とある後宮の話
朏猫(ミカヅキネコ)
とある後宮の話
とある国の皇帝の後宮に「妃将軍」と呼ばれる妃がいた。その姿は薔薇のように美しく、ひと目見た誰もが「天下無双の美貌だ」と口にする。しかしひとたび剣を持てば将軍さえも翻弄する剣さばきを見せることから「
「まるで西域の女神がダンスとやらを踊っているようだと聞いたが本当か?」
「あぁ。あれこそ天下一の剣舞と言えよう」
「気高く美しく、それでいて剣の扱いは武人のごときか」
「よもや
「九尾の狐だったとしても皇帝と国を守ったのだ、それがすべてだ」
今日も表の世界では妃を讃える声が途切れることはない。そんな妃が住まう後宮では「ねぇってば!」と駄々をこねるような声が響き渡っていた。
「早くモフモフの尻尾、出して!」
「おい、大声を出すな」
「ぼくはあれがないと寝られないの!」
頬を膨らませて怒っているのは美姫……のはずだが、はだけた胸に膨らみはない。だがここは後宮で、のし掛かられているのは紛れもない皇帝だ。
「わかったから静かにしろ」
美姫の倍はあろうかという体格をした皇帝が「はぁ」とため息をついた。それに「ため息なんて生意気だぞ」と腹に載った美姫が眉をつり上げる。
「誰がおまえを皇帝にしてやったと思ってるんだ」
「愛しい我が妃であるおまえだな」
「そうだ。その見返りが尻尾だって忘れるな」
「まさか妖狐の尻尾を布団代わりにする
呆れながらも皇帝が「誰も近づけるな」と外に声をかける。すると「承知」と答える声と、わずかに獣らしき鳴き声がした。
「早く」
「わかったから、そう急くな」
ため息をつくとポンと音がした。音と同時に皇帝の尻のあたりに獣の尻尾が現れる。九本の尻尾はいずれも見事な毛並みで、さらに美姫の体をすっぽりと覆うほど大きい。
「はぁ~、最高」
すぐさま美姫が尻尾を抱きしめた。そうしてスリスリと頬を寄せながらもう一本を引き寄せる。
「まったく、おまえは俺と尻尾、どっちと結婚したんだ?」
呆れる皇帝にしばらく考た美姫は、「そりゃあ決まってる」と言うと尻尾をぎゅうと抱きしめた。そうして体を伸ばし皇帝の唇にちゅっと口づけた。
とある後宮の話 朏猫(ミカヅキネコ) @mikazuki_NECO
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