第18話 『天空の系譜』との決着をつけます!!

 階段を駆け上り、たどり着いた三階層。城の謁見の間。

 玉座の後ろにある『キャッスル・コア』を壊したギルドが新しい城主になる。

 そのさらに後ろの壁には左右に奥へと続く通路があって、城主ギルドが転送ゲートで保有している砦に移動するとこの奥の部屋に出るらしい。

 

 「城?砦?」

 「誰言うたのかわからしまへんが、みんな『砦』て呼んでるだけで公式的には『城』どすなぁ。まぁ数も多おすし『砦』の方がしっくりくるのやあらしまへんか?」

 

 謁見の間では重厚な鎧を着て大きな盾を構えた『騎士』パートナーを前線に、『騎士』パートナーの前には二層目で熱戦を繰り広げた美鶴、時雄、力也の三人と隼人のパートナー達四人が構えている。

 さらに吹き抜けになっている上階部分にはめいやが『機銃砲』を、舞華がリカーブボウを、アイシスが和弓を『Ritterorden aus Silber』に向け、『アーチャー』パートナーや『ガンナー』パートナーもそれぞれの武器を向けてきている。

 

 「フヒヒ、男爵っつったっけ?またおらと力比べしてくれるだか?」

 「いーやさっき散々やっただろ?速攻でコア割らせてもらうぜ?」

 

 力也の誘いに乗らない男爵さんは代わりにコアの速攻破壊宣言をする。

 

 「そんなこと、めいがさせないんだからねっ!みーんなふっとばしちゃうんだから!!」

 

 上階からめいやが応えるけど、手すりから顔を出すのに踏み台を使ってるあたり、なんかこう……かわいい。

 

 「まぁ口上合戦はこの辺でいいでしょう……さぁはじめようか。」

 

 後方、玉座の横に立つ隼人の宣言で『天空の系譜』との最後のバトルの火蓋が切って下ろされた。

 

 「速攻行くわ!石田君、前線の『騎士』を剥がしちゃって!!」

 「りょーかい!行くぞお前ら!!」

 

 ショウさんの指示を受けて石田君が『盗賊シーフ』パートナー達と共に敵陣に向かう。

 

 「おーっと、そうはいかねぇぞぉ。」

 「へへっ、お前みたいなデカブツの攻撃なんかに当たるかよ!!」

 

 巨漢の力也が巨大な金棒を振り回し石田君達の行く手を阻もうとしてくるけど、石田君達はトップスピードのまま力也の攻撃をかわし、横をすり抜けていく。

 

 「あいつに飛び込まれると厄介ね……あたしが止めるわ!!」

 「おう!俺も行くぜ!!」

 

 力也をかわした石田君に美鶴と時雄がついた。

 時雄は走者をタッチするかの如く手を伸ばし、美鶴は石田君の足元を狙ってのスライディングタックルを敢行!!

 

 あーーーーーーっと!!

 

 石田君!時雄のタッチをかいくぐり、美鶴のスライディングタックルはジャンプ一番これをかわした!!

 

 「なにィ!!」

 「うそっ!あたしまで抜かれるなんて!!」

 

 さらに石田君を上階からの矢が襲い掛かる!

 舞華とアイシスによる連続速射!石田君の走る足と床に突き刺さる矢の間隔はどんどん短くなっていく!!

 

 「くっ!このっ!当たって!!」

 「もう少しで自陣に入ってしまいます!舞華さん、あの人を止めましょう!!」

 

 石田君はもう『天空の系譜』の前線目前!舞華とアイシスに焦りの色が見える!!

 おーーーっと!次々と降り注ぐ矢に追われ、一切スピードを緩められない石田君にアイシスを除く隼人のパートナー達が立ちふさがった!!

 

 「オルティナ!プレミオ!クー!ヤツを止めろ!」

 「フェニックス!スサノオ!ガグツチ!ダブルドラゴン!石田のフォローを頼むぞ!!」

 

 隼人のパートナー達に男爵さんのパートナー達がマークにつく!

 カグツチがオルティアに、ダブルドラゴン姉妹はプレミオとクーに、フェニックスとスサノオは再び石田君を追ってきた時雄と力也を徹底マーク、そのまま武器を手にそれぞれの場所で戦闘が始まった!!

