銀髪村娘と砲金のドナーブッセ KACバージョン4

土田一八

第1話 凶か吉か

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 汗びっしょりになって飛び起きた召喚術師のニコラは、ベットから出て、ネグリジェを脱いで、椅子に掛けてあるタオルで身体を拭うと、服に着替えて地下城郭に向かった。胸騒ぎのせいか、まだ、心臓はドクドクと脈を速く打っていた。



 地下城郭には魔方陣が築かれていた。ニコラは封印を解いて三重魔方陣を点検する。魔方陣は活動中で、盛んにいろいろな色に光りながら目まぐるしくクルクルと回転している。

「いよいよ最終段階のようだな」

 点検を終えたニコラは目を細めて表情を緩ませる。それから再び封印を施して自室に戻って寝る。



 あの夢を見た最初の時は――。


 えーん!えーん!


 孤児院から師匠に引き取られて最初の朝。おねしょをした時だ。


 その次は…。


 師匠が臨時雇いでパーティーを組んだ時、最初の夜営の時だった。あの後魔獣に襲われたんだったな…。私は初陣でなんとか生き残ったけれど、冒険者は全滅した。


 3回目は…。海賊だったけ。海賊だけでなく、自分が乗っていた船まで沈めてしまったのだ。師匠が。魔法が強すぎたのだ。金目のモノは魔法で全部回収したから何とかなったが、下手をすればこちらが縛り首になっていた。


 4回目は冬の山越えの時。雪男に遭遇し、雪崩で死に損なった。


 5回目はイルグランドから大陸に戻る前日だ。船に乗ろうとしたらイルグランドの魔導師団に襲撃されたのだ。返り討ちにしたけれど、師匠は深手を負ってしまい、あの時も散々な目に遭った。


 6回目と7回目はフラリスだった。フラリスもろくでもない思いでしかない。


 8回目はガリアスで魔導傭兵として対陣中だった。


 考えてみれば、ずっと師匠といた時の夢だったなぁ…。


 今回は師匠とは別行動だった。しかも銀髪ダークエルフに変身している。変身や単独行動は数え切れない程こなしているが、あの夢を見たのは初めてだった。


 凶か吉か――。


 果たして、今回はどちらだろうか。8回目までは全部凶だったがね。


 ニコラはそんなことを思い出していた。そしていつしか眠ってしまった。



 それから3日後。魔方陣の完成を宮廷魔道師団長に報告する。

「魔方陣が完成いたしました」

「思っていたより早かったな。ご苦労。陛下には私から報告する」

「はっ。ありがとうございます」


 異世界勇者召喚の儀は7日後と決まった。


 ――なら、もう少し召喚体を強化しよう。というより、召喚体に付属する物品を魔道具化することだが。異世界から縁のない人間をわざわざこちらの世界に問答無用で呼び寄せるのだから少しでも快適に過ごせるようにしてあげよう――。これは、師匠の考えだが。実際、師匠が召喚した召喚体は、スコルディアやフラリスにおいて大いに活躍していると聞く。ニコラは魔方陣を再起動させた。



 勇者召喚の儀当日。


 魔方陣から現れたのはフレアがついた短いマスケットを持った農民の娘の姿をした少女だった。


 結果として、王様は激怒して彼女を勇者としては認めず、王宮はハズレ勇者として召し放ちにした。


 そして今。ニコラは牢獄にぶち込まれていた。


 やっぱりあの夢は凶なのか――。ニコラは逡巡する。


 ギイ。その時、鉄格子の出入り口が開き、交替の衛兵が入って来た。


                                 完

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