うちのネコ
斎木リコ
うちのネコ
我が家のネコは太平楽だ。常に日の当たる場所で惰眠を貪り、寒い夜は私の布団に潜り込んでくる。
潜り込むだけならまだしも、ネコは本来の布団の主である私を押しのけるのだ。おのれネコ。可愛いからっていい気になるなよ?
ネコは母が一番好きだ。何せ餌をくれる人だから。そして私の事はあまり好きではない。風呂に入れられるから。
でもお前、長毛種なんだから。定期的にシャンプーしないと毛玉で大変な事になるんだぞ?
一度バリカンで毛を刈られた事があるくせに。ネコだから、すでに忘れているんだな。なんせネコだし。
嫌がられようが爪は切るし、暴れられようが風呂には入れる。ネコの為なのだ。だから暴れるな。爪を立てるな。痛いだろうが。
ネコといると生傷が絶えない。そんな私を見て、友達は笑う。
「意外と、ネコはあんたに甘えてるだけかもよ?」
そうだろうか。人間ならまあそういう事もあるかもと思わないでもないけれど、相手はネコだぞ?
あいつら、家の中では我が物顔だからな? 何やっても許されると思ってるぞ、絶対。実際、母は何でも許してしまうけれど。
今日は友達が遊びに来る。私が我が家のネコの話をしまくるものだから、会ってみたくなったらしい。
ネコがおとなしくしているといいんだが。
「にゃあん」
「うわあああ! 可愛いいいいいいい!」
杞憂だった。ネコめ、友達には愛想振りまきおって。お前、普段はそんな鳴き方しないだろうが。
「ふわっふわだねえ。すっごく可愛い!」
「昨日丸洗いしたからね。おかげでひっかき傷だらけだよ」
もう、夏場でも半袖とか着られない。腕には細い傷が無数に出来ているから、さすがに恥ずかしい。
傷の元凶は、友達におもちゃで遊んでもらってご機嫌だ。おのれネコ。今日は布団に入れてやらないからな。
そのネコは、現在何やらダンスでも踊っているような動きを見せている。単に、友達がおもちゃで釣っているんだが。
「ねえねえ、まるで踊ってるみたいじゃない? 激写しようよ」
「こいつ、写真撮られるの嫌うんだよね」
私がスマホを向けようものなら、顔は背けるしフーシャーするし。可愛い顔なんて撮れたためしがない。
そのネコが、おもちゃに釣られて踊ってるよ。ネコダンス、可愛いのが何か悔しい。
友達に言われるまま、スマホで連写する。おもちゃに夢中なネコは、普段のように嫌がりもせず撮影されていた。
お前……飼い主は私だって、ちゃんと理解してるか?
友達が上機嫌で帰ると、ネコも普段と同じ態度に戻る。お前、本当に猫を被ってたんだな。ネコのくせに。
風呂に入って髪を乾かして、さて寝ようかと思ったらネコがきた。布団乾燥機で温めておいた布団の中に、するりと入る。
「お前……お母さんの布団に入れよな?」
私は知っている。母はいびきが酷く、歯ぎしりも凄い。隣でなんて寝られない人だ。ネコも、それがわかっているんだろう。
だから、私の布団を狙ってくる。
仕方ない。どのみちこのネコには勝てないのだ。
「付けた名前が悪かったのかな……」
天下無双。それがネコの名前だ。でも、もう二度と呼んでやらないけれど。
うちのネコ 斎木リコ @schmalbaum
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます