第17話 わたしはわたしの仕事で貢献します!!

 背の低い女子中学生か高校生の美鶴には、白いボディスーツの上に赤黒い戦国時代風の甲冑と具足を装備して鞘に納めた刀に右手を添えた、背中には甲冑と同じ色合いの翼を生やした、長い黒髪の女性、フェニックスを。

 

 高校球児風の時雄には、肩までずらした紫の和服の下にさらしを巻いた、なんかヤンキー入ってそうな顔立ちをした、紫色の長いボリュームのあるポニーテールの身長176cmくらいの女性で、黒みがかかった紫の禍々しいオーラが立ち込める太刀を構えたスサノオを。

 

 あとの、153cmくらいの身長で長い髪を頭の左右で小さくループさせた栗色のツインテールで幼い顔立ち、黒の全身インナーの上に、和風な雰囲気のひらひらとした白いアウターを身につけて、炎を纏った槍を構えるカグツチ。

 

 ワインレッドの裏地の腰まである濃紺の首から巻いたマントを広げ、丈の短いスカートの濃紺のチューブトップワンピースの上に銀色のブレストアーマー、銀色のレッグアーマーを着け、一人は大斧を、一人は斬馬刀を構えたダブルドラゴン姉妹。

 

 この三人に、まだ手の内も名前も明かされてない白衣の男性に当たらせた。

 

 「よぉ!待たせたな。」

 「大丈夫だぞぉ、これで心置きなく戦えるわなぁ。」

 

 パートナー達に一通りの指示を出してそれぞれ対峙させた男爵さんと力也りきやって巨漢が一騎討ち。

 二人とも大槌と金棒を構えて対峙していたのに示し合わせたように武器を放って、ガッツリ組み合って力比べから始まっての肉弾戦。

 力也のみぞおちパンチが重い音を立てて男爵さんのお腹に決まったと思ったら、男爵さんもニヤリと口の端を吊り上げながらお返しとばかりに力也にみぞおちパンチを入れる。

 

 「ハッハァ!やるなぁ。」

 「フヒヒ、おめぇもなぁ。」

 

 至近距離で顔を突き合わせて笑い合う二人。

 男爵さんが一瞬身をかがめて自分より背の高い力也の顎に頭突きをヒットさせると、少しよろめきながらも両手を組んで男爵さんの頭上にハンマーパンチを振り下ろす力也。

 力也のハンマーパンチを両腕で受け止め、フロントキックで突き飛ばして少し距離を開けてから飛び掛かるように体重を乗せた重い男爵さんの拳が力也の左頬を捉えては、力也もすぐに態勢を立て直して男爵さんの左頬を力任せに殴りつける。

 

 男爵さんと力也が一進一退の攻防殴り合いを繰り広げている横ではフェニックスとスサノオもまた戦いを繰り広げている。

 

 美鶴はかかとから埃を舞い上がらせ、一瞬でフェニックスとの間合いを詰めるや否や身をかがめて素早く水面蹴りを放ち、なんとか後ろに飛びのいたフェニックスを追うようにジャンプサイドキック、間合いが再び詰まったところで右足を振り上げてからのかかと落とし。

 息もつかせぬ美鶴の足技にフェニックスは何とか刀で受け止めるのが精一杯と言ったところ。

 

 「やるわね、あたしのコンビネーションを受けきるなんて……わくわくしちゃう!!」

 

 一旦距離を置いた美鶴が再び一瞬で距離を詰める。

 フェニックスは居合の構えからタイミングを見計らって刀を一閃。

 しかし刀の軌道は美鶴を捉えられず、ジャンプで飛び越えた美鶴はフェニックスの肩に置いた手を軸に宙返り、フェニックスの背後に着地して肩口から勢いよく背中をぶち当てるように体当たりを敢行。

 体当たりで前によろめいたフェニックスの背中に突進力を利用した肘打を突き立てて吹っ飛ばす。

 

 「あぁ、あの美鶴って娘は相当『SF未来世界』やってますなぁ。『ブレードブーツ』の動きをしっかりと身につけとりますえ。『マニュアルモード』でやり込まな、こうはならへんもんどす。」

 

 弥生さんが言うには『SF未来世界』では武器種毎のモーションやスキルなどの動きを意識するだけで『パワードインナー』が体を動かして発動してくれるんだけど、美鶴はその『自動で動かしてくれる』動作を『パワードインナー』に頼らないで再現できるくらい身につけてるらしい。

