虚構の境界線
@mojajaja
0話 :「現代史 2020年代~2040年代編」(文部科学省検定済)
― この教科書は、2042年現在の世界情勢とその歴史的経緯を理解するための教材です。
これから学ぶことは、単なる過去の出来事ではなく、今なお続く『現在』の延長線上にあるものです。
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「これから『現代史』の授業を始めます。混沌としている世界の歴史を学んでいきましょう。」
「まずは、教科書15ページのあらすじを読んでいきます。」
涼しい教室の中、教師が淡々と授業を進めている。
窓の外には青空が広がっている。
「令和の始まりから2040年代にかけて世界各地で内戦・紛争が頻発しました。」
「特に2030年に勃発した米国内戦、2032年の中国内戦は世界秩序を根底から揺さぶり、日本を含む多くの国々が大きな混乱に巻き込まれました。」
教師は板書をしながら話を続ける。
「世界の中心はアジア太平洋に移りましたが、それと同時に各地で内戦や紛争が頻発し、国際秩序は大きく変化しました。」
「次に、主要国の状況を確認しましょう。」
教師は黒板に「主要国の状況」と書き、箇条書きをする。
- アメリカ:内戦の影響で一時的に弱体化したが、依然として世界の覇権国家として影響力を維持。
- 中国:4つの軍閥が割拠し、「群雄割拠」の状態が続いている。軍閥ごとに独自の経済・軍事政策を推し進めており、ロシアやASEANと結びつく派閥もある。
- ロシア:中国内戦の混乱を利用し、経済・軍事の再建をしている。
- ASEAN統合国家:中国と米国の内戦を受けて危機感を抱き、統合国家として台頭した。
- 韓国:米国内戦に危機感を覚え、日本と事実上の軍事同盟を結んだ。依然として民主主義体制を維持し、相対的に安定した国家。
- 日本:混乱の中で独自の防衛・経済戦略を採用し、国力を維持。しかし、サイバー攻撃やテロの脅威に常に晒されている。
- ・・・・・
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教師は教科書をめくり、再び説明を始める。
「2030年代、日本は深刻な少子高齢化、経済の停滞という課題を抱えていました。」
「しかし、世界各地で相次ぐ内戦と高度化するテロの脅威に対応するため、日本政府は防衛力・警察力を強化し、国家機能の分散を決断しました。」
「従来の東京一極集中型の首都機能は、自然災害や攻撃の標的となるリスクが高く、2030年代には大規模なサイバー攻撃による都市機能のマヒも発生していました。そのため、新たに『首都機能分散法』が制定され、行政・経済・防衛を分散する形へと移行しました。」
教師は黒板に「首都機能分散法」と書き、箇条書きを続ける。
- 新首都:防衛・危機管理の中心として制定。
栃木県北部(那須~大田原地域)に新たな首都を建設。
- 行政機能:国家行政の中枢となる官庁機能を移転。長野県松本市に移転。
- 経済・金融の拠点:東京
- 防災中枢都市:有事の際のバックアップ都市。三重県伊賀市に制定。
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教師は板書を終え、再び説明を始める。
「2030年代にかけて、脳内インターフェース技術は医療分野を中心に急速に発展し、やがて一般化していきました。」
「特にBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)の普及により、人々はデバイスを通じて直接思考をやり取りできるようになりました。」
「しかし、それは同時に『ハッキングの危険性』を生むこととなり、各国政府はサイバー防衛の重要性を再認識することになりました。」
「従来のフェイクニュースや世論操作とは異なり、『認知ハック』とは、"思考プロセスの根本に干渉する攻撃"です。思考の誘導・認識の改変が可能になったことで、他国のスパイやハッカーが、個人や組織の決定を外部から誘導・改変する事例が相次ぎました。」
「この脅威に対抗するため、日本政府は『統合特殊情報戦司令部(JISF)』を創設し、国際的な認知戦争に備えることとなりました。」
教師は静かな声で続ける。
「しかし、日本の未来には未解決の課題が山積しています。」
「情報戦の激化による国内の分断、諸外国の対立と干渉、日本第一主義の台頭……。」
教師は教科書を閉じ、黒板の文字を指し示した。
「これらの問題は、今もなお続いています」
「次の章では、日本が直面する具体的な脅威とそれにどう対処しているのかを詳しく学びます」
「次ページを開いてください――。」
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授業終了後、教室の中では生徒たちが会話している
「いや、前にも東京で有名な企業幹部が認知ハックされたってニュースがあったよな。」
「でもさ、そんなの政府が流してる情報だろ? 本当かどうか分かんなくね?」
「うちの親は、企業の社長が急に別の国家を支持し始めたのは認知ハックのせいだって言ってた。」
「陰謀論って言う人もいるけど、どうなんだろうな。」
その時、一斉にスマートデバイスの通知音が鳴り響く。
『緊急速報:松本市内で認知攻撃による混乱が発生』
「また認知ハック?マジで怖えーな…」
校舎の外では、サイレンを鳴らした大型の警察車両が黒い影のように駆け抜けていった。
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