君が一秒笑えば世界は一秒平和になる〜明明ストーリー〜

昼月キオリ

君が一秒笑えば世界は一秒平和になる〜明明ストーリー〜

明明

ー一条ー

あれは雪の降る凍てつくような寒さの日でした。

私が最寄駅の近くにある和菓子屋に行った時の話です。

電車を降りて和菓子屋までの道のりを歩いていると街角に一人の女性がしゃがみ込んでいたんです。

彼女は傘を持っておらず、頭や肩に雪が積もってしまっていて今にも凍え死んでしまいそうでした。

一条「大丈夫ですか?」

私は傘を持っていたので彼女に差しながら話しかけました。

明明「雪だるまなっちゃうね」

カタコトの日本語だったので日本人ではないとすぐに分かりました。

最初は家出をしている方だと思って声を掛けたんですが

そうではなさそうだったので他に理由があるのだと思いました。

こんな状況でも明るく振る舞う彼女を放って置けず私は

和菓子屋まで一緒に連れて行くことにしました。

私を警戒している様子はありませんでしたが、念の為に安心してもらおうと僧侶をしていて和菓子屋を買いに来ていると伝えました。

言葉を理解しているかどうかまでは分かりませんでしたけど。

店に入る前に雪を全て落としてもらってから中に入りました。

和菓子屋には小スペースですがお茶を飲める場所があったのでそこで休んでもらいました。

カラカラ。(扉を開ける音)

