあげ、セレンが突っ込んでくる。勝負を決めにきたらしい。


 わたしが騎士になりたい理由。かっこいい以外で。


 セレンが斜め下から斬り上げてくる。わたしは剣でセレンの剣を滑らせるようにいなした。


 そうだ、わたしが騎士になりたいのは。


 そのままセレンの胸を斬り抜けた。


「がっ……」

 セレンが呻く。


 わたしが騎士になりたいのは、故郷ソーンヒルを守りたいからだ。


 もし、わたしがブレンノールに嫁いで、騎士になったところで。



 ソーンヒルは守れない。


 うおおおおー!!!

 どんよどよどよ!!!


 観衆は上へ下えの大騒ぎだ。


「あ、え」

 気の毒なのは立会人の騎士。勝利宣言していいものかどうか、悩んでいるみたいだ。


「静まれ!!!!!!!!!!!」

 どよ……。

 オワイン卿のあまり大声で、有象無象が一瞬で静まる。


「セレン、どうだ。まだやれるか」

 そして、厳しい態度で問いただした。


「なにをおっしゃいますの、父上。はぁはぁ……わたしはブレンノール領主、オワイン・ドライグ・ブレンノールの娘、はぁっ。セレン・ブライズ・ブレンノールですのよ……」

 まだやるというのか。結果はもう、見えているのに。


 わたしがもうやめようと声をかけようとした時、セレンが不意に片膝を着いた。


「わたくし、セレン・ブレンノールの負けですわ」



 そこからは割れんばかりの大喝采。やんややんやのてんやわんやだ。


 わたしは手にした木剣を天に掲げる。


 さらに歓声が大きくなった。


 わたしは膝を着いているセレンに歩み寄る。

 そして、その前でひざまづいた。

「モルナ……?」

 セレンさまは弱々しく言った。決闘で疲れたんだろうか。プライドが砕かれたんだろうか。

「セレンお姉さま、どうかお立ちください。そのようなお姿は、お姉さまに似つかわしくありませんわ」

 そう言ってセレンさまの手を取って口づける。

「わたしを、お姉さまと呼んでくれるの?」

 セレンはわたしをまっすぐ見つめて言った。


「ええ、もちろんです。お姉さま」

 そうして手を引いて、セレンさまを立たせる。


 その姿に、群衆はさらに熱気を帯びる。気のせいか、ぐすぐす泣いているような声も聞こえる。


 その時、訓練場の外がざわざわ騒がしくなった。


「一体何だ、この騒ぎは!」

 エリスさまの声だ。


 従者を引き連れ、訓練場までつかつかと歩いてくる。


 そして、オワイン卿の姿を認めると、強い口調で言った。

「父上、このバカ騒ぎはなんですか! なぜモルナとセレンが武装しているのですか!」


「エリスー!」


 わたしはオワイン卿がなにか言う前にエリスの元に走って行き、そして思い切り抱きついた。


「あっ、モ、モルナ!」

 そのままぎゅうっと抱きしめる。

「エリス、会いたかった」

「ああ、それはわたしもだ。だが、この状況は」

 エリスはわたしの頭を撫でてくれる。


「いいの。エリスは気にしないで。全部終わったから」

「そういうわけには――」

 エリスが言い終わらないうちに、首に手を回して引っ張る。そして、近くなったエリスにキスをした。

「んっ!?」

 エリスは驚いたような声をあげたが、いかんせんわたしの唇で塞いでいて、外には漏れない。


 それに、また群衆たちが大喝采だ。

 ふー!

 ひゅーひゅー!

 ざわざわ!

 きゃーきゃー!

 実に混沌としている。させたのはわたしだけど。


 さらにエリスの首を引いて、唇を押しつける。そして、エリスの唇をはむはむする。

「んんっ?」

 エリスが戸惑っているのを感じておかしかった。

 そっと口を離す。

「あ……」

 名残惜しそうな吐息を漏らすエリス。


 そんなエリスに、わたしは言った。

「エリス! 決闘しましょ!」

「モルナ、ついに決心がついた……え、なんだって 決闘!? 結婚じゃなく?」

 エリスは驚いたように叫ぶ。どんどん感情豊かになってきて愛おしさが増してくる。


「結婚はいたしますわ!」

 わたしは高らかに宣言する。


 周囲はもうお祭り騒ぎだ。サー・エリスが嫁をもらうぞ、結婚式だ、宴の準備だ! とあわてんぼう達が先走って大騒ぎしている。


「静かにしなさーい!」

 わたしは剣を地面に突き立てて咆哮する。






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