好奇心は我をも殺す~Paper Drive Odyssey~

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好奇心は我をも殺す~Paper Drive Odyssey~

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

妙な言い回しだけど、そうとしか言いようがなかった。

「あの夢」がまさしく今、自分の前に展開している、忽然と頭に浮かんだわけだ。

問題があるとすれば、8回目までを夢に見ていて、夢をなぞるこの9回目が本当に「夢」なのかが僕にはまだ分からないところか。

夢であるのが分かるのは目覚めた後、思い出せればの話だ。

今回が夢でなければ、そうして8回目と同じ展開ならば、もうじきに僕は命を落とすことになる。


長い運転で少し疲れが出ていたので、どこかで少し車を停めて小休止をしたい。

市街地の中で適当な場所を探した。

コンビニも郊外型のチェーン飲食店もあったけれども、ちょっと落ち着かなそうだ。

大きな建物が見えた、様々なテナントが入っている百貨店だ。

食事や買い物もできそうだし、駐車時間にも余裕ができそう、おまけに車内で仮眠もできそうだ。

「ここにしよう、相棒」僕は車に語りかけて行先を定めた。

百貨店の別棟になっている立体駐車場に入り、螺旋状にゆっくりと階上へと車を進め、徐行しながら入庫できる場所を探してさらに上の階へ。

客が多いようで、どの階もほとんど埋まっている、ゆっくりと上がるととうとう天蓋の無い最上階まで上がった。

「悪くない、いや、良いな」

気分も良くなり青空の下、建物の端のスペースに車を入れようとした。

入庫しようとした一辺には9台分の枠があり、番号が振られていた。

車は既に1番から8番まで停められていて、もう9番しか空いていない。

切り返そうとして思い直し前向き駐車にした。

停めた車の中から高みから見る眺望をゆっくり眺めた。

晴天で遠く霞む山の峰が見える、ちょっとした展望を楽しんだ。


——僕は立体駐車場と対面するビルが気になった。

すると突然、これは初めてじゃないと頭に閃いた。

まったく同じ状況が以前にもあった。

しかしこの土地と百貨店に来たのは初めてなのだ。

似た場所はどこかにあるかもしれない、しかしこの組み合わせは初めてな筈なのだ。

頭に数字が浮かんだ。

「9」。

今、9番に停まっているのが分かるが、そこにかすかな違和感がある。

他の数字には既に車が停まっているからこの番号にしなくちゃならなかった。

でも記憶では「8」に停めた……そこまで考え、それは夢で見たことなのに思い当たった。

「この場所、この眺め、入庫した番号以外は全て夢で見ていたことだ」、そう僕は気がつき、すると連鎖的に次々夢のことを思い出して行った。

前の夢でも、夢だと気がつく場面はみていたのだけど、停車場所の番号の違いに気がついたのも同じだ、しかしそれはその「夢の前の夢」ではやはり番号が一つずれていた。

「7」。

つまり、それぞれの夢で毎回同じ状況が繰り返される中で、番号のみが一つずつ数を数えるようにずれてきたのだ。

果たして「1」に停めていた時にはそれ以前の夢があったようには思えない。

最初は「1」に停めて夢から醒めた後、この百貨店に入り屋上に停車し、眺めを楽しむ。

今、「9」の上にいることはこの状況は9回目なのを物語っている。

夢で未来を見ているとでもいうのか、夢に夢が重なっていく状況は妙だけれども、それでもそれだけでは別段なんとも思えないんだが……。


正面の向かいのビルが気になる。

僕はこの屋上とほぼ同じ高さのその建物を見ていた。

夢の記憶では、「前に夢を見ていたこと」を思い出すまでははっきりした。

「ではこの先の展開はどうなっていたっけ?」

僕はつづきの未来を考えてみる。

前見た夢でも強烈な違和感の中、前を見ている時に前方の建物が気になった。

その理由を考えていたのだ。

そして前にも必死に思い出そうとして、一つ思い出した。

前回見た夢の最後の光景で、向かいのビルの屋上で光が煌めいたことを。

そうして夢が突然途切れているのだ。

僕は唐突に理解した。

夢の終わりは僕自身の唐突な死で終わっているのだ。

どうやら正体不明の狙撃手が、真向かいの屋上からこの運転席の僕を目掛けて弾丸を撃ち込む、それで全て終わってきたのだ。

すると夢で見たビルの上の煌めきは狙撃手のスコープの反射だったのか。


多分、この前の夢でもおそらく気づいてはいたみたい。

しかしどうやら回避できなくてこれまでに8回の狙撃は成功し、僕は射殺されてきた。

目的は分からない。

この場所に停めたのは本当に思いつきであり偶然なんだから、周到な暗殺計画のはずはない。

多分、主義主張なんかない、いくつかの条件を満たした者なら相手は誰でも良い。

誰でもない相手を標的にした、「死の天使」気取りの犯行なのかもしれない。

向こうはもうスコープに自分を入れているのかもれない。

どうしよう。

例えば、この瞬間、シートを後ろに倒してフロントガラスから頭を完全に隠すことも可能だろうか。

できなくはない、このままレバーを引いて背中を後ろに倒したら。


しかし、ふと僕は止まった。

「9」の先はないのだ。

この後はいったいどうなるんだろう。

今回も夢として終わって10回目が開始するのだろうか。

それとも夢の連続は終わっていて、今回は現実のことなんだろうか。

回避するのは簡単なんだけれども、困ったことに、好奇心の方が強くなってきた。

今頃、向かいのビルの屋上には狙撃手がタイミングを待っているのだろうか。

……「死の天使」なんて高級なものじゃないか、どこぞのつまらない野良のトリだ、「死のトリ」。

向かいのビルで一瞬、煌めきが見えた。

「トリの降臨か」僕は小さく呟いた。


ふと頭に思い浮かんで愛車に向かって語りかけた。

「『好奇心は猫をも殺す』って言葉あるけれど、猫には9つもの命があるのに、余計な好奇心を持つ者はそれでも全て費やしてしまうんだろうね」

敢えて真向かいを見ないで、僕は遠く霞んだ山の方を見つめて、待った。

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