一条「ゆかりさんこんにちは」

ゆかり「あら一条さん、いらっしゃい」

カウンターの奥にある暖簾の中から出て来たのはこの和菓子屋の女将のゆかりだ。

清潔感のあるベージュ色で無地の着物に割烹着を着ている。

ゆかりさんは気さくで仕事一筋な人で私と同い年とは思えないほどしっかり者なんです。

一条「すみませんが彼女に洋服を貸して頂けませんか?」

ゆかりはその言葉に一条の後ろにいた彼女に気付く。

ゆかり「あらあら大変‼︎肩がびしょ濡れじゃないの、さぁさ、奥に入って着替えましょう」

明明「すみません、ありがとございます」

ゆかり「あら、あなた外国の方?」

明明「はい、中国からきました、明明言います」

私はその時初めて彼女の名前を聞きました。

ゆかり「字はどう書くの?」

明明「明るい二つで明明ね」

ゆかり「明るいが二つで明明、いい名前ね、私はゆかりよ、よろしくね」

明明「ゆかりさん、よろしくお願いします、あの、あなたの名前もまだ聞いてなかった」

一条「私は一条と言います」

明明「いちじょーさん」

暖簾の奥には和菓子を作るスペースと、休憩できる小さな部屋があり二人が休憩室にいる間、一条は椅子に座って待つ。

やがて服を着替えた明明が出て来た。

上は温かみのあるベージュ色のニット、下は濃い色をしたシンプルなデニム生地のワイドパンツだ。

ニットの裾の部分には薄紅色の桜の花が控えめに咲いていた。

ゆかり「少し大きいけど着られて良かったわ」

一条「ゆかりさんありがとうございます」

ゆかり「ばばくさい服でごめんなさいね」

明明「ばばくさい??」

ゆかり「若い人と違う服って意味よ」

明明「そんなことないね、とてもおしゃれで可愛いです、私、桜すき」

ゆかり「まぁ、いい子ねぇ・・・服は返さなくていいからね」

明明「いいですか?」

ゆかり「ええ、良ければもらってちょうだい」

明明「ありがとございます」

一条「そうだ、明明さん、せっかくなので和菓子とお茶を頂きませんか?」

明明「でも、私お金ないです」

一条「お金なら気にしなくていいですよ」

明明「ありがとございます、もらいます」

ゆかり「何がいいかしらね?明明さん、ショーケースから好きなものを選んで」

ゆかりがショーケースを指差しながら言う。

明明「みどりの鳥に赤いかざりがついてるの、名前分からない」

ゆかり「これは春告鳥(はるつげどり)という和菓子屋なのよ」

明明「はるつげどり、はるつげどり」

明明はゆかりの言葉を復唱してみる。

一条「可愛らしい練り切りですね、私もそれにします、それとお茶を二つお願いします」

ゆかり「はい」

しばらくしてゆかりがお盆に和菓子とお茶を持って運んで来た。

ゆかり「どうぞ」

一条「ありがとうございます」

明明「ありがとございます」

テーブルの上に置かれたのは小皿に乗った練り切りと湯呑みに入った温かい緑茶だ。

鳥の形をした鶯色の練り切りの頭の部分には髪飾りが付いているかのようにこちらもまた練り切りで作られた赤い梅の花が付けられている。

明明が着ていた服も鶯色で、髪を結んでいるリボンも赤色と配色がよく似ていた。

ゆかり「お口に合うといいのだけど」

明明「ん!とても美味しい!!」

一口食べた瞬間、彼女がまるでパッと花が咲いたように笑いました。

本当に花が咲く瞬間を間近で見たような感覚でしたね。

ゆかり「良かった」

それから食べ終わった後、私は気になっていたことを聞きました。

一条「明明さん、家はどちらに?」

予想はしていましたが念の為聞くことにしました。

明明「私、いまは家ないね」

ゆかりさんは私と明明さんとの会話をカウンターの中で黙って聞いていました。

一条「"今は"ということは前はあったのですね?」

明明「はい」

明明は頷く。

話しを聞くと、明明さんは少し前までアパートで一人暮らしをしていたようです。

仕事に上手く就けず、お金が底をつきてしまった為、アパートを出ざるを得なかったのだそうです。

中国の田舎で育った明明さんは16歳の時に両親を病で亡くし、親戚もいなかった為に一人で暮らすことになりました。

そんな時、明明さんは幼い頃に両親に日本に連れて来てもらったことを思い出しました。

当時8歳。その時、偶然にも和菓子屋を売りにしているカフェに寄ったんです。

いつか三人で日本で暮らしたいと、そう話していたそうです。

その頃から日本語については家族で勉強されていたようで感銘を受けました。

一年の間、中国で働きながら日本語を勉強し、資金が貯まった頃こちらに来たと。

ゆかり「そう、大変だったわね・・・このお店でバイトさせてあげたいのだけれど経営が厳しくてね・・・」

一条「そうだ、明明さん、お寺で働いてみませんか?」

明明「お寺で??」

ゆかり「いい案だけれど、お寺の仕事はハードルが高くないかしら?」

一条「いえ、やってもらうのは掃除だけです」

ゆかり「あら、そうなの?」

一条「はい、庭の掃き掃除をする人を探していんですがなかなか見つからなくてちょうど困っていたところなんです、朝8時から夕方15時まで、休憩が1時間、週に5日、食事が一日三食とお寺の中に寝泊まりできる部屋を用意します、どうでしょうか?」

