13段目

虫十無

1段目から

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。何かで読んだことのある話。それこそ何度も、いろんな人が書いているような話。そんな話を夢に見るとは思わなかった。まあその話からは少し変形したものだったわけだけれど。

 周りは真っ暗というわけではない。ただ全体的にぼんやりと灰色の印象で、目の前の階段以外のものはよく見えない。少し上を向いて階段を見るとすぐに終わっていることがわかる。それでも一目で段数がわかるわけではなく、一段登って目が覚めた。夢だったと気づいて、そこでもしかして13段なんじゃないかと思った。13段の階段を登っていくような話はどこかで読んだことがある。その後は首を吊るんだったか火刑に処されるんだったか、火刑は別の話か。そういえば首吊り縄があるけれど突き落とされるなんて話もあった気がする。

 毎日階段を登って行った。1段ずつ登って行った。1段登ると目が覚めた。登りたくないと思っても、しばらくすると足が動いた。9段目に来た日、急に怖くなった。それまではずっとあと少しだなと無感動に思っているだけだった。半分を過ぎたころから残りが何段かを数えていた。あと4段、首吊り縄はまだ用意されていないようだったけれど、一番上の段が広くなっていて中心に開きそうな溝があることは見えるようになっていた。確かに、ここで私は死ぬのだと思ってしまった。それが急に怖くなった。

 その日から毎日同じ夢を見ている。私は8段目にいて、9段目に踏み出し、登る。両足をそろえて最上段を見て目が覚める。おかしいことはすぐにわかった。何回も見れば今いるのが何段目かくらいわかる。毎日8段目に戻っていて、毎日9段目に登らされた。その夢をもう9回も見ている。普通は13段を毎日1段ずつ登って、じわじわと恐怖させるものじゃないのか。ホラーの定番はそうだろうと思ったけれど、現実の私が体験している夢はそうはならないらしい。ホラーの定番から外れたことで私はどう反応すればいいかわからなくなった。9段目に初めてたどり着いた日の恐怖は覚えている。けれど毎日毎日9段目にたどり着く場面を見せられるともう同じ恐怖にはならない。この場面がこれより先に動き出すときが来るかもしれない、それがいつかはわからない、という恐怖はあるけれど形が違う。どうしてこの場面の夢だけを9回も見なければいけないのだろう。ああ、どうせなら一気に終わらせてくれればいいのに。

 次の夢は違った。身体ごとくるりと後ろを振り返る。階段は遠くまで続いている。周りがどうなっているかは全く見えない。1段降りる。まだ目は覚めない。もう1段降りる。目が覚める様子はない。そこまでわかったらここに留まる理由はなかった。踏み外さない程度にできるだけ速く、階段を降りていく。とんとんと降りていく。遠くは見えない。もうとっくに最初の日の段は通り過ぎてしまった。周りがどうなっているのかはわからない。薄暗い、それなのに階段だけははっきり見える。急いで降りていく。不安になる。いつも通りならこんなに動く頃には目が覚めている。不安になる。確かに降りている感覚はあるけれど景色が変わらない。不安になる。首だけで振り返る。本当に降りていることを確かめたかった。目の前に縄がある。輪になった縄が頭のすぐ後ろにあった。まだ首にかかっているわけではない。前に向き直り、逃げる。縄から逃げようと急いで階段を降りていく。たったと降りていく。ひやり、と首に何かが当たる。振り返る。縄がある。視界の端に縄がある。首に縄がかかっている。首にかかるならその過程で縄が見えていないとおかしいのに。死にたくない。身体ごと登る方向に向き直る。そこに階段はないと気づくのと同時に足の下が開いた。

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