第14話

 いま、わたしの置かれている状況はなんだ?

 わたしはソーンヒルを出て、ブレンノールまでずっと冒険をしてきたんだ。

 自分自身を賭けて決闘で戦い、勝ち続けてきた。ついた異名は『山猫姫』だ。山猫のように獰猛で勇猛果敢、そして優れた俊敏さを称えられてつけられた(と思っている)。


 そんな自分が、いま一体なにをされている?


「きゃー! やっぱりドレス姿かわいいわ!」

「ネストお姉さま、ぜんぜんわかってない! モルナには貴族の男の子の衣装が似合うんだから!」

「じゃあそれ、着せてみましょう」


 わたしは無理やり着せられていた青いドレスをひっぺがされて、あたらしく少年用の服を着せられる。緑のチュニック、ブラウンの細い仕立てのズボンに青いマント。肩まで伸びた髪を後ろで束ねられる。


 完全に、ネストとセレンの姉妹におもちゃにされていた。


「「きゃー! かわいいー!!」」


 ネストとセレンが揃って歓声をあげる。

 こ、これがお話に聞く嫁(?)いびりというヤツか。


「ねぇ、だれかー。ちょっとメイド服持ってきて、メイド服ー!」


 セレンの叫び声でメイドを呼ぶのを聞きながら、わたしはそっとため息をついた。


 エリスさま、わたしブレンノールでうまくやっていく自信がありません……。




 わたしいびりはまだまだ続く。ネストの部屋の小さなテーブルに食事を運ばせ、両側にネストとセレンがわたしを挟みこむように座る。


「はい、モルナ。あーん」

 セレンがちぎった白パンをわたしの開けた口に放りこむ。


「モルナ、わたくしが肉を切ってあげますわ」

 ネストが鴨肉のローストをちいさく切って、わたしの口に押しこんでくる。


 な、なんて陰湿なんだ! 食べ物の味なんてわかりゃしない。


「モルナ、スープも飲みなさい」

 セレンがわたしの口に豆のスープを運ぶ。あちっ。


「ねぇ、モルナ。わたくしがパンにチーズをはさんであげますわ」

「モルナ、これも食べなさい」

「モルナ、エールは飲む?」


 次々に食べ物と飲み物を口に突っこまれ、わたしは目を白黒させるしかない。


「嫁いびり楽しいわね、セレン」

「嫁いびり楽しいわね、お姉さま!」


 くぅ、これも試練だ。耐えろ、耐えるんだわたし!


 当然、これくらいで許してくれるネストと

 セレンではなかった。


 またもやおそろしい嫁いびりがわたしの前に立ち塞がったのだ。


「お姉さま、もっと向こうへ行ってくださらない?

 モルナが苦しいでしょう?」

「セレン、ここはわたくしの部屋なのだけど。狭いというのなら、ご自分の部屋に戻っておやすみなさいな」


 そう、わたしはセレンのベッドにて、二人に挟まれながら寝る羽目になったのだ。


「お姉さまだけモルナと寝ようだなんて、許されないわ!」


 どう考えても、三人で寝るのは狭いよ! このベッド。二人ならまぁなんとかなりそうだけど。


「ああ、もう。いい加減にしろー! わたしはお前たちのおもちゃじゃないぞー! がるるー!」

 と叫んでやりたい。


「「かわいいー!」」

 叫んでやりたいというか叫んでしまった。それなのに、ああそれなのに想定外の反応を返される。

 両側からむぎゅっと抱きつかれ、完全に身動きが取れないぞ。


 ああ、でも。

 お二人はエリスさまと違って、お胸は豊かな方らしい。

 や、やわらかい。気持ちいい……。いい? いや、よくない! 認めるもんか!


