第四十二回全日本二度寝選手権〈中継〉

鴻 黑挐(おおとり くろな)

男子72kg級・決勝

 「さあ第四十二回全日本二度寝選手権、男子72kg級決勝戦です。実況は私、JBCの午睡ごすいでお送りしております。

 そして解説には元オリンピック日本代表の毛利さんにお越しいただいております」

「よろしくお願いします」

「毛利さん。この決勝戦、ミン選手対根向ねむい選手というカードになりますが」

「そうですね。根向選手は72kg級で全日本を10連覇中ですが……」

「日本二度寝界を牽引けんいんする選手ですよね」

「はい。対して眠選手は注目の若手選手です。ユース五輪では金メダルを獲得していまして、かなり勢いのある選手ですね」

「注目の一戦です。さあ、いよいよ始まります!」


試合開始のブザー。


「先攻は……根向選手ですね。まずは根向選手が布団に入ります。

 競技二度寝は守備ディフェンス選手と攻撃オフェンス選手に別れて行う個人戦です。制限時間は5分。守備選手の身体が完全に布団から離れるまでのタイムの長さを競います」

「攻撃選手は守備選手の布団にアタックをかける事ができますが、試合開始から2分間のうちに守備選手の身体に接触してしまうとその時点で反則負けですからね。序盤は布団を攻撃していくのが定石です」

「さあそして根向選手、この構えは……。どう見るべきなんでしょうか、毛利さん」

「布団の上端に手をかけているだけ……『オヤスミ』の構えですね。かなり隙の多い構えですが、何か作戦があるんでしょうか」

「さあ攻撃の眠選手、速攻を仕掛けていきます。早速布団を剥ぎ取りました‼︎が、しかし……?」

「根向選手の足が掛け布団にかかっていますね。試合続行です」

「眠選手、一瞬怯んだようですが……」

「すぐに立て直しましたね。攻撃を再開しています」

「しかし根向選手の布団は剥がせない!布団とダンスを踊っているかのような華麗なステップ‼︎これがニッポンの根向‼︎天下無双の根向楓瑠かえるだあーっ‼︎」


短いブザーが2回鳴る。


「ここでブザーが鳴りました。2分経過したので、ここからは攻撃選手が守備選手の身体に接触できます」

「眠選手、果敢かかんに攻めていますが……。若干根向選手に押し負けている感じはありますね」


長いブザーが鳴る。


「あっ、今眠選手が布団を取りました!これで根向選手の試技は終了です。タイムは……3分34秒!」

「かなり高タイムですが……。眠選手なら逆転できないタイムではないかな?という感じですね」


 「ここで3分間のインターバル、両選手がベンチに戻ります。毛利さん。後攻の眠選手の試合運びというのは、どういう感じになるんでしょうか?」

「まあ、シンプルに耐久戦ですね。制限時間いっぱいまで粘るくらいの気持ちで行くとは思いますが……。根向選手の攻撃を耐えられるかどうか、というところですね」


インターバル終了を告げるブザー。


「さあ後攻、眠選手が布団に入ります」


試合開始のブザー。


「そしてこの眠選手の構えなんですが……。毛利さんこれはどう見るべきでしょうか」

「掛け布団の端を内側に収納する『マンジュウ』ですね。かなり防御力の高い構えですが……」

「おっと⁉︎ここで攻撃の根向選手が掛け布団の両端を掴んで……。裏返したーっ‼︎根向選手、なんと眠選手の身体を掛け布団ごとひっくり返しましたー‼︎」

「かなり攻めた戦法ですね。一歩間違えば反則負けのリスクもありましたが……。そこは根向選手もベテランですからね。うまくやりました」

「さあ眠選手、掛け布団を掴んで粘るが……落ちたーっ!タイムは1分42秒‼︎根向選手のタイムには届かずーっ!」

「いやー、攻めましたねー」


眠の監督が審判席に歩み寄る。


「おっと、ここで眠選手サイドからVAR判定の要請ですね」

「あのひっくり返す時に、根向選手が身体に触れていたんじゃないかと。それの判定ですね」

「さあ、判定は……?接触は無し!判定は覆らず‼︎」


会場から拍手が湧き起こる。


「優勝は根向楓瑠‼︎日本二度寝界のレジェンドが、見事11連覇を果たしましたーっ‼︎」


会場が万雷の拍手と歓声で満たされていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第四十二回全日本二度寝選手権〈中継〉 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