ヒロシの妖精

岩田へいきち

ヒロシの妖精


「梨美菜ぁ、コマネチって知ってる?」


「コマネチ? コマネキ? マニキネコ?」


「あははは、たけしさんのギャグで股間にYの字を手で作って当てて引き上げながら『コマネチ』って聞いたり見たりしたことない?」


「コマネチ? ううん、知らない」


 ここは、梨美菜が県外のバドミントンの強豪高校へ通うために住んでいるアパート。ぼく、ヒロシは、何故か家政夫となって、潜り込んでいる。最初は、姉の樹菜を一流のバドミントン選手にすることとそれにどうにかして関わって樹菜と一緒に暮らす方法はないかと考えた必殺技のつもりだったが、これがママの協力もあって、思った以上に上手くいき、梨美菜も続けてこのアパートへやって来た。樹菜は、昨年の春から同じ県内にある企業の一流バドミントンクラブに入部してクラブの寮にも住んでいるからもう梨美菜と2人きりだ。






「昔のね、オリンピックに出てたルーマニアの体操選手。初めて10点満点を取って金メダルもとった。たぶんその頃15歳くらいでね。白い体操着きてさ。めちゃくちゃ可愛かったんだ。たけしさんのギャグは、そのパンツがハイレグに食い込んでるって意味。ほんと可愛いかったよ。ぼくも惚れてた」


「へぇ、喋ったの? ヒロシ惚れた人には必ず声かけるじゃん」


「いやいや。その頃そんな有名人にぼくらが話しかけられるはずないよ。オリンピックもカナダだったし。本人は、ルーマニアだし」


「ヒロシならなんとかできたんじゃない? 可愛いかったんでしょ?」


「だって、その頃のヒロシは、ただの恥ずかしがり屋だよ。そのコマネチが小さくて、あんまり可愛いもんだから世の中では


『白い妖精』


って呼んでたんだ。そんで、思うんだけど、梨美菜、コマネチに似てるよ〜ん。本人のことも見たことないんだから自分が似てるってことに気づかないよね。ぼくは、つい最近気づいたんや。似てるわ。キリッとした目と眉、すっと通った鼻筋。ぼくらを包み込むような笑顔。瞼の下から発せられるフェロモン。似てるわ〜」


「いやだ。そんな目で見ないで、ヒロシどうしたの?」


「ハイレグの白い体操着とか着てみない?


『コマネチ2世日本にいた』って、拡散するからさ」


「嫌だよ。そんな恥ずかしい。コスプレみたいなこと絶対いや。ほんと今日、ヒロシ変、どうしたの?」



「ほら見て。白くて、小さくて細くて可愛くて、妖精みたいでしょ? 梨美菜も細いし、小さいし、絶対似てるって。羽付けてあげようか?」



「いやだ。保育園のお遊戯会じゃないんだから。ヒロシのバカ。確かに可愛いのは可愛いけど」


ぼくは、スマホのコマネチのオリンピックの頃の画像を見せた。



「ごめん、ごめん。つい暴走しちゃったね。

実は、梨美菜にも樹菜にも羽がついてるのぼくには見えてるんだ。ママにも保育園生の頃付いてたし、今も付いてる。きっと純粋のまま、ママだけにお母さんになったんだね。コマネチには、羽生えてるかな? ぼくと同年代だ。いつまでもぼくらの妖精であってほしいね。梨美菜、樹菜、ママもね」


「コマネチかぁ、今度ジージやバーバたちに訊いてみよう」





終わり

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ヒロシの妖精 岩田へいきち @iwatahei

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