 

 「もうふっとんじゃえーーーーーーーーー!!」

 「おい!めいや!!そこで撃つな!!」

 

 隼人がめいやを制止するももう遅い!すでにめいやの『機銃砲』からは砲弾が撃ち下ろされた後!!

 石田君!砲弾の発射音に気づきギアを一段上げたかのように加速!砲弾は石田君の少し後方に着弾、爆発し石田君は顔をかばうように腕をクロスさせて相手『騎士』パートナーの前線に飛び込んだーーーーーーー!!

 

 「ゴォォォォォォォォォル!!」

 「イズミはん、何言うてますの?どっちか言うたら『トライ』の方やおへん?」

 「あはは、いやまぁ何となく。」

 

 うん、ホントに何となく美鶴のスライディングタックルを見てからサッカーな感覚になっちゃったのでついつい。

 でも石田君六人抜きだよ六人抜き、上の舞華とアイシスにめいやまで含めたら九人も引き付けちゃうとか。

 

 ……と、気を取り直して。

 石田君が敵陣にトライを決めてから瞬く間に『騎士』達の鎧や盾が音を立てて床に崩れ落ちていく。

 こうなっちゃったらもう『騎士』は壁として役に立たなくなるから、相手も必死に石田君を止めようとしてたのも納得だよ。

 

 「『アーチャー』と『ガンナー』は装備が剥がれた『騎士』を狙って!ラウラは火炎瓶投擲!石田君なら大丈夫よ。」

 「りょーっかい!パラちゃん場所教えてね。」

 「……把握した。」

 

 何を根拠に石田君なら大丈夫なのかわからないけど、上階と射ち合いをしていた『アーチャー』と『ガンナー』がショウさんの指示で一転して丸裸となった『騎士』を狙って次々と倒していき、ラウラさんも『パラケルスス』のパラちゃんから耳打ちされる度に火炎瓶を一つ、また一つと敵陣に投げ込んでいき二階層の時のように炎が燃え盛る。

 

 「めいや!消火弾!!」

 「うんわかったお兄ちゃん!!」

 

 めいやが『機銃砲』の砲弾を入れ替え炎によってできた自陣の空白地帯に向けて砲撃を撃ち下ろし、放たれた砲弾は爆発することはなく着弾した炎の中心部で破裂してモウモウと消火剤が振り撒かれ炎はその勢いを弱めていく。

 

 「敵はんもちゃんと対策してはったんどすなぁ。こら、二層目のようにはいきまへんわ。」

 「上からの攻撃が厄介ですよね……」

 

 二層目だと上からの遠距離攻撃と相対していた最初の攻防と、それ突破した後は弓とか銃が使いづらい通路で近接戦闘での戦い。

 三層目はその両方をいっぺんに相手しないといけないし、上に昇る階段もないから男爵さんのパートナーで駆け上がることもできないし……

 『Ritterorden aus Silber』の『アーチャー』や『ガンナー』も上階に弓や銃を向けて応戦してるけど、上に向かって撃つより下に向かって撃ち下ろす方が有利だしで結構厳しい。

 

 「ヒロ爺、これやっちゃって。アタシの肩じゃ届かないしー。」

 「ん?ああなるほどなぁ。」

 

 めいやの消火弾砲撃で無力化されたラウラさんがパラちゃんからのアドバイスで火炎瓶を男爵さんに手渡すと、男爵さんは上階のめいやに向けて火炎瓶を投げつける。

 男爵さんが投げた火炎瓶はめいやの頭上を通り過ぎて上階の壁に当たって砕け、壁と床に油をまき散らして引火、次々と投げられる火炎瓶で上階に火の手が回っていく。

 

 「きゃああああああ!!」

 「めいや!!」

 「めいちゃん!!」

 

 炎に巻かれて悲鳴をあげるめいやと、めいやの身を案じて名前を呼ぶ兄隼人と美鶴。

 

 「こんのぉぉぉぉぉぉ!許さない!許さないからっ!!」

 

 めいやが火に巻かれたことで美鶴の怒りが頂点に達し、男爵さんとの距離を一気に詰める。

 男爵さんも構えて大槌を振るうが、さっきの力也の攻撃を石田君が余裕でかわしたように基本大振りな男爵さんの大槌は美鶴には当たらない。

 体勢を低くしながら大槌をかわし、男爵さんの懐に飛び込んだ勢いそのまま低い姿勢から思いっきり床を踏み込んでみぞおちめがけて右拳を打ち込むと、力也のみぞおちパンチにも笑みを浮かべていた男爵さんが苦悶の表情を浮かべる。

 

 ……え?なんで?

