自分とは何か。意識とは何か。そういう「当たり前」なことを揺さぶってくる物語です。
主人公は「ある小説」を読んでいる。その中では「人を殺す夢」を何度も見ているという人物が出てくるとされる。
そして本作の主人公もまた、「雷に打たれて死ぬ夢」を何度も見ているという。
小説の内容について、主人公は「よくわからない」という印象を持つ。作者は一体何を言いたいのだろうか、と。
そうして物語が進む中で、主人公は自分の認識にはどこか違和感があると気づく。
同時に、ずっと頭の中で自分に語りかけてくる「誰か」がいることも理解する。
本作では「現実とは何か」というテーマが掘り下げられて行きます。
ある哲学者が唱えたという「有名の思考実験」の話が取り上げられ、「自己」とは何か。「生きている状態」とはどういうものか。そういう問いが読まれることに。
読んでいてどことなく、小林泰三の「肉食屋敷」や「酔歩する男」などを思い出させられるところもありました(テーマは完全一致しませんが)。
読んでいる内に、自分が当たり前だと思っている「世界の認識」がどんどん揺らいでいき、実は現実と思っている世界なんてあやふやなものなのではないか。自分、という存在は絶対的なものではないのではないか。そんな足元の覚束なくなる感じが出てきます。
この作品に表紙をつけるとしたら、ルネ・マグリットの絵画「複製禁止」という作品がぴったりなのじゃないか。そんな風な感想も抱きました。