 しかも、蹴り技の他にも突進力を利用した肘打ちやフェニックスが攻撃する勢いを利用しての投げとか結構多彩な技も持っていて、どうやら『ナックル』と『ブレードブーツ』って二つの武器種を同時に扱う『グラデュエイター』って言う上位クラスの動きとのこと。

 『マニュアルモード』と言うのはそのモーションとかスキルの通りに体を自動で動かしてくれる機能『オートアクション』をオフにすると言う上級者向けのモードで、決まったモーションやスキルの動作以外もできるようになることから強力な『オリジナルスキル』を編み出す人もいるとかなんとか。

 

 「せやけど『ファンタジー世界』には『ナックル』も『ブレードブーツ』もあらしまへんさかい、美鶴はんもなかなか決め手に欠けるんどすなぁ。」

 

 一方、紫の禍々しいオーラの残滓を宙に描きつつ上段から振るわれるスサノオの太刀を時雄がまさかりをバッティングフォームのように振るって打ち返し、片手に持ち替えて頭上から振り下ろしてくる時雄のまさかりを手首を返し振り上げた太刀で弾き飛ばすスサノオ。

 

 「おっとと、さすがスサノオってとこか、俺のまさかりに力負けしねぇとか。」

 

 まさかりを肩に担いで喋る時雄に対し、これを隙と見たスサノオが距離を詰めて一太刀浴びせ、時雄は慌ててまさかりを構えなおして柄でスサノオの太刀を受け止める。

 

 「おいおい、口上くらいさせてくれっての!!」

 

 両手がふさがった時雄は右足でスサノオを蹴り出して距離を開け、身を乗り出しつつ勢いを乗せてまさかりを振り下ろし、スサノオはこれも太刀で受け止めてから力で振り抜いて弾き飛ばす。

 

 こう見ると、美鶴の技とスピードで翻弄されてるフェニックスも含めて、男爵さんもスサノオも一進一退の攻防を続けてる感じでかなり余裕がない。

 カグツチとダブルドラゴン姉妹は白衣の男性を警戒して動けず、他の『騎士』達や『剣士』達の戦いもやや劣勢で、攻め側の『Ritterorden aus Silber』としては突破して次の三層目行きたいのになかなか行かせてもらえないどころか少しずつ押し返されている状況。

 なんかこう、ショウさんの方にも『剣士』が攻めてきちゃってるくらいだしよろしくない雰囲気だなぁ。

 

 「指揮官殿を守るぞ!!」

 

 ショウさんの傍らにいる黒髪短髪中肉中背で特徴のない地味な顔立ちで、服装はわからないけど『騎士』パートナー達と同じような鎧を着て盾を構え、『騎士』パートナーの軍団と一体化してる地味な男性が四人の『騎士』パートナー達に号令を発する。

 他の人は大体バランスよく『騎士』『剣士』と『アーチャー』か『ガンナー』は入れていて、あとの一枠は自由な感じでパートナユニット構成で組んでる中、この人は完全に守り特化なのか四枠全員『騎士』で固めていた。

 それでも五人横一列ではまだまだ通路を埋めることはできず、地味な男性の指示でよく抑えてはくれているものの時折すり抜けた『剣士』の刃にさらされる指揮官のショウさん。

 しかしショウさんに剣を向けた『剣士』は、そのことごとくが剣を振り上げた瞬間に地に伏せる。

 

 「ありがとうアルフォンス、セシリア。」

 「主をお守りするのは執事の務め……」

 

 どこからともなく現れ、ショウさんに襲い掛かる『剣士』を『始末』したショウさんの『暗殺者アサシン』パートナー、執事のアルフォンスさんとメイド長のセシリアさんは再びどこへともなく姿を消した。

 

 「ファイムルもありがとう。あなたがいなければアルフォンスとセシリアだけじゃ手に負えなかったでしょう。」

 「いえ、敵を通してしまいお恥ずかしい限りですよ。」

 

 見た感じ地味な男性……ファイムルさん達は硬い、めっちゃ硬い。

 ショウさんとこに何人か『剣士』を通したって言っても押し寄せる『剣士』は十人以上、ファイムルさん達の倍以上の人数を盾と槍で押し止めてる。

 もしファイムルさん達がもっと大勢いれば相当な鉄壁になるんじゃないかな?とか妄想してみる。

 

 「ご主人様ぁ!ただいま戻りましたー!!」

 「クロエっ!」

 