 

 「発勁どすなぁ。」

 「それってあの発勁?なんか相手の内部にダメージを与えるとかの。」

 

 対象の防御力が高ければ高いほど威力が出るとかそんなタイプのあれなのかな?

 

 「発勁……八極拳言うのんは相手の懐に飛び込んで最大威力の体当たりをぶつけるのが基本どす。飛び込んできたスピード、踏み込みの強さ、美鶴はん自身の体重、それら全部を拳に乗せて至近距離から男爵はんの腹を突くようにぶち当てたんどす。」

 

 美鶴はそんなに体重重くはなさそうだけど、それでも体重乗せて勢いつけて一点に集中して体当たりされたらかなり痛いかも。

 

 「小柄な体やとパワーがのうて不利や言われますけど、『グラデュエイター』を『マニュアルモード』でこなして、八極拳まで取り入れはる美鶴はんやと、そらもう、こないにも強うならはるんどすなぁ。」

 

 弥生さんが美鶴に感心してる間にも美鶴は男爵さんの大槌をかわしての足元を狙った水面蹴りを叩き込み、これも男爵さんに効いたみたいでがっくりと膝を落とし姿勢が下がったところを狙ってみぞおちに下から掌底の発勁で突き上げ、前に出た顎めがけてサマーソルトキックを見舞う。

 小さい体から繰り出されるこの強烈なコンビネーションで後ろに吹っ飛ぶ男爵さん。

 ……一体どこにそんなパワーがあるんだろ。

 

 「めいちゃんのカタキよ。」

 

 なんとか膝をつきながらも起き上がって拳で口元を拭う男爵さんに向かって美鶴が飛び上がり、右足で縦長の楕円を描くように振り上げて楕円の軌道のまま男爵さんの脳天めがけて容赦なくかかとを振り下ろそうとした時、横から飛び込んできた青い影と交差した瞬間美鶴の姿が消えた。

 

 「姫君の身柄は俺が頂くぜ。」

 「んなっ!?」

 

 飛び上がった美鶴を抱きかかえるように『攫った』石田君はすぐに美鶴を『お姫様抱っこ』の態勢に持ち替えて華麗に着地。

 突然視界が変わって意味も解らずキョトンとしてた美鶴も、しばらくして何が起こったのか今どういう状態なのか理解したのか握った両手を口に当てて顔を赤らめ、かっこよく決めたつもりの石田君はだんだんと腕も足もぷるぷる震わせて顔もなんだかすっごく強張ってどんどん真っ赤に染まっていく。

 

 えーーーーーーーーーっと。

 男爵さんと美鶴の戦い、石田君に美鶴が攫われてドロー……こんな結末ってアリですか?

 あまりの出来事にみんな戦いの手を止めて石田君と美鶴の方に顔を向けちゃってるし。

 

 「いいいいいいいいい石田君よっ、よくやったわ!!男爵も大丈夫?立てる?」

 「な、なんとかな……石田、助かったぜ。」

 

 膝を抑えながらふらふらと立ち上がる男爵さん……あまり大丈夫じゃなさそう。

 

 「いっつつつ……攻城戦仕様で大分カットされてんのにこの痛みかよ……あんな小さい娘が出す威力じゃねぇぞこれは。」

 「男爵!上!!」

 

 ショウさんの叫びに「なにっ!?」と声を出しながら反応して上を見上げると、消火し終わった上階の手すりから弓を構える二人と『機銃砲』で狙いを定めるめいやの姿。

 

 「もぉぉぉぉぉ怒ったんだからっ!やっちゃうからねっ!!」

 「わたしもです!覚悟してください!!」

 「反撃開始します。」

 

 めいやと舞華にアイシスが、『機銃砲』とリカーブボウに和弓を男爵さん向けて放つ。

 

 「男爵殿!!」

 

