俺はそのダンスを踊りたくないっ!

無雲律人

俺はそのダンスを踊りたくないっ!

 ──ピピッピピッピピッ


 午前九時、目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴る。


「んぅ~、嫌だ。布団から出たくない……」


 今は四月。春眠暁を覚えずとは良く言ったもので、俺もご多分に漏れず起きれない勢の中に含められている。


「こらぁぁぁ! 起きろ勇也ゆうや!」


 強制的にバサッと布団を引っぺがしてくるのは同棲中の彼女、亜理紗ありさだ。


「これが天下無双の作家様柳橋勇也の真の姿とは情けない……! シャキッと起きて仕事しろぉぉぉ!」

「……そうさ、俺はデビュー作『トリの降臨』で天下無双した作家様だよ。だがな、そんな俺でも勝てないものがある。それはな、布団の誘惑だ」


 そう言って俺は二度寝をしようと試みるが、亜理紗の更なる怒号で完璧に起こされてしまった。


***


 遅めの朝食として、トーストに淹れ立てのコーヒー。カリカリベーコンに目玉焼き、サラダという完璧すぎるメニューを摂取して、今日の予定を確認する。


「今日は『トリの降臨』の三百万部記念パーティーよ。『トリの降臨ダンス』は覚えた? 振り付けは完璧よね?」


 トリの降臨ダンス……。あぁ、憂鬱だ。あれを千人いる参加者の前で踊るのか。


 そもそも、だ。『トリの降臨』は近未来に降り立った恐怖のクリーチャー『トリ』と、それと対峙する人類の物語である。そのトリが、妙なダンスを踊って人類を翻弄するという設定があるのだが、編集部の悪乗りで俺がそのダンスを聴衆の前で披露する事になってしまったのだ。


「あぁ……誰だ、恐怖のクリーチャーに妙なダンスをさせた奴は……」

「あんたよ勇也。あんた以外に誰がいるのよ。映画化した時もノリノリで振り付けに携わってたじゃない?」

「あの時の俺を締め上げたい……」

「嫌がっても踊るしかないのよ。天下無双の作家様があんな奇妙な……プッ……ダンスを……くくくっ……更なる高みを目指して……ぐふっ……」

「もういい……」


 亜理紗のバカ笑いを背に、俺はシャワーを浴びに席を外す。本当に、誰が好き好んであんな妙なダンスを……。


***


 パーティーで披露した俺の『トリの降臨ダンス』は、その後チューチューブにアップされて恐ろしい勢いで拡散され、バズった。


 そのおかげで『トリの降臨』の売り上げは七百万部を超え、俺は伝説の天下無双作家として名を轟かす事になるのだが、あのダンスは俺にとっては黒歴史そのものでしかない……。


 その後『続・トリの降臨』も売り上げ部数六百万部を超え、俺は『トリの降臨ダンスⅡ』でさらにバズり、芸能界からも熱い視線を送られる事になるのだが、それはまたのお話で──。



────了

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