【KAC20255】トリの降臨
花沫雪月🌸❄🌒
トリの降臨
今、もし、いらっしゃるのであれば。
これを聞いているまだ私ではないあなたに、願いについてお話しようと思います。
かつて世の中には願いが溢れかえっていました。
人の数だけ、願いがありました。
ほんの些細な、明日の晴天を願うような願いから誰かに知られることが憚られるような欲望まで。
ありとあらゆる願いが溢れていました。
ここで1つ、はっきりさせておかなければならないことがあります。
それは……神はいる、ということです。
神とは願いを叶えてくれる存在です。
神とは力です。
そして神は唯一です。
神は平等でそれ故に、神は数多の願いある此の世において、何事も為し得ないのです。
――私の願いは……些細な願いです。
愛して欲しかった、ただそれだけなんです。
私の両親は、私を愛してくれませんでした。
ずっとずっと酷く邪険に扱われ続けました。
私が、私のせいで、私がいなければ。
そんな罵詈を投げつけられ続けました。
なぜ、そんな目に合わなければならないのでしょうか?
私が醜かったからでしょうか?
可愛くなかったからでしょうか?
誰の子供かわからなかったからでしょうか?
そんな疑問は
醜く、足が悪く、その癖頭だけは奇妙なほどにいい子供は妖精に入れ換えられた妖精の子供。
驚くほどに私と符号しました。
きっと私は妖精に入れ換えられたのでしょう。
“妖精に入れ換えられた子供を取り返すには虐待すればいい”んだそうです。
だから両親は私を酷く酷く扱ったのでしょう。
やがて私は父方の祖母に引き取られました。
理由はよくわかりませんでした。
わからないことにしました。
祖母は私を引き取って直ぐに何処か、祖母の地元の神社に私を連れていきました。
そこで私は“卑名奉”という祭事をさせられました。
卑しい名前を捨てて新しい名前を貰う儀式です。
当時はわかりませんでしたが、それは“縁切り”の儀式でした。
不思議なことに祖母の名字は父のと……つまり私のとも違っていました。
もしかしたら祖母も元の名を捨てていたのかもしれません。
祖母の名字と新しい名前を戴いて、その日から私は唐木ヒナコとなりました。
祖母は私を引き取って直ぐに亡くなりました。
祖母が私をどう思っていたのか……それはよくわかりません。
ほとんど会話はありませんでしたから。
ただ……ただ、寝床には毎日フカフカに柔らかな羽毛布団が敷かれていました。
晴れた日はよく干されて暖かいお布団に飛び込むのが好きでした。
愛されるというのは、こうやって柔らかく受け止めて貰えることなのだろうか?
そんなことを私はその羽毛布団に感じていました。
愛されるとは、何か。
考えない日はありませんでした。
きっと私は愛にあこがれを抱いていたのでしょう。
話は少し変わります。
私の仕事についてお話しておきましょう。
とはいえ詳しく話すには長くなりそうなので一言で言ってしまいますが、ザックリと“オカルト対策機関”……ということになるでしょう。
自身を取り替え子だと思っていた私は、いつしかオカルトに傾倒していました。
あるいは本当の、人ではない両親がいるのかも?
そんなことすら考えて、どんどんオカルトに詳しくなりました。
そうしていつしか“本物”が存在していることを知り、それに対策している人達がいることも知りました。
神の存在も機関で知り得たことです。
“機関”に所属した私は、呪いについてのエキスパートになりました。
仕事は主に呪いの使われた事件への対処でした。
魔が差した……のだと思います。
ある宗教法人が呪い紛いの方法で信者を増やしていると掴んだ私は調査に向かいました。
その宗教法人の実態は薬物やら催眠やらによる洗脳……まぁその延長線上にあるのが呪いではあるわけですが。
とにかく被害者の方々は、私にとって都合がいい状態でした。
かつて私が受けた儀式、“卑名奉”から着想を得た呪い。
元の名を奪い、私の名を与える儀式。
私によって、相手の人格を塗りつぶす呪法。
それにより私はその宗教法人を乗っ取りました。
少しずつ力をつけ、私を増やし、機関の支配にまで漕ぎ着けました。
私の……私の目的は……愛を知ること。
愛の無い生なんて、1人でダンスをするような虚しい空転のようなモノ。
私はただ、手をとって一緒に踊って欲しかっただけなんです。
それだけの、たったそれだけの些細な願いの為にこんな非道をする私はやはり人ではないのでしょう。
そうしてでも愛を求める私は人でなしですらもないのでしょう。
だから私は頼れるのはもう神しか居ませんでした。
神は願いを叶えてくれる。
神は力。
神は唯一。
故に神は何事も為し得ない。
神は……天は……全てを見通すが故に無力でした。
ですが、今この時、この天の下、最早願いは私のモノ唯一つ。
天下無双の願いに寄り、神はついにその本懐を為し得るのです。
私の神は、私の神様はあの時私を温かく包んでくれた羽毛布団のように優しい神様です。
一つ言い忘れていましたが、私の呪い“雛抹”はこの事実を知ることで伝播します。
最早、繰り返す九度の悪夢も、忌々しい枕の呪いも、ありとあらゆる呪いすら必要ないのです。
ご清聴ありがとうございました。
まもなくトリの降臨です。
【KAC20255】トリの降臨 花沫雪月🌸❄🌒 @Yutuki4324
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