 転送ゲート前ホールにクロエが走って戻って来た。

 クロエの後ろに8人のギルドメンバーを連れて。

 

 「すまん遅れた!やっと休出残業終わったよ。」

 「マジでビュッフェまで用意してやがる……クソッ寝過ごしちまったッ!!」

 「攻城戦でここまで用意するとか聞いたことねぇ!」

 「対人とかあんま興味ないんだけどー、これだったら参加してもいいかなー?」

 「『天使の集い』の制服着たイズミちゃんとクロエちゃん……最高。」

 

 わたしがクロエに頼んだのは、メッセージアプリのギルドチャンネルにわたしとクロエがビュッフェ前に並んだ写真をアップしてもらうこと。

 何人か参加してくれるといいなー?って思ってたけど、まさか全員が参加してくれるとは思わなかったよ。

 

 「よう来てくれはりましたなぁ。今は相手の『天空の系譜』て言うギルドが強うて、二層目から先に進まれへんさかい、苦戦してる状況どす。」

 「攻城戦終わる頃には、クロエももっとがんばって美味しい料理作りますので、みなさんがんばってくださいねー!」

 「おおーーーーーー!!」

 

 遅れて参加したギルドメンバーも、気勢を上げて転送ゲートになだれ込む。

 

 「イズミはん、クロエはん、ええ仕事してくれはりましたなぁ。ほんまに助かりますえ。参加率100%なんて、これまでになかった快挙どすなぁ。」

 「えっ!なにっ!?弥生それホント!?」

 

 弥生の話を『ビット』越しに聞いてたショウさんが『ビット』を見上げて歓喜の声をあげた。

 

 「ショウさん、クロエのおかげで来てくれたみんなが今向かってますよ。」

 「ご主人様の発案ですよー。クロエはご主人様の言うことを聞いただけなんですー。」

 

 それでもちゃんとやってくれたのが嬉しいのでクロエの髪をなでてあげると「えへへっ」と満面の笑みを浮かべるクロエ。

 もうかわいい!!

 

 「……そうか、ならばこう睨み合っていても仕方ないな。」

 

 『忍』パートナーかな?三層目から降りてきた妖精みたいな恰好をした翅の生えた小さな女の子が白衣の男性に駆け寄って何か声をかけたあと、白衣の男性は白衣のポケットから銀色のカードを取り出して、顔の高さでカードを持つ右手を握りしめる。

 

 「アイシス!オルティア!プレミオ!クー!出るぞ!!」

 

 白衣の男性の周囲に、男性が呼び出した四人のパートナーが現れる。

 

 「はい、隼人様。」

 

 アイシスと呼ばれたパートナーは、ライトグリーンの長い髪を白いリボンで束ね、ライトブルーの袴の巫女服のような衣装を着て腰には矢筒を携える、和弓を左手に持った女の子。

 

 「いいの?あたし呼んじゃっても……なーんてね。」

 

 オルティアと呼ばれたパートナーは、ダークパープルの髪をポニーテールにし、ワインレッドの和柄着物トップスを着て膝下まである紺のスカートとダークブラウンのブーツと言う大正浪漫的な出で立ちで薙刀を構える女の子。

 

 「うんわかった、ボクの出番だね。」

 

 プレミオと呼ばれたパートナーは、ブロンドのウルフカットに尖った犬耳を生やし、青い全身タイツの上に胸、腰、肩、腕、足それぞれに白のアーマーを着け肩のアーマーからは白いマントが垂れ白い大きな盾とレイピアを構える女の子。

 

 「クーがんばるにゃ!!」

 

 クーと呼ばれたパートナーは、ライトブラウンのミドルヘアーに猫耳を生やし、ライトブラウンのノースリーブシャツにデニムショートパンツ、手足にはライトブラウンの猫グローブと猫ブーツと言う武器は持っていない女の子。

 

 アイシスが呼んだのでわかったけど、あの白衣の男性は隼人と言うらしい。

 

 「よし行け!まずは目の前の三人だ!!」

 「はいっ!!」

 

 隼人の号令で四人のパートナーがカグツチとダブルドラゴン姉妹に攻撃を開始する。

 まずアイシスが他の三人の射線上から外れて横から矢を素早く連続で放つと、ダブルドラゴン姉妹がカグツチより前に出て大斧と斬馬刀で受け止めた。

 アイシスの矢を防いだのも束の間、今度は足の速いクーが斬馬刀の方に猫グローブの爪で襲い掛かってくる。

 斬馬刀の方がクーの爪攻撃を受け止めて力任せにクーを弾き飛ばすと、大斧の方がクーの着地点を狙って斧を振り下ろす。

 しかし、横から飛び出してきたプレミオの盾に防がれてしまった。

 