ゆかり「えーと、つまりね、仕事はお寺で掃除、生活もお寺でってことね」

私が長々と説明してしまった為、ゆかりさんが話をかなり端折って伝えてくれました。

明明「私、やるね」

一条「ありがとうございます、説明は少しずつしていきましょうか」

明明「お礼言うは私の方ね、ありがとございますいちじょーさん」

ゆかり「良かったわ」

一条「それではゆかりさん、お会計お願いします」

ゆかり「練り切り二つと緑茶が二つで1000円になります」

一条「お願いします」

ゆかり「10000円だからお釣りが9000円ね」

一条「お釣りはいいですよ、服代です」

ゆかり「お古を渡しただけなんですからそういう訳にはいきませんよ、はい、お釣り、ちゃんと持って帰って下さい」

ゆかりは一条の手のひらにお札を少し強めに乗せた。

一条「ゆかりさんはお堅いですねぇ」

ゆかり「一条さんが甘すぎるんですよ」

一条「あはは、参ったな」

ゆかり「じゃあ一条さん、明明さん、まだまだ雪が降ってますから気を付けて帰って下さいね」

一条「はい、ありがとうございます」

明明「ありがとございますゆかりさん」

こうしてその日から明明さんがこのお寺で働くことになりました。


ー明明ー

いちじょーさんの友達がお寺にきた話。

私はその時、床のそうじしてました。

話し声聞こえて思わず隠れてしまいました。

友人「へぇ、中国の人か、気にしなかったのか?海外の人を雇うなんてさ」

一条「私は細かいことは気にしない主義でね」

友人「相変わらずのほほんとしてるな、大変なこととかないのか?」

一条「ないさ、むしろ助かってるよ、

このお寺は男だらけだろう?だから彼女がいるだけでパッと花が咲いたようにその場が輝くんだ

和菓子を食べた時のあの笑顔を見た時からここに来て欲しいと思っていたよ

彼女、明るくて優しくて仕事もしっかりやってくれる、本当に助かっているよ」

明明は柱に隠れたまま涙が出ないように口をぎゅっと紡んだ。

友人「そうか、なら良かったな」

私、泣きそうね・・・。私、ここ来て良かった。


ー一条ー

それから数日後。

和菓子屋に一緒に行きたいという明明さんのお願いがあり休みの日に行くことになりました。

一条「こんにちは」

ゆかり「あら、いらっしゃい、明明さんも来てくれたのね」

明明「こんにちはゆかりさん」

一条「和菓子屋を買いに来ました」

ゆかり「いつもありがとうね、今日は何にしますか?」

一条「えーと、あ、良かったあった、桃饅頭」

ゆかり「あら、桃饅頭?」

一条「明明さんが日本の桃饅頭も食べてみたいと言ってきたんですよ」

ゆかり「あら、明明さん桃饅頭好きなの?」

明明「はい、昔、家族で食べてました、なので、お寺のみんなで食べれたら幸せおもて」

ゆかり「ええ子や・・・」

ゆかりさんは手を頬に当てながら言う。

一条「ね、本当にいい子なんですよ」

明明「みんながあんこ好き聞いてちょうどいいって思うたんです」

一条「あの三人は餡子に目がないですからね」

ゆかり「いつも餡子の入ったものを選んで行かれますもんね」

一条「そうなんですよ」

ゆかり「明明さん、一条さん、こう見えて実はショートケーキが一番好きなのよ」

一条「ちょっとゆかりさん・・・バラさないで下さいよ」

明明「なのに和菓子屋に通う、なんでですか?」

一条「そ、それは・・・」

ゆかり「ほら、一条さんって困っている人を放って置けない人でしょう?だからなのよ、私の店が経営難だって知ってからずっと通ってくれてるの」

明明「いちじょーさん優しいね」

ゆかり「でしょう?たまには自分の好きなものを買いに行ったって罰は当たりませんよ、買って頂けるのは嬉しいけれど」

一条「いえいえ、ちゃんと休みの日には時々食べに出掛けていますからお気になさらず」

ゆかり「そう?それならいいんだけど・・・じゃあまたね明明さん、一条さん」

明明「はい、また来ます」

一条「私もまた来ます」

ゆかり「ありがとうございました」

ゆかりさんが玄関まで見送りに来てくれた。

ゆかりさんが店の中に入って扉が閉まった後、明明さんが私の腕をペシペシと軽く叩いて来ました。

明明「いちじょーさん、いちじょーさん」

一条「うん?どうかしましたか?」

明明「いちじょーさん、ゆかりさん好きね?」

一条「ブフッ、ゲホゲホ、な、なぜそれを・・・」

明明「いちじょーさん一番好きショートケーキ、なのに通う和菓子屋、ゆかりさん好きなしょーこね」

