第15話
「結果に関わらず、騎士にしてあげると言ったら?
わたしと決闘するだけで」
えっ、本当? わたしに都合が良すぎるな。なにか裏がありそうだ。
「ちなみにモルナ。貴女が負けた時は、わたしを嫁にもらうのよ!」
は、はあああぁぁぁぁ???
なんだソレ。どういうことだよ!
「何言ってるんですか!? 女同士ですよ!」
「エリスとも女同士じゃない」
「エリスさまは一応男性として通っているのでしょう!?」
めちゃくちゃだ! このひと!
「だいたい、エリスさまとわたしはどうなるんですか!?」
「もちろん、婚約破棄してもらうわ。重婚は許されないわよ」
なんで諸々ゆるゆるなのに重婚にだけは厳しいんだ!
いやいやそうじゃない。なんでエリスさまとの結婚もなかったことになっちゃうんだ! 正直いうと別に婚約すらしてないけれど。それを言ったらややこしくなりそうだから言わないけどさ。
「いいこと、モルナ」
「はい?」
傍観していたネスト嬢が重々しく口を開く。わたしは一体なにを言われるのかと身構えた。
「わたくしは別にどちらでもいいのよ。エリスと結婚しようが、セレンと結婚しようが、貴女がわたくしの妹になることに変わりないもの」
「え?」
「それだけよ」
そう言ってセレン嬢は口をつぐんだ。
ええ、それだけ!? なんで口開いたんだよアンタ!
「オワイン卿! とんでもないこと口走ってますよ、貴方の娘! いいんですかほっといて!?」
最後の砦とばかりにオワイン卿に状況の解決を求めた。だが、
「面白そうだから、よし!!!!」
ものすごく大きな声で承認された!
「さぁ、やるわよモルナ。訓練場まで来なさい」
「しかも今からですか!?」
「さっさとなさい。エリスが帰ってきちゃうでしょ!」
「やっぱりアンタの差し金かっ」
おかしいと思った! 長旅で疲れているエリスさまに仕事に行かせるなんて。最初っからセレンはこうなるように計画していたんだ。
えーいもう、やってやる! 勝てばいいんだ勝てば!
訓練場は館の壁の内側にあった。剣術用の人形や、藁でできた弓の的が置いてある。
その中心に、開けた場所があった。土の地面はしっかり均されていて、しっかり整備されているのが伺える。ここが決闘場となるようだ。
わたしはペイジの少年とエファさんに装備をつけるのを手伝ってもらっていた。
皮でできた胸当て、
胸当てとブーツは自前だけど、篭手とすね当ては貸してもらった。
剣はいつも使っているくらいの長さ、つまりわたしの腕の長さくらいの刀身の木剣を借りる。
セレンも同じような出で立ちで、訓練場を挟んだ向こう側にいる。決闘場の周囲には、すでにひとが集まっている。
オワイン卿やネストは当然として、他の騎士や傭兵、さらにはメイド達や従者なんかもいた。
自由だなぁ、ブレンノール。
もっとも、わたしが一番愛しているのは自由だけど。
「両者、前へ!」
立会人を買ってでたであろう騎士が、わたしたちを促した。
わたしたちは相手に向かって歩み寄る。
セレンは自信満々な態度を崩さない。さぞ自信があるのだろう。
「モルナ、教えておいてあげる。エリスに剣技を教えたのは、このわたしよ。エリスに負けたあなたでは、わたしには決してかなわない。なぜならば姉より強い妹はいないのだから。モルナ、それは貴女にもあてはまるわ」
剣技を教えたって、一体いつの話なんだか。いまはエリスさまの方が強いに決まっている。エリスさまは強いぞ。なんせソーンヒルの森で遭遇したでっかい熊の顔面を、剣でぶったたいて退散させたんだから。そんなこと他の誰にもできないでしょ。
「ちなみにわたしはひとりで熊を倒したことがあるわ」
うん、油断は禁物だ。
「口ゲンカをしたいんですか? 戦士なら剣で語ったら如何です?」
わたしは虚勢を張る。熊を倒したと聞いて、ちょっとびっくり……したんじゃないから!
