夢で母が伝えたかったこと

ふさふさしっぽ

本文

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ちょうど十年前に亡くなった母が、夢の中で何かを、娘である私に訴えているのだ。

 何もない、白い霧の中のような空間に、亡くなったときの年齢、四十六歳のままの母が立っている。

 四、五メートルくらい離れているだろうか。その位置から、両手を口元に添えるポーズで、私に向かって何か言っている。必死に。


 必死に叫んでいるようなのだが、不思議と声は私に届かない。口パクだ。

 何を言っているの? と考えているうちに、夢は終わって、目が覚めてしまう。ほんの数十秒ほどの、短い夢。


 私に霊感とかがないから、聞き取れないのかもしれない。

 あんな必死な感じだし、とても重要なことかもしれない。なにしろこれで9回目なんだから。


『今付き合ってる今井って男はロクな奴じゃないからさっさと別れろ』?


 言われなくても別れるつもりでいる。というか、既婚だった。子どもが三人もいた。最悪。


『近いうち事故に会って大怪我する。気をつけろ』?


 あり得る。よく考えたら、それくらい大事じゃなきゃ9回も連続で夢に出てこないだろう。あるいは、私じゃなくて父かも知れない。父が何か重篤な病気にかかっているから、病院に連れて行け、という警告かもしれない。いやいや、それとも。


『次のロト6の一等当選番号を教える。番号は××××××』?


 というお告げかも知れない。どうして今このタイミングで私に当選番号を教える気に母がなったのかは分からないが、あの世ではこの世のことはお見通しなのかもしれない。そう、ロト6の当選番号くらいのことは。


 もしそうだったら、10回目の夢では、なんとしてもちゃんと聞かねば。

 番号を。

 霊感がないから聞き取れないとか言ってる場合じゃない。

 10回目は母の声をちゃんと聞き取り、覚えるのだ。当選番号を。


 今日は早めに寝ることにした。

 母が当選番号を教えてくれたら、即メモできるように、枕元に準備して。


 気合が入っていたからか、眠りに落ちるのに時間がかかったが、次第に瞼が重くなる。

 いつのまにか、白い霧の中の空間に、私は立っている。四、五メートル先には何かを訴えるような仕草の母。

 早くしないと、夢が終わってしまう。

 私は思い切って叫んだ。


「何、お母さん、もっと大きな声で言って!」


「遺影が傾いてる。直してよ!!」



 起きてすぐに母の仏壇が置いてある父の部屋へ行った。

 部屋は洋室なので、長押なげしがない。そのため仏壇の横の壁にフックで母の遺影を飾ってあるのだが。


 確かに少し右に傾いていた。

 基本的に毎日お線香を上げていたが、気がつかなかった。

 直した。


 直したよ、お母さん。


 そんなことだったの……。


 

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