一条「いえ、あの三人が餡子好きなのでそうしているだけですよ・・・」

明明「隠してもだめね、いちじょーさん、ゆかりさんに会う前、いつもより鏡見る、それかっこ良く見せたいからね」

一条「め、明明さんなかなか鋭いですねぇ・・・」

自分の行動を分析され一条は動揺する。

明明「ゆかりさん、結婚してる?」

一条「いえ、していませんよ、彼女は仕事一筋で生きて来ましたから」

明明「いちじょーさんもしてない、問題ないね」

一条「いえいえ、彼女にその気持ちがないのは分かっていますから言い寄るわけにはいきませんよ」

明明「気持ち確認してる時間もったいないね」

一条「え?」

明明「恋はこうなったから上手くいく、こうならなかったら上手くいかないなんて決まりないね

人間は明日死ぬかもしれない

伝えたいこと死んでからじゃ遅いよ」

一条「明明さん・・・」

確かにそうだ・・・。

明明「私、いちじょーさんには後悔してほしくない」

一条「そうですよね・・・私、次会ったら伝えますちゃんと」

明明「だめね」

一条「え?」

明明「いちじょーさん、今行く、まだ店からそこまで離れてないね」

一条「え!?今からですか?そんな心の準備が・・・」

明明「準備してかっこよくしても上手くいかない時あるね」

一条「グサッ・・・め、明明さんなかなかの切れ味ですね・・・」

思わぬところで核心を突かれ、一条は小さくなった。

明明「反対に準備しなくても上手くいく時あるよ、

私、いつもの一条さんが一番すてき思う」

一条「明明さん・・・ありがとうございます、私、行って来ます、今」

明明が両の手で握り拳を作って応援する。

明明「頑張っていちじょーさん!」

明明「はい!」

店に戻ると、ゆかりがちょうど最後のお客を送り出している最中だった。

暖簾を持ったまま足音のする方へ振り向く。その時、こちらに向かって来る一条の姿を見つけた。

ゆかり「あら?一条さん、何か忘れものかしら?」

一条はギクシャクと音が聞こえそうなほどロボットのような動きをしてこちらに歩いて来る。

一条「あの、ゆかりさ・・・うわ!?」

どし〜ん!!

一条は足を滑らせ転倒してしまう。

ゆかり「まぁまぁ、大変!!一条さん大丈夫?」

一条「いたた、はい、尻餅はつきましたが骨は大丈夫そうです」

明明「一条さん大丈夫?」

一条「はい、なんとか・・・」

結局、一条は二人の手を借りて店の中に入った。

ゆかりはひとまず暖簾を片付けた。

一条「す、すみません、こんな醜態を晒してしまうなんて・・・」

ゆかり「いえいえ、お怪我がなくて良かったわ」

一条「まさかこんな情けない姿をゆかりさんに見せてしまうなんて・・・穴があったら入りたい・・」

明明「ゆかりさん、いちじょーさん嫌いになった?」

ゆかり「まさか、なりませんよ、放って置けないのは確かですけれどね」

一条「面目ないです・・・」

ゆかり「でも、そういえばどうしてまたここへ戻って来たの?忘れ物はなかったように思うけれど」

明明「いちじょーさん、ゆかりさんに話したいことあるて」

ゆかり「あら、私に?何かしら一条さん」

明明「私、奥の部屋いこうか?」

一条「いえ、明明さんはここにいて下さい」

明明「わかりました」

ゆかり「とりあえず、お茶を出しますね・・・どうぞ」

一条「ありがとうございます」

明明「ありがとうござます、お茶おいしいね」

一条「ええ、やはり温かいお茶はリラックス効果がありますね」

ゆかり「私も一緒に座っていいかしら?」

一条「あ、はい、どうぞ」

お茶を一口飲み、深呼吸をした後、一条が話初めた。

一条「あの、ゆかりさん、私、ここにずっと通ってる理由、実はお寺の三人に餡子を食べさせてあげたいからと言っていましたが、半分は違うんです」

ゆかり「あら、そうなの?」

一条「私がここに来てたもう半分の理由はゆかりさん、あなただったんです、初めて来た時からずっと素敵な方だなと思っていました、

気さくで優しいのに仕事一筋でかっこ良くて・・・

私はずっとあなたに憧れてきました、

最初はただの憧れだと思っていたんですが、

会う度に魅力的だと思う部分がどんどん増えて気付けば恋に落ちていました、

ゆかりさん、私とお付き合いをして頂けないでしょうか?」

ゆかり「・・・一条さん、お気持ちはとても嬉しいのですが・・・私はこの店を続けていく限り今の生活を変えることはできません、今更人と暮らすなんてこともできないでしょう、ほとんど仕事と趣味の往復ですからね、