「まぁ、生意気だこと。いいわ、それではお互い戦士らしく……」
セレンはそこで一旦言葉を切った。
「わたしは誇り高きブレンノールの娘、セレン・ブライズ・ブレンノール! 我が身を賭けて、いざ参る!」
我が身を賭けるって、そっちが勝手に賭けたんだろうが! わたしは要求していないぞ。
「わたしはソーンヒルの『山猫姫』モルナ・カスウィルト・ソーンヒル! 貴女の悪だくみはいま、ここで打ち砕く!」
わたしは剣を掲げて気勢をあげる。周囲の観衆から歓声が上がった。
「両者、構え! はじめい!」
立会人の鋭い声。
ついに決闘が始まった。彼我の距離は一足飛びでもまだ足りない。一度様子を見るべく飛びしさる。
「臆したか、山猫姫!」
セレンは挑発してくるが、言うだけで距離を詰めようとしてこない。
わたしは相手に動きにあわせて対応する、後の先を身上とする。思えばエリスさまとの決闘では、動かない相手にしびれを切らして突っかかってしまった。
そこが敗北の一因になったことは間違いない。ただの実力差かもしれないけど。
ならば、焦りは禁物。逆に相手は焦っているだろう。エリスさまが帰ってきたら、怒られるだろうから!
それどころか、横槍が入って決闘自体が無かったことにされてしまう可能性すらある。
早く決着をつけたいのは向こうの方だ。
わたしはエリスさまが熊を撃退したことを思い出していた。さすがのエリスさまだって、一撃で熊を撃退させたのは偶然でも幸運でもないだろう。おそらくは、熊の攻撃に合わせて打撃を加えたのだ。つまり、相手の力をも利用した。
そして、わたしとエリスさまの決闘した時。
わたしの攻撃を、最小限の動きで捌いてみせた。気づけばわたしの剣は飛ばされていたんだ。
セレンがエリスさまに剣技を教えたということがもし本当なら、同じような戦い方であることは予想できる。
それが違って、積極的に攻撃してくる戦法だったとしても、それはそれで戦いやすいはずだ。
焦ってしまっては勝機を逃がす。
「こら、山猫! かかってきなさい」
ふっ、そんな挑発にかかるわたしじゃない。
「かかってこい! ばーか、まないた姫ー」
むっきー! ひとが気にしていることを!
泣かせてやる!
とっとと、いけないいけない。
落ち着かなくちゃ。
「きーっ、なんでかかって来ないのよ! この臆病者!」
「そっちからくればいいじゃないか! ばーか! 行き遅れー」
わたしは状況を打開するべく挑発する。
「なんですってー! わたしはまだ二十一よ!」
おっと、エリスさまの三個上か。十分行き遅れじゃないかな、このご時世。
「山猫ちゃん? 決闘が終わったらお話があるからいらっしゃい」
まずい、ネストの声だ。セレンよりも年上の未婚者がいた。よけいな敵を作りそうなんでこの手はもう使えないな。効いているんだけどなぁ。
「このままじゃ、エリスが帰ってきちゃうじゃない! こうなったらー!」
ついに覚悟を決めたか、踏み込んで突きを繰り出してくるセレン。明らかにわたしに届かない距離だ。これは誘いだ。わたしは後ろに下がって距離をとる。
しかし、先程よりも近い距離。今度はわたしが誘っている。さあ、来い!
「くぅーっ! 生意気生意気!」
喚きながら何度も突きを繰り出してくる。その中の一撃が、確実にわたしを狙っていた。
虚実入り交じる突き攻撃の、『実』を感じ取り、最小限の剣の動きで弾く。そのまま踏み込んでセレンの胸を突いた。
「うっ!?」
わたしの木剣の切っ先が、確かにセレンの胸当てを突いた。
うおおー! どよどよどよ、と周囲がどよめく。
「しょ、勝負あ……」
「待て!!!!!」
立会人の宣言をかき消す大声。
オワイン卿だ。
え、いまはわたしの勝ちでしょう!?
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