龍人の番 KAC20254

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 青い空からドラゴンの飛影が近付いてくる。

 夢の中の俺は喜びながら影が降りてくるのを待つ。だけど突然後頭部に激しい衝撃を感じ、視界は暗転。何かが悲しそうに咆哮を上げるのを今すぐ抱き締めてあげたいと願いながらも意識は遠のいていき――。


 再び瞼を開くと、ボロアパートの天井と伸ばされた俺の両腕が視界に広がっている。

 俺はあの空でない事実にひとり嗚咽を漏らした。だけど不思議なもので、ひと通り泣くとその内どうして泣いていたかも分からなくなる。

 冷たい水で顔を洗えば、夢の余韻なんて消え去っていた。残されたのは純粋な疑問だけだ。

 ここ最近、この夢ばかりを見る。ドラゴンが出てくるようなアニメを見た記憶はないし、そもそも俺はファンタジーをくだらないと考えている人間なのに。


 ――だって、それじゃまるで俺が現実逃避したがってるみたいじゃないか。


 俺は親兄弟を一度の事故で失った。親友だと思っていた奴は、多くはない遺産を奪い海外逃亡した。未だに捕まっていない。

 俺は仕方なく大学を中退。借家を転々とするも金ばかりかかり切羽詰まり、出会い系でウリをすることになった。

 相手は男、しかもおっさんだ。俺は今日ケツの純潔をおっさんに散らされる。怖いし悔しいし嫌で堪らないけど、もう他に思いつかなかった。

 俺は待ち合わせ場所に向かうと、息の臭い脂ぎったおっさんに焼肉を奢ってもらい――。


「や……その……やっぱりごめんなさい!」


 ラブホテル前で恐怖で身が竦み、おっさんから逃げようと最後の悪足掻きをしていた。


「散々食っといてふざけんなコラ!」


 豹変したおっさんに髪の毛を掴まれ痛さのあまり「……やだ、助けて!」と叫んだ次の瞬間。

 ゴオッ! と激しい風におっさんが吹き飛ばされて「グエッ!」と唸る。直後、逞しい腕の中に包まれていた。

 顔を上げると、黄色の虹彩に縦長の瞳孔を持つ美しい男が俺を見下ろしている。

 男は鋭い牙を覗かせながら笑った。


「ようやくお前を助けられた。愛しい私の番よ」


 次の瞬間、俺はこの人が尊き龍人なことを思い出す。

 くしゃりと泣き笑いを浮かべると、転生してでも会いたいと願った魂の番に両腕を伸ばしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍人の番 KAC20254 ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中 @M_I_D_O_R_I

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