Re,Re,Re,Dream

七四六明

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 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ――いや、もっとだ。実際にはもっと、何度も、何度も夢に見ているはずだ。

 ただし運が悪い事に、私は9回も記憶してしまった。鮮明に憶えてしまった。夢なんてものは曖昧な存在だ。


 起きる直前まで見ていたのに忘却する。

 起きた後数分は憶えていたのに数分後に忘却してしまう。

 そんな程度の存在なのに、憶えていたら憶えていたでそれらのほとんどは悪夢と決まってる。何とも性悪な存在だ。


 そんな夢を、私は9回も記憶してしまった。

 最悪な事に。


 億、兆、京は軽く見ただろう夢を、私は9回も記憶してしまったのだ。


 始まりはいつも、火葬場から始まる。

 火葬場だ。誰かが亡くなった事は勘繰るまでもない。

 問題は、だ。


「お爺(婆)ちゃん……」


 御年一〇一歳を迎える母方の祖父。

 その祖父の面倒を見る九〇を超える母方の祖母。

 そして、聞き手を病に冒されて動かせなくなりつつある父方の祖父。

 父方の祖母は、この物語を綴る三年前に病気で亡くなった。


 私は一歩、一歩と火葬場に近付いていく。

 無論、何者かの制止を振り切って。私はひたすらに誰かが焼かれている焼却炉へと進んでいく。

 誰かが私にしがみ付いて止めようとするが、夢の中の私は構わず進み続ける。


 燃えている。

 燃えている。

 私の最愛の誰かが燃えている。

 人間の焼ける臭いは酷いと聞くけれど、私にその嗅覚はない。

 私の意識、全神経の総力が私の双眸に注がれている。


 私は灼熱の戸に手を当て、火傷するのも構わず中を見ようとする。

 中で燃えているのは、私も介護の一端を担った最愛の誰か。

 母方の祖父か、祖母か。それとも父方の祖父か。


 そんな事を考えているとふと、私の背後に誰かがいるように感じて振り返る。

 見るとそこに立っているのは、小柄な骸骨。骸骨で誰か判別するのは難しかろうが、私にとっては難しくない。何せ私は過去、骨格標本を除いては、本物の骸骨を見たのは一度だけだから。


「婆ちゃん……」


 三年前に亡くなった、父方の祖母。

 認知症を患って私の事もわかっているのかいないのかわからなかったけれど、私が会いに行くといつも笑顔で手を振ってくれていた祖母だ。


 怨んでいるのか。私が、憎いのか。


 確かに私は当時、コロナという感染症を理由にあなたとの接触を避けた。

 規制が多少弱まって、二人までなら面会が出来ると言っても、私は祖父と実の息子、娘である父や叔母に譲るばかりで、一度も会いに行こうとしなかった。

 結果、二月十四日の深夜に祖母は亡くなった。


 骸骨が何を言っているのか、唇も舌もないためわからない。

 が、私がここまで火葬場に、焼却炉に引かれるのは、私に来いと言っているからなのかもしれない。

 私に会いに来い。そう言うのか、婆ちゃん。


 だが、私にはまだ三人の祖父母がいる。

 そして実の両親もいる。

 今すぐにとはいかない。


 ――いかないが、両親の事は最悪、私よりも出来のいい弟がいる。祖父母の事が苦手で、面倒を見られない頼りない弟だが、両親から寵愛を受けている弟がいる。

 最悪両親の事は、弟に任せればいい。


 だから、もう少しだけ待っていてくれ。

 あなたの夫。そして母方の祖父母が亡くなって、私の役目が無くなったら、すぐ逝くから。

 それまで何度でも、私の夢に出て来ていい。私を呼んでくれていい。私を怨むのも、呪うのも許そう。


 どちらにせよ、後三回も近親者が亡くなれば私の心も死ぬだろう。

 それまでただ、ただ待っててくれればいい。

 三年以上も待たせてしまって婆ちゃん不幸な孫で申し訳ないけれど、せめて、後三人は見届けて――


 故に私が此の世を去る時、私はこう言わざるを得ないのかもしれない。


 あの夢を見たのは、これで12回目だった。

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