もっと若い女性とお付き合いをして結婚した方がいいと思いますよ、私はもう子どもを産めませんし」

一条「私は子どもを作りたいとは考えていません、

これからの人生、好きな人と過ごしたい、ただそれだけなんです」

ゆかり「私も結婚という形に捕らわれず、相手が一条さんだけだったらいいかもしれません」

一条「それは恋人ということですか?」

ゆかり「ええ」

一条「でも、ゆかりさんは私のこと異性として見られてないですよね?」

ゆかり「そんなことありませんよ、ちゃんと見てますよ?」

一条「全然態度に現れないじゃないですか」

ゆかり「一条さんが分かりやすいから自分は控えて置こうって勝手になっちゃうんですよ」

一条「そ、そんなわかりやすかったですかね?」

自分の気持ちを見抜かれていたことを知り、一条は急に恥ずかしくなる。

ゆかりさん「お釣り受け取る時、いつも手震えてますし目が合うのにすぐ逸らしますし」

一条「そう言われると恥ずかしいですね・・・」

ゆかり「なーんか一条さんってしっかりしているようで抜けてるとこがあるというか・・・そういうところ放って置けなんですよね」

一条「は、はぁ・・・」

ゆかり「そういうところも好きですけどね」

一条「え、今、今好きって言いました!?」

一条は机に乗り出してゆかりに聞く。

ゆかり「ふふ、言いましたよ」

一条「夢を見ている気分だ・・・」

明明「良かったねいちじょーさん!」

一条「は、はい」

ゆかり「お付き合い、結婚ではなくパートナーとしてならいいですよ」

一条「え」

ゆかり「あ、嫌なら他の人に・・・」

一条「いえ!ゆかりさんがいいです!ゆかりさんじゃなきゃ嫌です!」

ゆかり「もう、そんなに必死にならなくても私はどこにも行きませんから安心して下さいよ」

一条「はっ、すみません、つい白熱してしまいました」

ゆかり「一条さん、今度、一条さんのお気に入りのショートケーキが食べれるお店に連れて行ってくれないかしら?」

一条「あ、はい!もちろん喜んで!」

ゆかり「じゃあ二度目の、帰り気を付けてね」

明明「はい、ありがとゆかりさん」

一条「ありがとうございます」

カラカラ。ピシャン。

一条「明明さん、やりました!ゆかりさんとデートの約束できました!!」

明明「いちじょーさん良かったね」

一条「これもみんな明明さんが背中を押してくれたおかげですよ、ありがとうございます」

明明「頑張ったのはいちじょーさんね、だから偉いのはいちじょさんだよ」

一条「ありがとうございます明明さん」

こうして次の休みの日。

一条とゆかりは街中にある小さなカフェに行き、ショートケーキと紅茶を頼んだ。

見た目は普通のショートケーキで生クリームが多過ぎず、クリームの甘さが控えめで食べやすかった。

ゆかりにも好評だったそうでまた今度一緒に行く約束をした。

めでたしめでたし。



明明〜その後〜

あんながイギリスに行ってからすぐのこと。


ゆかりさんの営む和菓子屋に来た一人の女性の話だ。

その時、明明と一条もたまたま店に居合わせた。

かずこ「まぁ、もしかしてあの時の?」

明明「え?あ!もしかして抹茶の人??」

かずこ「そうそう、あの時、あなたは私のこと抹茶の人って言っていたわね、名前はかずこよ、よろしくね」

明明「かずこさん、私、明明、よろしくお願いします」

一条「あの、かずこさんは彼女を知っているのですか?」

かずこ「ええ、もう15年以上前になるかしら、まだ幼かった彼女とご両親が三人で私のお店に来てくれたのよ

もうお店は閉めてしまったけどね、

今でも覚えているわ、とても仲のいい家族だったから、

ご両親は元気?」

明明「いえ、両親は病で亡くなりました」

かずこ「あら、ごめんなさい・・・」

明明「いいんです、それより私お店のことあまり覚えてなくて・・・教えてほしいです」

一条「彼女、お店の名前が分からなくて困っていたんです、

抹茶と団子、そして店に鳩がいるということだけは聞いていたんですが、鳩を飼う和菓子屋なんて聞いたことがなかったので・・・」

かずこ「ああ、それはひょっとして時計のことかしら?」

一条「時計?」

ゆかり「あら、鳩時計?」