 「クー、むやみに突っ込んだら危ないよ?ボクが前に出るから。」

 「ごめんにゃ、でもプレミオに隠れてばかりじゃ『闘士ファイター』の名折れにゃ。」

 

 一方カグツチは炎の纏った槍での突きをオルティアに繰り出し、オルティアはカグツチの突きを薙刀で払っていく。

 長柄武器同士の戦いでダブルドラゴン姉妹とプレミオ・クーの戦いよりも互い距離が離れていることを利用してアイシスはカグツチの方に狙いを定めて矢を放ち、カグツチも反応して咄嗟に矢をかわすと今度はその先にオルティアの薙刀が待っていた。

 

 「フォローはお任せください!」

 「おっけーアイシス、助かるよ。」

 

 二対二で戦っているダブルドラゴン姉妹よりもつらい戦いを強いられているカグツチは次第に追い詰められていく。

 圧倒的に不利なカグツチの戦いに手に汗握ってディスプレイを食い入るように見ていると、突然アイシスからの攻撃が鳴りを潜めるようになった。

 

 「へへっ、コイツはぼっしゅーと……っと。」

 

 アイシスの方を見ると既にアイシスの手に弓はなく、颯爽と現れたライトブラウンのショートカット、白い鉢巻を額に巻いて白いアンダーウェアの上に青い長そでのジャケットを羽織って手には黒の指ぬきグローブをはめ、下はジーンズにダークブラウンのブーツを履いた男性がアイシスの弓を奪っていた。

 少し遅れて戦場の各所でもガシャガシャと音を立てては『天空の系譜』の『騎士』パートナー達の鎧や盾が剥がされ床に次々と落ちていく。

 

 「なっ!貴様は!?」

 「俺はクレール・ド・リュンヌ・レフレクシオン・グロス・ヴァーグ。よーっく覚えてくれたまえ。はっはっは。」

 「ん?今なんて言った?」

 

 隼人が眼鏡の位置を直しながら驚いた表情で問い、長くて覚えきれない名前の男性が名乗るが隼人が聞き返す。

 正直わたしも覚えられない。

 

 「石田君!よくやったわ!!『騎士』前へ!『剣士』は石田君の『盗賊シーフ』パートナーが剥がして回った相手の『騎士』を倒していって!!」

 「ちょっ!部長!!石田じゃなくてクレール・ド・リュンヌ・レフレクシオン・グロス・ヴァーグですよ!!」

 

 『月光が反射する小川』と言いたいのかも知れないけど『とにかくかっこよさそうなフランス語の名詞を繋げました』ようにしか聞こえない。

 まぁ、長いし呼びづらいしショウさんが呼んでるように石田君でいっか。

 

 「なるほど石田か……覚えておこう。」

 「クレール・ド・リュンヌ・レフレクシオン・グロス・ヴァーグ!!」

 

 とうとう敵である隼人にまで『石田』と覚えられてしまった石田君。

 

 「石田はんは元々手先器用でね、その上素早う動けるアバターメイクしてはるさかい、シーフみたいに動けはるんどすなぁ。おまけに『パートナーユニット』も四人みんな『盗賊シーフ』で編成してくれてまして、派手やないけど男爵はんやショウはんに並んで主力の一人どす。」

 

 石田君と石田君の『盗賊シーフ』パートナーの活躍で『天空の系譜』の防衛ラインが崩れていく中、今度は男爵さんと男爵さんのパートナー達が戦っている周辺に火の手があがる。

 

 「んもう!これ結構材料高いんだからねっ!!弥生っち聞こえてるー!?あとで請求するからー!!」

 「ラウラはん、その点は心配せんでええどすえ。使うた分はしっかり数えて請求しとぉくれやす。」

 

 さっき「対人とか興味ない」って言ってた人、ラウラさんが到着すると同時に火炎瓶を敵陣に投げまくっている。

 ラウラさんは赤く長い髪を白いふんわりアクセサリで後ろで二本束ね、ダークブルーのマフラーを巻き、服装はヘソ出しの黒いショート丈チューブトップの上に膝まである前開きの長袖コートを羽織って袖は一重折り返し、下は少しゆとりのあるワインレッドのショートパンツに黒い紐結びシューズ、ダークグレーとグレーのストライプオーバーニーソックスを履いている。