「しゃーっ!」

 わたしは、じたばたした! しかし、両側からがっちり抱擁されていてどうにもこうにも抜け出せない。


 しばらくわるあがきをしていたけど、長旅と嫁いびりの疲れが一気に押し寄せてきて、まぶたがとろんとなってくる。


 くっ。寝るもんか! こんな状況のまま、ねるもんか。


 ね…る…も…ん……………。




 わたしはガバッと身を起こした。

 どこだここ。あたりをキョロキョロみわたす。

 ああ、そうだ。わたしやっとブレンノールに着いたんだった。



 すると、ドアのノックする音。


「失礼いたします」

 そう言いながら入ってきたのは、たしかエファさんというエリスさまとセレンの板挟み状態で気の毒だったメイドさんだ。


「よくお休みでしたね。そろそろ昼前でございますよ」


 なんだって、昼前だって? まずいぞ、寝すぎた。こんなんじゃネストとセレンになにを言われるかわかったもんじゃない。


 わたしは慌ててベッドから飛び降りる。

「さぞお疲れだったのですね。ネストさまから起こしてはならないと申しつかっておりました」

 ネストが? 優しいところもある? いやだまされないぞ!


「お食事の準備ができております。その後で領主さまの元へいらっしゃってくださいとのことです。まずは身支度をお手伝いさせていただきます」


 オワイン卿の元へ? なんかまた、試練の予感。




「参上いたしました」

 わたしは食事をいただいたあと、言われた通りにオワイン卿の元へ伺った。

 昨日と同じ、戦議の間。真ん中にオワイン卿が座っておられ、ネストとセレンが両側に腰掛けていた。


「遅いわ!」

 セレンが立ち上がって近づいてくる。


「……申し訳ございません」

 寝過ごしたのは事実なので、謝罪はさせてもらう。誰のせいだよ! とかは思ってないよ。


「おお、モルナ。よく休めたか」

 オワイン卿がわたしの寝坊を咎めるでもなく言われた。


「はい。おかげさまで」

 と答えるわたし。


「セレン。貴女が寝かせてあげてって言ったのでしょう?」

 ネストがふわふわした雰囲気でセレンに言った。


「お姉さまは黙っててくださる? それよりも、モルナ」

 セレンはキッとネストを一瞥した後、わたしに向き直った。


「決闘よ!」

 は? なんだって、決闘だ? 誰と誰が。


「決闘?」

 ほうけた声を出してしまう。無理もない、よね。


「そう!」

 胸を張って、無駄に偉そうなセレン。


「誰と誰がですか」

 と尋ねるわたし。


「わたしと、モルナがよ!」

「嫌ですけど?」

 わたしはしれっと答える。

「はぁ!? ちょっと待ちなさい! どう考えてもやる流れでしょ!?」

 どう考えてもやらない流れですけど。


「戦う理由がありませんもの」

「理由もなく戦うのが山猫姫ではないの?」

 なんだその戦闘狂。

「そんなわけないです」

 すげなく言ってやった。


「なんだなんだ。話が違うじゃないか。面白いものが見られるというから待っていたっていうのに」

 オワイン卿が口を挟む。


「お待ちなさいな父上」

 そしてセレンはびしっとわたしに人差し指を向ける。

「それなら理由をあげるわ! ここブレンノールで騎士にしてあげるって言ったらどう?」


 えっ、騎士にしてくれるだって? 女の身でそんなのあり?


 確かにわたしは騎士に憧れていたし、故郷ソーンヒルではどうしても父上がわたしを騎士にしてくれなかった。


「もちろん、従者スクワイアから修行はしてもらうけどね」


 うっ。心が揺れる。ソーンヒルでは騎士修行すら頑なにさせてくれなかったし、鎖帷子くさりかたびらすら着せてもらえなかった。


 それが、ブレンノールなら修行をちゃんとさせてもらえる? セレンのざれごとという線は薄そうだ。なぜならば、オワイン卿の御前だからだ。いくらセレンでも、適当なことは言えないだろう。


「それは、わたしが勝った時の話ですか。それで、もしわたしが負けたら?」

 わたしの言葉に、セレンはニヤっと笑った。思い通りに事が運んでいる、そう思っているような笑みだった。





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