かずこ「そうそう、当時、旦那が鳩時計が好きでお店に飾っていましたわ」

一条「どうでしょう明明さん、思い出しましたか?」

明明「すこし思い出しました、それに女将さん変わってなくて」

かずこ「嫌だわ、もうすんごい歳よ私、あなたは変わってないわね、あの日のまま可愛らしい・・・いいえ、とてもいい女性になったわね」

かずこは明明と抱き合った。

かずこ「明明さんは今まで沢山苦労したのね、大丈夫、これからは幸せが沢山あなたに降り注ぐから」

明明「ありがとございます・・・」

かずこの優しい言葉に明明の目に涙滲む。

一条「ずびっ・・・」

ゆかり「あら、一条さん大丈夫?ティッシュ良ければ使って」

一条「ありがとうございます・・・」


帰り道、何やら考え事をしている明明に一条はこう告げた。

一条「明明さん、やりたいことができたら遠慮することはありませんよ」

明明「いちじょーさん、私がなに考えてるか分かるです?」

明明は目をまんまるくして隣りを歩く一条を見た。

一条「はい、何となく」

明明「いちじょーさん、私、これから和菓子作りたいです」

一条「はい、あなたならきっとできます」

明明「掃除する人いなくなるね」

一条「そこは、私がなんとかしますよ」

こうして明明は半年後、隣り町の和菓子屋で働きながら和菓子作りを勉強し、その二年後には自分のお店を出すことに成功した。

明明27歳。

街角。団子屋"結結"(ゆいゆい)。テイクアウト専門店。

店の入り口には開店祝いの花が置かれている。

暖簾をくぐり、一人の男性が入って来た。

開店して初めてのお客だ。

明明「いらっしゃいませー!いちじょーさん、最初のお客ね」

一条「もちろんです、ずっと心待ちにしていましたから」

明明「ありがと、私嬉しい、いちじょーさん、何にしますか?」

一条は一通りショーケースを見ると注文する。

一条「明明さん、明明を四つお願いします」

明明「はい!」

明明というお店の看板商品。

三つ並んだお餅が串に刺してある。

3段目は黒い餡をまとったお餅の端に中国結びの赤いリボンの練り切りが載っている。

2段目はさくら餅、3段目はずんだ餡だ。

一条「可愛い和菓子が買えました、ありがとうございます」

明明「いいえ、いいえ、あ、でもゆかりさんのお店は・・・」

一条「そのことなら心配いりませんよ、ゆかりさんのお店も寄りますから」

明明「お坊さんたち太るよ」

一条「あはは、大丈夫ですよ、彼らは普段から精進料理しか食べませんし甘味が二つに増えたからと言って太りはしませんから」

明明「それもそうね」

一条「それではまた来ますね」

明明「ありがとございます」

こうして明明は無事に団子屋を始めることとなった。



西条寺。

「キュルキュル」

「ピー」

今、木に止まっていた二匹のメジロが飛びたった。

一条「おや、旅立ってしまいましたか」

時田(ときた)「メジロですか?」

一条「時田さん、いやいや、旅立ったのはメジロではありませんよ」

時田「ああ、あの二人ですか」

一条「はい、寂しいものですね」

時田「でも、最初から"それ"が目的だったのでしょう?」

一条「可愛い子には旅をさせよ、とも言いますからね、

あの二人は人一倍辛い思いをして生きて来ました、

これからはやりたいことをやり、寄り添いたい人と過ごし、自由に生きていいはずです」

時田「それで、いつまでこの活動を続けるんです?」

一条「自分の羽で飛べなくなったら、でしょうか」

これは当分続けるな・・・。

一条「すみません、迷惑でしたか?」

時田「いや、そんなことはありません、

山奥で暮らしていると人に会う機会が少ないですし、

新しい出会いが新しい風を運んで来てくれるので

我々三人は結構楽しんでますよ」

一条「そうですか、そう言ってもらえて良かったです」

時田「しかし、荒れていたところを助けられた自分が言うのもなんですけど、いずれ我々みたいにこのお寺に住み着く人も現れるかもしれませんよ」

一条「それもまた一興ですね」

やれやれ・・・。

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