第5話あなたのための香水

女性達は次の日も来たので、並ぶ香水に黄色い声をあげた。


「きゃあー!できてるわ!」


「昨日あんなに勿体ぶってたのに」


「製作者が昨日の騒動を見て、みなさんに作ってくれたんですよ」


「なんて優しい人なの?」


「ますます、ファンになってしまったわねえ」


「いい香り」


メッセージカードもちゃんと付属していることに、さらに騒ぐ面々。


滞在している間にも、せっせと作っては棚に並べて完売をさせる。


他の雑貨屋もうちに欲しいと望まれて、彼が相談しに来たので、通常の半分の量ならば下ろせると伝える。


こういうのを向こうでも、半ライスとか半チャーハンというらしいので、真似してみた。


小さな香水も、それはそれで小さくて可愛いと爆発的に売れているらしい。


可愛さに、どの世界の人も夢中になるのは変わらないなぁ。


「悪いな。奢るから好きなもんなんでも言えよ」


ナグレスは申し訳なさそうに言う。


「気にしないで。あのままだったら気になって仕方なかったし」


それでも、なにか言いたそうな顔をしている彼へ鞄に入れていたものを渡す。


「前に男用の香水をリクエストしてたでしょ。試しに作ってみた。でも、男性の恋心なんてわかんないから割とテキトー」


「え?おれの、ため?」


また感動に震える男は香水をかぐ。


「色んな香りがする」


「とある人が言っていた。男ゴコロは複雑なのだってさ」


「なんで知ってんの?すごくないかお前。恋心の全ての始祖なのか」


「始祖なら、私とっくに結婚してると思わない?」


その設定は、今の状態に矛盾が生じるぞ。


「いい香りだ。おれのための配合だな」


「うん。さっぱりした香りで甘くないようにした。ナグレスは甘いの好きだけど普段使う時は身に纏いたいってわけじゃないでしょ?」


「ああ。食べるので間に合ってる」


彼は軽くそれを吹きつける。


目を閉じて、こちらを見やった。


「好きだ」


と、言われて目をぱちりとさせる。


「……え?わ、わたし?」


他にいるかもしれないと周りを見たけど二人きりで、部屋にいそうななにかもいない。


「おれの部屋に今の所虫はいない。虫だとしても告白しないぞ」


回り込まれて封じられてしまう。


さすが、こちらの思考を透かしてみせた。


手腕に顔を左右に動かして、指を己の方に向ける。


「お前だお前。恋の香水をもらっちゃ、男が廃る」


「渋い」


「しぶ?で、返事は?」


「返事?告白の?必要なの?」


言いっぱなしでおしまいな結末も、悪くないと思うんですがね。


「おれが毎回お前のところに行ってたのは、お前に会いに通ってた。下心大有りで薬師としての仕事なんて後回しだ」


「そうだったんだ?」


びっくりだ。


「ごめん」


「振られてるのかおれは」


勘違いした男は、テーブルに頭を打ちつける。


「違うよ。友達いないから寂しくて通ってると思い込んでて悪かったなって意味で、ごめんって意味」


「解説する必要どこにあったんだよ。返事しろよ返事。はー、焦った」


「う、うん。うーん。ううん?」


考えたけどやっぱりわからない。


わからないから、恋について知るために異世界で研修してるんだし。


「迷うならおれにしろよ。おれはお得だぞ。今なら時間内に受けたらお前の薬1.5倍で買取する。してやるよっ」


1.5は自腹切りすぎでは?


「落ち着いて。ダメとは言ってないしまだなにも言ってない。焦りすぎて変なこと言い出してるし」


「慰めるなよ。慰めるなら恋をくれ!」


もっともなことを言われてしまうと、困る。


「は!もしやこの香水が足りないのか」


「足りなくない足りなくない。それ以上したら酷い匂いになるからやめて」


近寄れなくなって、恋とかの前に風呂へ行ってもらうことになる。


とにかく落ち着いてと、代わりに茶を入れる。


「ほら、飲んで」


「ああ……いや、入れるよりも返事くれよ」


「答えを求めるのは早すぎ。こういうときって、返事いつでもいいからってのが普通じゃない?」


「無理。毎回店行く時も話す時も、返事くるかもって気になって、眠れなくなりそうで日常生活に支障をきたすから」


「正直だなぁ……本当に今がいいの?」


ファイナルな答えを聞くと、彼はごくりと茶を飲み込む。


「い、いいぞ。こい」


「わかった。いうね」


一呼吸置き、彼に向き合う。


「私には恋とか愛とかわからないけど、ナグレスは知ってるってことだよね?私のこと好きって、それは恋ってことでしょ。なら、私に教えて欲しい」


「いいのか?今のままを永続なのか」


「告白受けるよ」


言い放つと彼は五秒固まり、椅子を向こう側に弾き飛ばす勢いで立ち上がる。


ダーッと走って外へ出たと思えば、人の悲鳴が聞こえた。


「誰か噴水に飛び込んだぞおおおお!!」


「キャアアアアア!?」


人のざわめきが耳に到達した。


色々察したロアマリヤは、熱いお茶を用意するためにキッチンへ向かうことにした。

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恋する香水はその手に想い人を手繰り寄せられるのか〜あなたはとりあえず落ち着いてほしい、焦れば焦るほど自爆していくから〜 リーシャ @reesya

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