最終話 夢の続き
俺は気合を込めて立ち上がり、兄上に接近し。
奥義の鞭打ではない通常技の連携を叩き込む。
兄上はそんな俺の技を軽くいなす。
いなしながら
「タツミロウ、考え直せ」
真剣な、そして悲しい目で
「醜き二本足……人類は絶滅すべきなのだ」
俺を諭すように言い続けて来る。
俺は
「兄上ッ! 殺して良いのは
不要な人間を殺すのはいくらでもして良いと思う。
社会が綺麗になる。
俺たちはずっとそうしてきた。
しかし……
人類絶滅は、絶対に間違っている……!
最後の突きを避けられたとき。
俺は後ろに大きく跳躍し
距離を取った。
「どうした……? もうおしまいかタツミロウ!」
兄上の大音量の吠え声。
心臓の弱い者ならこれで息絶えるだろう。
しかし……
「見損なわないで下さい兄上」
俺は気持ちだけの返し。
それしかできなかった。
俺の奥義は兄上には通じず、兄上と俺とでは、奥義以外では容易に決着はつかない。
このまま、互いにじわじわと消耗し、泥臭く我慢比べをしていくしかないのか……?
そのときだった。
「タツミロウ!」
この、俺たち兄弟の信念を掛けた闘争の場所に。
乱入してくる者があった。
それは女で……
長い髪をアクセントのように部分的に括った髪型……
そして踊り子に相応しい、奇抜なドハデ衣装……
ヒルダだった。
俺たちは停止した。
「……何だ、お前は?」
兄上の冷たい声。
ヒルダは息を整え、俺たちにその瞳を向ける。
「私はヒルダ、旅の踊り子です……。あなたたちを止めに来ました」
何故……?
戸惑う俺。
彼女には俺が兄と死闘をするためにフトンパレスを目指すなんて言ってなかったはずなのに。
彼女は言う
「酒場のマスターに、あなたのことを全て聞いたんです!」
人類絶滅を画策している拳の魔人を倒すため、その弟がフトンパレスを目指していると。
そしてその名がタツミロウであると。
彼女はそこまで語った後。
こう言ったんだ。
「血を分けた兄弟で争うなんて悲し過ぎます!」
とても強い意思が込められた瞳で。
「だから私のダンスを見て、もう一度考えて下さい!」
そしてヒルダが踊り始めた。
長い髪が風に流れる。
彼女が両手を広げてステップを踏む。リズムに乗って、体が弾けるように動く。
突然、満面の笑みでキメ顔を見せ、次の瞬間には高速で腕を鞭みたいに振る。キレッキレの動きが続き……
まるで「ホットホット!」って声が聞こえてきそうな勢いのある素晴らしいダンスだった。
世紀末の灰色の廃墟で、彼女のダンスは派手で、でもどこか心を掴む光だった。
彼女の踊りを見た兄上の目が揺れていた……
「あなたに出会えてよかった~うれし恥ずかしオーマイハート」
ヒルダの声が響き、ダンスがこの決闘の場に静寂をもたらす。
俺たちは彼女の踊りに目が釘付けになった。
「ベルダ……」
そこで兄上が小さく呟いた。
その名に、また俺の胸が締め付けられる。
ベルダの歌声が、ヒルダのダンスに重なっているのか。
兄上が目を閉じた。
「まだ夢を持って生きる者がいるのか。トップアイドルを目指していたベルダのように……」
兄上の声は震えていた。
その様子に俺は構えを解く。
ヒルダのダンスが終わった。
そして彼女は
「争うのはもうやめて下さい。タツミロウ、タカオウ……あなたたちが戦うなんて悲し過ぎます」
そんな彼女の言葉に。
兄上が目をゆっくり開けた。
白い己の服の襟を整える。
その兄上の目は……
冷たい光が消えていた。
「夢を持ち、懸命にまだ生きる者が居るというのなら、取り止めよう」
鴉が全て黒いものであるからという理由で、鴉の絶滅を考えるのなら。
たった1羽の白い鴉の存在が、それを全て否定する。
そういうことなのか、兄上……!
兄上が人類絶滅を諦めて下さった。
俺は感涙する。
「ありがとう、ヒルダ。お前のおかげだ」
俺が口にしたその言葉に、ヒルダは
微笑みながら
「当然のことです」
そう返した。
どんなときでも、人は夢を諦めてはいけないし。
不謹慎を理由に、他人の夢を否定してはいけない。
兄上は悲しい決断を取り止めて下さった。
だがこの世には、まだ他人の夢を追う姿を「不謹慎である」と叩き潰す不謹慎警察がいる。
そいつらは絶対に許せない。
弁解すら認めず、七族までブチ殺す。
……俺の戦いは始まったばかりだ!
<了>
【KAC20255】蠅叩の世紀末・天下無双! XX @yamakawauminosuke
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