 

 弥生さん曰く、ラウラさんは錬金術師のガチャパートナー『パラケルスス』持ちで、普段は『パラケルスス』が作る薬品類を売ってのんびりしているらしい。

 『パラケルスス』は出た当初、ガチャパートナーなのに戦闘力がまるでないってことでハズレ扱い、見向きもされなかったんだけど、後に攻城戦で使える薬品のレシピが発見されてからは価値が爆上がりしているとのこと。

 肩の上でふよふよと浮いてる小さな『ちび伝承』シリーズは、そのひとつ前に出た『伝承』シリーズよりやや人気薄で安く2400ジュエル前後だけど、『パラケルスス』だけ20000ジュエルを超える上に市場にほぼ出回っていない。

 そんな超高額なガチャパートナーをラウラさんが持ってるのは、ハズレ扱いだった時に500ジュエルで投げ売りされてたのを買ったかららしい。

 

 その『パラケルスス』はラウラさんの左肩の上をふよふよと浮いている縮尺が小さい女の子で、紫色の背中まである長めの髪で片眼鏡、肩の膨らんだ短めのフレアスカートのワンピースを着てネクタイを締めた、錬金術師と言うよりは学生っぽい感じ。

 時折ラウラさんの耳元でポソッとアドバイスをしてはラウラさんが頷いて『パラケルスス』が示した場所に火炎瓶を投擲している。

 

 「うぅーあっついなぁ。こんなんじゃやってられねぇぞぉ。」

 「なら下がったらどうだ?お前とのガチもいいがどっちかってぇと砦取る方を優先したいんでな!!」

 

 わりとすぐ後ろで燃え盛る炎に集中力を欠いた力也が身体に似合わない泣き言を言い始め、次第に男爵さんが力也を抑えてラッシュを放つようになってきた。

 美鶴や時雄、オルティアとプレミオにクーも炎によって行動範囲が制限されて精彩を欠いている。

 『Ritterorden aus Silber』側はと言うと、行動が制限される範囲には火炎瓶が投げられてなく多少の熱さはあるもののそこまで影響はないみたい。

 と言うか、中でもフェニックスとカグツチに至っては上昇した城内の温度に嬉々とした様子でそれぞれの相手、美鶴とオルティアをどんどん追い詰めていってる。

 

 「くっ!ちょ、ちょっとこれ厳しい!隼人さん!!」

 

 熱さと圧迫感から息を切らし始めた美鶴が隼人に向かって叫ぶ。

 

 「こう炎が回っていては致し方なし……か。全軍後退!態勢を整える!!」

 

 隼人の号令で『天空の系譜』が三層目へと続く階段を駆け上り、やがて燃え盛る炎と『Ritterorden aus Silber』を残して静寂が空間を支配する。

 

 「ふぅ……助かったわ石田君、ラウラ、みんなも!!」

 「いえーーーーーー!!」

 

 ショウさんの労いでなんとか二階層の激戦を制したみんなから歓声が上がる。

 

 「まずこちらも態勢を立て直しましょう。ファイムルは三層目の階段を警戒して。」

 「承知!」

 

 態勢を立て直している間に『天空の系譜』がちょっかいを出してきてもいいように、ファイムルさん達が三層目へと続く階段に向かって一列に並んで盾を構える。

 

 「ラウラこれ消火できるかしら?」

 「できるよー。『パラちゃん特製消火剤』も持って来てるからね。弥生っちー!」

 

 消火を指示されたラウラさんがショウさんの上を漂っている『ビット』に向かって弥生さんの名前を呼ぶ。

 

 「あとで使うた分、請求しとぉくれやす。ちゃんと経費でまかないますさかいな。」

 

 弥生さんに経費の確認をもらい白い歯を見せての笑顔でピースサインを送るラウラさん。

 他のメンバーもパートナー達の状況を確認して労いの言葉をかけたり、銀色のカードを取り出して『ユニットチェンジ』したりで三層目に進む準備を整えている。

 

 「そろそろいいかしら?男爵頼んだわ。」

 「よぉーっし、次で勝負決めるぞ!!」

 「おーーーーーーーー!!」

 

 男爵さんの号令で全員が気勢を上げて三層目への階段を昇っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る