あのゆ〇を……

〇び

　あの夢を見たのは、これで９回目だった。

　最初は左の小指、鈍い痛みがしたと思い飛び起きたら、第二関節から上が「噛み千切られていた」。

　次は右手の薬指。熱さを感じ見ると多分に刃物の様なものでズタズタにされていた。

　次は左の中指、右の小指、右の親指……あの夢を見る毎に、いや全部違う指を、全部違う方法でだから違う夢だな……兎に角毎日1本づつ指は無くなっていった。

　無論起きる所迄夢の中の話で、現実で朝起きると全部の指はある……だが流石に気持ち悪くなり6日目にカウンセラーに相談した。其の様な症例は聞いた事が無く、何かを暗示しているという事しか想像付かないとの事だ。

　次の予約は一週間後……おいおい、其れ迄に指が無くなっちまうだろうがっ！

　6日日の晩は左の人差し指だった。

　……

　7日目から必然、眠る事に恐怖を感じる様になった……珈琲をがぶ飲みし、アイツに眠りそうになったら起こしてくれ、と頼んだ……だが毎回頼む事も出来ず、身体の限界も来る……7日目は右の中指だった。

　8日目、左の親指。9日目、右の人差し指……

　遂に手の先は左の薬指……アイツとの結婚指輪を嵌めた指だけが残された……

　この指迄失ったら、何故かアイツと付き合っていた頃からの甘い思い出迄、全て……噛み千切られ、切り刻まれ、焼かれ、潰され、引き千切られ……全て失ってしまうっ!!

　ナイフを持ち、其れを抱く様に睡眠に入った……一体誰が指を狙ってるのか知らないが、やってやる……やられる前にヤッてやる……どこからでも、来やがれっつ！！

　……だが、其の日は……其の夢を見なかった……。少し拍子抜けしながら、でも油断が禁物だと気合を入れ直した……久し振りにぐっすり眠れたが、油断を誘う為に敢えて、かもしれない……上等だっ、是からも決して油断しない……一体だれがやったか知らないが、今度はお前の指を逆に……噛み千切り、切り刻み、焼き、潰し……ひっ、ひひひひひっ……。

　……

「……話は聞いて来ましたが酷い現場ですね」

「嗚呼、パートナーを寝取られたのには同情するが、この現場には狂気すら感じるよ……元パートナーとガイシャは全ての指を、全て違う方法で破損させられたうえナイフで滅多挿しだ……余程強い恨みがあったんだろうな」

「ですが腑に落ちないのは、何故自殺した加害者は、自身の指迄ガイシャと同じ様に破損させたんですかね……残っていたのは、結婚指輪を嵌めていた左の薬指だけだったとか……」