光を贈る 〜あの日、あの場所で
Algo Lighter アルゴライター
光を贈る 〜あの日、あの場所で〜
第1章:追いかけた背中
初めて彼女を見たのは、地方の小さなステージだった。
その日、私はただなんとなく訪れたライブで、奇跡のような瞬間に出会った。
ステージの端。センターに立つメンバーほど目立たない彼女の瞳はまっすぐで、その姿が私の心を鷲掴みにした。
彼女のダンスは決して完璧ではなかった。
でも、一つひとつの動きに込められた思いが伝わってきた。
歌声も派手ではない。
けれど、懸命に歌う姿がまるで、
「私はここにいるんだ」と叫んでいるようだった。
その必死さが、心に突き刺さった。
「私も、あんなふうになりたい——。」
あのステージが終わった後も、彼女の姿が目に焼きついて離れなかった。
何度も思い出しては胸がざわつき、気がつけば夢にまで出てきた。
そのとき、私の中で何かが変わった。
「同じ場所に立ちたい。いや、あの人の隣に立って、同じ光を浴びたい。」
第2章:同じ場所に立つために
私は、彼女と同じアイドル養成スクールに入った。
目標はただ一つ。
彼女のように、一生懸命輝く人になりたかった。
最初のレッスンでは、期待と不安が入り混じっていた。
鏡越しに映る自分はぎこちなく、動きが硬い。
他の同期は上手くて、笑顔もキラキラしている。
「私には無理かもしれない……」
心が折れそうになるたびに、あの日の彼女を思い出す。
偶然、彼女と同じレッスンスタジオを使うことがあった。
彼女は誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで練習をしていた。
鏡の中の自分と向き合いながら、何度も何度も振り付けを繰り返す。
汗が床にポタリと落ちても、彼女は動きを止めなかった。
失敗しても、もう一度、もう一度とやり直していた。
その背中は、小さくて頼りなさそうなのに、
なぜか圧倒的な強さがにじみ出ていた。
「センターになれない悔しさ。だけど、それでも諦めない。」
私は遠くから、その背中を見つめるだけだった。
声をかける勇気なんてなかった。
でも、あの人がいるだけで、不思議と力が湧いてきた。
「いつか、あの人と同じステージに立ちたい。」
第3章:夢を紡ぐ光
でも、その願いは叶わなかった。
公式サイトに表示された「卒業」の二文字が、瞳に突き刺さる。
足元が崩れるような感覚に、思わず座り込んでしまった。
信じられなかった。いや、信じたくなかった。
あの人が、夢を諦めるなんて——。
「アイドルとしては一流になれなかったかもしれない。」
「でも、私が伝えたかったことを文章なら届けられるかもしれない。」
その言葉を何度も繰り返し読んだ。
彼女の笑顔が、頭の中で何度も浮かんでは消えた。
涙が止まらなかった。
それでも、私の中で彼女はずっと輝いていた。
私の夢をくれた人だから。
その思いが、私を支えてくれた。
デビューが決まった日、
楽屋で誰かが私の肩をそっと叩いた。
「デビュー、おめでとう。」
振り返ると、そこに彼女がいた。
驚きと嬉しさで、言葉が出なかった。
「あなたが頑張っているの、知ってたよ。」
彼女の声が、胸にしみた。
「私が夢を追っていたように、あなたも夢を追っていたんだね。」
思わず涙がこぼれた。
「あなたがいたから、ここまで来られたんです。」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
「そっか、私の光が届いてたんだね。」
あの憧れだった背中が、今は同じ場所にある。
私は、ようやく同じ光を浴びているのかもしれない——。
彼女の微笑みは、かつての私のように純粋で、
少しだけ、誇らしげに見えた。
光を贈る 〜あの日、あの場所で Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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