 舞華とアイシスの強力な矢が金属音を立て、めいやの砲弾が着弾し爆発したあとにはボロボロになった盾を構えるファイムルさんと四人の『騎士』パートナー達。

 盾はボロボロになったけど、何事もなかったかのように男爵さんに向けて親指を立てるファイムルさん。

 

 「私共の盾はこの程度では砕けはしません。しかしもう二度目はないでしょう。男爵殿、いけますかな?」

 「石田にファイムル、二人にも助けられちゃ二人に報いなきゃなんねぇだろうよ!!」

 

 石田君の活躍とファイムルさんの献身に奮起した男爵さんが立ち上がり奥の『キャッスル・コア』に向けて走り出す。

 

 「男爵!もういいわ一気に割って!!」

 「フェニックス!スサノオ!カグツチ!ダブルドラゴン!そのままそいつらを抑えておいてくれ!!」

 

 フェニックスが時雄を、スサノオが力也を、カグツチとダブルドラゴン姉妹は二層目に引き続いてオルティア、プレミオ、クーを、男爵さんを止めようとするそれぞれをそれぞれが抑え込む。

 ラウラさんは『剣士』パートナーの周辺に火炎瓶を投擲し、石田君の『盗賊シーフ』パートナー達が『剣士』の剣や鎧を剥ぎ取り、石田君は美鶴をお姫様抱っこしたまま手足をぷるぷるさせながら立っている。

 

 「よっしゃもらったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 無力化した『剣士』パートナー達と自身は戦えない隼人を横目に男爵さんは大槌を振るって『キャッスル・コア』に叩きつけ、わりと硬質なコアは男爵さんのパワーと大槌による『叩き』によって一撃で無数のヒビが入り今にも破壊されそうな状態になる。

 

 「これで、終いだぁぁぁぁ!!」

 「えーーーーい!間に合ってーーーーーーーーー!!」

 

 最後の最後、上階のめいやから撃ち出された砲弾が男爵さんを襲う。

 しかし、ヒビの入ったコアに向かって放たれた男爵さんのフロントキックの方が一瞬早く炸裂しコアが粉々に砕け散る。

 と同時にめいやが撃ち出した砲弾が直撃、爆発し戦場にいた『天空の系譜』の人達がふっと消えていなくなった。

 

 「あれ?『天空の系譜』は?」

 「コアが壊されてしもうたら、城主のギルドの人以外は強制的に退去になって、アジトの復帰ポイントに戻るんどすえ。」

 

 少し間を置いて、コアがあった場所に再びコアが現れる。

 と言うことは、今度はあのコアを破壊されないように守る、のかな?

 

 「いってぇなぁ、ったく最後でやられちまったよ。」

 

 キャッスル・コアを砕いた功労者、最後にめいやの砲弾をモロに食らった男爵さんがギルドアジトの復帰ポイントから転送ゲート前ホールに戻って来た。

 

 「男爵さんおつかれさまでしたー。これ、お飲み物どうぞー。」

 「おうクロエちゃん、ありがとな。」

 

 クロエが気を利かせて持って来てくれたグラスを一気に飲み干して床に胡坐をかき、一息つく男爵さん。

 

 「いやぁ参ったぜ。特にあの美鶴って娘の足はどうなってんだ?」

 「足?そんなすごかったの?」

 

 わたしの問いに男爵さんは胡坐をかいたひざを掌でバシンと叩く。

 

 「なんつーのかな、力也ってやつのパンチが『ドムッ』ってのに対して、美鶴の蹴りは『バキッ』って感じなんだよ。こう、鉄の塊でもぶつけられたみてぇな。」

 

 よくわからない説明だけど、鉄の塊が痛いのはわかるよ。

 

 「弥生聞こえる!?石田君が大変なのよ!!」

 「聞こえとりますえ。石田はんがどないしたんどすか?」

 

 その時、弥生さんの『忍』パートナーのシノブが現れて弥生さんに何やら報告を伝えると、弥生さんは首を横に振ってため息一つ。

 

 「ショウはん、やっぱし話はアジトで聞きまひょ。男爵はん、せっかく活躍せやはったのに申し訳おへんけど、この砦は放棄しますえ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2050セカンドライフ、VRMMOで青春をやり直す! @a1_hs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