ナイン・ドリームス・オーバードライブ

幼縁会

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 五人バヤCと同じ舞台に立つ夢は、何度も見た。

 時に肩を並べ。

 時に対バンとして。

 時には病欠で抜けた穴を倦める形で共演を果たし。

 不遜にも彼らの穴埋めを務めた記憶さえもある。

 そして、九度見た全ての夢で少年は



「──!」


 魂を張り上げて少年は、Reフライング・フェアリィは持ち曲を歌い上げる。

 時に高らかに、時に沈鬱に。

 過剰なまでの抑揚は普段通りのパフォーマンスというよりも、会場の空気が結実させた奇跡の産物。仮に同じ調子でもう一度歌えと言われても再現不可能な、神の気紛れ。

 惜しくらむは、なおも前座には及ばないこと。

 最前列に座る少女は両手に持つ団扇を振って、懸命に応援を投げかけてくれる。

 が、皆が皆、彼の演奏に酔い痴れてはいない。


「ッ──!」


 まだ、足りないのか。

 まだ、届かないのか。

 九つの夢を束ね、現実を駆けてなおもたどり着かないのか。

 遥か頂に待つ至高には、同じ舞台に立ち得る現在に於いても到達していないのか。


「──!」


 そんなものは、今この瞬間に至るまでの全てが不足の一言で切り捨てられるようなことは。


「あって堪るかァッ!」

「えッ」


 思わず漏れた魂の叫びを、マイクは正確に拾い上げてステージ備えつけのアンプリファイアーから出力させる。

 間奏の間とはいえ流れをぶった切る歌詞カードにも記載されていない生の言葉に、観客も視線を上げて舞台へと意識を注いだ。

 人々の視線は集まった。

 なれば、次は一過性ではなく継続的に釘付けにするのみ。


「はぁ──!」


 大きく息を吸い、シャウト。

 音階を整えて置きにいくのではなく、肺の中を空にする勢いで魂を注ぎ心を掴みにかかった。

 拙い技術ではなく、未熟ながらも磨き上げた心で歌う。

 罅割れんばかりに握り締めたマイクと、ただ声を出すために鍛えた肉体で。


「──!!!」


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 五人バヤCと同じ舞台に立つ夢は、何度も見た。

 時に肩を並べ。

 時に対バンとして。

 時には病欠で抜けた穴を倦める形で共演を果たし。

 不遜にも彼らの穴埋めを務めた記憶さえもある。

 そして、九度見た全ての夢を少年は今超えていく。


「あ、アレ見て!」


 果たして指を差したのは誰だったか。

 ただ一つ言えることは、会場の中心部に位置する卵の頂上。普段は上空一〇〇〇メートル上空で旋回するヘリコプターがカメラを注ぐ部位に。

 微かな亀裂が走った。

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