後編ストレス過多
ストレス発散のために酒場へ入る。
「ふ、は、とぁ!」
ドスッと的に当てる。
この的当てはマヌリカが考案したものだ。
流行ってはいるが、広まる気配はなく、お金も増えずがっくりとしたもの。
そうです、ダーツです。
うちが貧乏だから知識を使ってボロ儲けは夢の夢。
トホホ、な環境なのだ。
おかげで、悪役の令嬢を演じねばいけないくらい食い詰めていた。
ニコッと悪役顔とは違う笑みを浮かべてストレス解消に勤しむ。
次の日も次の日も、その次の日も似たようなことをやって帰宅する。
毎日同じような問答をして飽きないなんて、変な人達だ。
まごうことなく。
というより、自分たちに酔ってるんだろう。
こんなことで酔えるなんて、お金持ちは羨ましい。
マヌリカはしんどく思ったけど、辛抱だと耐えた。
雇い主にこれっぽっちも意思が変わらないと告げて、自分たちの状態で酔いに酔っていると遠回しに伝えた。
ストレートに言うと首にされるし。
正直茶番過ぎて、自分的にはつまらないとしか言えない。
どうせ、結局結婚を認めることになるんだろうなとしか思えず。
結局すぐに息子を切らないところを見るに、甘い親だと感想を抱いていた。
こんな底辺の貧乏女を雇うのが嫌がらせ。
「はぁ」
もう、本当に話が通じない。
少しずつ法律を絡めたりして、正当性を話すのだがそれに対する返答は「関係ない」ばかりだった。
法律に事情など、入る余地はないと思うんだけどね?
ここまで来ると自分を試金石にしているのではないかと、思えてきた。
なにを試しているのかは知らん。
数ヶ月、同じことを言い含めても進まないので、やり方を少し変えてみてはと雇い主に提案した。
相手の親に抗議することだ。
やってないなんてことは、ないと思うんだけど。
そうすると、女性がマヌリカが屋敷でくつろいでいる時に突撃していた。
本物の婚約者ではないものの、客人として振る舞っているのでお茶くらいは頼んだら出てくる。
そんな優雅なティータイムをぶち壊してくるのは、この家に無関係のはずの息子の恋人。
この子を通したのだれだ。
職務怠慢すぎるぞ。
「身を引いて!お願い!」
「……警備兵!」
「はっ」
色んな人が周りにいる。
ぼっちゃまの醜態が庭で叫ぶのはよろしくない。
「な、何するの!?やめて!やめてえええ」
下手に叫ぶせいで、そのぼっちゃまが走ってここへ来た。
やめた方がいい、ほんと。
念じてみたが、叶うはずもなく。
暴走する彼ら。
「また泣かせたのかっ!いい加減、我慢の限界だっ!」
「おやめくださいっ」
ペインが宣う。
アーティは勝手に庭に突入して人のうちで騒いだだけであって、こちらにはなんの落ち度もない。
というか、なにも言ってないんですけど?
ペインはマヌリカが恥をかかされるのを怖がっていると思い込んでいるらしく、こちらを睨みつけて続ける。
少なくとも、自分はなんとも思ってないんでやめてもらっていいかな?
「僕は!君と!婚約を!破棄する!」
一言一句言いきったああ。
や、やりきってしまった。
ちらりと周りを見ると、こちらにくる雇い主。
雇い主が現れると、アーティもペインもラスボスを相手にするような顔をする。
「父上。ぼくは決めました。平民になります」
「そうか」
「ペイン様のお父様。私はペイン様を一生かけて支えていきます!」
「好きにしろ」
父親は冷めた目で二人を見て、首を振りこちらを向くと「ご苦労だった」と仕事終了を言い渡される。
やっと長期契約を終わらせられた。
いつ終わるのかと、ヤキモキしてたから。
「よろしいのですか!父上」
「まずは父上と呼ぶのをやめなさい」
ぴしゃりと、貴族と平民の線引きを伝える男。
「……ちちうえ?」
おいて行かれた子供みたいな顔をした男に家族はため息をついて、屋敷に戻っていく。
マヌリカは与えられていた部屋へ向かい、ドレスから動きやすい服に着替える。
外に出ると待機していた男から現金を渡されて、そこで屋敷をすぐに出た。
いつまでも、ここにいるわけにもいかないし。
ダーツも全力でできるってもんだ。
お金を手に我が家へ帰還した。
それから一月。
ダーツをしに行こうとすると、どこかで見たことのある男女が靴磨きをする場所で、靴磨きをする側として働いているのを見つけてしまう。
二度と会うことなんてないと思っていたから、会えたことに驚く。
てっきり、どこか遠くへ行くもんだと思ってた。
「私も靴磨きするけどね」
バカにするつもりはない。
貧乏なりにさまざまなことを知っているし、なんでもやらねば生きていけない。
彼らが帰るところも目撃したのだが、お互い目に輝きがなく、男の方が女の稼いだ金をもぎ取って共に帰っていったところを見てしまう。
「支えていくとは言ってたけど、豹変の仕方よなぁ」
最後に会った時、女はペインを支えると宣言していた。
いつまで支えられるのかは、彼女のみが知る。
アーティがどこかへ出ていくかもしれないと、少しもあの男は想像がつかないのかもしれない。
人に傅かれることに慣れきってしまい、されることを待つばかりなのだ。
アーティは使用人でもなんでもない。
「破局も時間の問題みたい。でも、おかげで私の家は潤ったし、まぁいっか」
我が家は今夜も、お肉が少し入ったスープを飲める。
幸せであった。
ダーツをするために、彼らと正反対の道を進んだ。
貧乏だから悪役の令嬢を演じることになったけど、演じることよりも彼らと噛み合わない会話をするほうが一番疲れる リーシャ @reesya
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