【KAC2025-5】人間掃除の広告屋、その事務所での一幕

一式鍵

@事務所

 天下無双、ダンス、布団。


 その三題で物語を書けと、ボスから命令が来た。


「また無茶苦茶な」


 俺はいつもどおりに頭を抱える。助手の篠山しのやま伊豆子いずこはいつもどおりにタバコをふかしている。


 今日日きょうび、職場で喫煙なんてありえない。なんて思うだろう。俺もそう思う。しかしこの伊豆子という今年二十歳になったばかりの女子には何を言っても馬耳東風。会社のルールだと言っても聞かず、査定に響くと言っても「だから?」という態度だ。正直参っている。一応、俺がこの会社の社長ってことになっているのだ、が……。


 しかし彼女はなぜか知らないがとても優秀な助手なのだ。


 物語を書けと司令部から命令がと書いたが、別に俺は小説家ではない。仕事もちょっとした裏の世界の仕事だ。具体的には金をもらって人を殺すというお仕事だ。仕事自体は慣れてしまえば別に難しくはない。しくじれば死ぬだけだ。


 という話での助手だ。伊豆子はとにかく殺人がうまい。証拠を一つも残さず仕事をする。残るのは死体が一つ、あるいは二つ、時には三つ以上。


 いつしか裏の世界では俺よりも伊豆子の方が有名になってしまったし、危ない仕事をしてる連中は伊豆子の名前を聞くだけで震え上がった。証拠を残さないと言っても、裏の世界では犯人はバレバレなのだ。というか、証拠の残らない殺人は全て伊豆子の仕業だと思われているフシもある。中には俺の仕事も含まれているんだけどな……。


 そんな俺がなんでそんな三題噺で物語を強要されているのかと言うと、話は単純だ。偽装工作である。うちは表向きは広告屋。界隈のWEBサイトを作ったり(外注だが)、看板の制作を請け負ったり(外注だが)している。


 ボスはだから「お前も広告屋らしいクリエイティブな仕事の一つもしろ」と言って、しばしば無茶な振りをしてくるのだ。俺にはボスの要求をスルーする勇気はない。機嫌を損ねたら簀巻きにされてどこぞに捨てられる。それは避けたい。


「タカさん、タカさん、タカタカさん」


 伊豆子がタバコの火を消して、スマホをいじる。言うまでもないとは思うが、タカさんというのは俺のことだ。高山鷹尾。親を恨むネーミングセンスだ。


「タカタカ禁止」

「そんなことより布団買った」

「は?」

「布団」

「なんで? どこに?」

「いつでも寝れるように。ここに」

「はぁ?」


 やる気なさすぎ女、伊豆子。


「つかぬことをお伺いしますが、そのお金はどこから?」

「先週巻き上げた。だから私のお金」


 ドヤ顔で言う伊豆子。


以外で殺しはご法度だぞ」

「殺してない。バトルはした。ダンスバトル」


 そう言ってまたタバコに火をつける。今どき紙巻きタバコなんて珍しいが(俺は十年前から禁煙中だ)、伊豆子は気付けば葉巻くらい吸っていてもおかしくない。


「ダンスバトルって、お前ダンスなんてできるのか?」

「殺しに比べればクッソみたいに簡単。銃弾避けたりナイフ躱したりするのより全然遅いし」

「銃弾避けるお前が異常だよ」

「パワハラ一点」

「いやちょっと待て」


 何がパワハラだったのか理解できていない俺。


「まぁ、真面目な話、特訓はしたよ。直前に十五分」

「ダンス舐めすぎだろ」

「私、天才だからさ」

「それにしても十五分って」

「イメトレイメトレ。ちゃんと二時間前からしながらイメトレしてたもん」

しながらダンスのことを考えるな」

「パワハラ二点」

「ちょっと待てや」

「そんなことより、今日の仕事はないの? 帰るよ?」


 今日は今のところ仕事の依頼はないし、計画もない。


「伊豆子、飯でも行くか」

「タカタカの奢りなら考えてやらんではない」

「なんでそう偉そうなの。あと、タカタカ禁止」

「私、天才だから何してもいいの」


 確かに我が世の春、唯我独尊、天下無双――そんなものをまとめて謳歌しているのが伊豆子だ。


「天才でもわきまえたほうが良いと思うが」

「じゃぁ、タカタカは一人で行けんの? 事務所殴り込みして皆殺しとかソロプレイでいけちゃうの?」

「それは無理だ。あと、タカタカ禁止」

「私にはできる」


 俺の言葉の後半をしれっと無視して胸を張る伊豆子。アスリート体型にやや不釣り合いな見事な胸である。


「タカタカタカさんはドンと構えて、お金を出してくれさえすればいいんだよ。じゃないと、私、タカタカタカタカさんをひん剥いて食べちゃうよ。比喩じゃなくて」

「ちょっと待て、怖い」

「やりそうでしょ、私」

「うん」

「だからさー、タカりんも言葉に気をつけたほうが良いと思うよ~」

「タカりんやめい」

「ま、冗談はさておき。私、タカりん好きだからさー。ぶっ殺すにしてもちゃんと即死させるから安心してよ」

「めっちゃ怖い」


 こいつならそれが可能なのだ。正直ガクブルである。


「で、書けた?」

「ん?」

「三題噺? ボスからのネタ」

「いや全然」

「ばーか、人がせっかくネタ出ししてやったのに、なんで書いてないのさ」


 あ、そうか。


 この殺人鬼・篠山伊豆子は、そういう意味でも優秀なのであった。

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